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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の九・・・とこしえに
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第129話 さぎりの『寄り道』

 ───紀伊国の役所は、その地が余りにも穢れに満ち満ちてしまったので、残った獄舎や倉の建物も取り壊し、徴税で集めた倉に満杯の品々ともども新たな土地へと移転を余儀なくされました。陰陽師や近隣の寺社も呼んで敷地全体に結界を張り巡らし、盛大に邪気払いの祈祷が行われました。そうして浄めた上で、その地を捨てるのです。当分、ここには何も建たないでしょう。白浜の村があった浜辺の土地も同様です。浄められ、公的にも捨て去られました。住民である漁師たち自身が捨てたのですから、何も気を配るところはありませんでした。

 方角を見極め、山を二つ、三つと越え、消え残った邪気があったとしても届かぬだろうと陰陽師が判断した新たな場所が国府として選定されました。今度は山合いではなく、開けた平地です。その近辺の荘園や領民たちには、役所再開の折には少なからずを下人として募る予定であると告知を出しておきます。そうすれば、田畑を役所の用地に収用することも叶うのです。貯め込まれた徴税分がその費用に当てられたりもしました。

 さぎりが京を出て、絶対に立ち寄っておかねばならぬと思っていたその新たな地を訪ねた時、村々から大勢の人が動員されて建物の造営の真っ最中でした。お手当は十分に支払われています。領民たちにとっては喜ばしいことでした。

 紀伊国国府の何もかもが一新されるのです。本当に、前の国府の所業はなかったことになってしまいました。過去の実績や業務記録は内裏に報告されているものの、闇の部分はその土地ごと葬り去られたような形です。内裏にとってもそのような『闇』はない方がいいのですから。

 さぎりは建物が完成して役所再開の目処が立つまで、その地に留まって作業を手伝いました。ほとんど雑用ばかりでしたが。村人に紛れるつもりもないので───紛れようとしても目立ってしまうのは自分でもわかっているので、ここに立ち寄ることを京の役所に申請して手にした許可証と身分証を、すでに赴任して進捗を見守っていた新たな国司に示して、手伝いを願い出てのことです。国司も内裏の一員ではあるので、前々から武人たちに混じって宮中に出入りしていたさぎりのことを知らないわけでもありませんでした。鎧を身につけていると男たちに溶け込んでしまうさぎりは髭こそないものの、言われないとわからないかも知れません。

 そうしていく月かの月日を経て、いよいよ全体の建物が完成しました。前よりも大きな、一国の役所としては豪華な部類の庁舎となっています。『京』の権威を改めて示すかのようです。平地に移ったので敷地自体が大きく取れたというのもあるのでしょう。新たな国司も正式に着任し、皆を集めて労をねぎらうささやかな酒宴が催されました。数日内には陰陽師も再来して改めて厄払いと祈祷をし、正式な開所の日取りも決まります。これから実務的なことの準備作業でますますみんな忙殺されていくことでしょう。そんな席でさぎりは国司から直々に、役所の一員となり、村々をまわって女たちに武術の手解きをしてはもらえまいかと尋ねられました。今回の賊による皆殺しの件を受けて、男も女も、役所だけでなくそれぞれの村自体が何がしかの守りの術を持たねばならない、と京の方でも考えたようです。さぎりが『源』の一族である名のある武人の娘で、自らも武人を目指していたが、家督を弟に譲って自由の身となったと聞いて、こちらで力を試さぬか?と持ちかけてきたのです。建物の普請中の、さぎりの力強く要領を得た作業の支援ぶりにも感心していました。そのお陰で一日分の予定が日暮れ前に終わることも何度もあったのです。

 しかし、さぎりはそのお誘いを断りました。自分如きに大変もったいないお話ではありますがとして、「今は一つ所に留まるのでなく、諸国の色々なものを見てまわりたいと存じます」と。国司は残念がりました。「諸国を巡って、気が済んだら戻って来るが良い、多分、今よりもっと様々なことを学んでおろう、京のお父上もこの地で活躍しておるとなれば、お喜びになるのではあるまいか、わしも楽しみにしておる」とまで言ってもらえたのです。

 「まことにありがたいお言葉ではございますが、お約束は致し兼ねます。どうかお許しを」

 さぎりは不躾とは思いながら、そう答えてしまいました。頭を下げたまま、紀伊守がどんな表情をしているかは見ないようにして。今のさぎりにとって、人に何かを期待されるのは最も困ることなのです。

 本当は、そんなものは自分でなくてもできること、それよりも、あの『村』の、何も知らない男や女や子供たちを護ることこそ、あの村を知るという運命にあった自分に課せられた天命なのではないかとさぎりは思っていました。何ほどのことができるのかは全く想像もつきませんが、少なくとも、京が村に何事かを求めて来た時、交渉の矢面には立てるのではないかとせめてもの思いを馳せるのです。決して『武力』などで立ち向かうのではなく───。白浜の村を襲ったような賊が現れたとしても、あの村なら思いもしないような迎え討ちで撃退するかもしれない、それよりも心配なのは『京』からの権力の侵攻だ───そっちの方が恐ろしい。

 そしてそんなことがいつ起こってもいいように、そういう村人たちを大勢育てていかねばならない、とも空想するのでした。

 子供の頃から他の女の子たちとは異質な見てくれで、いつも男の子たちの中に混じって、時にはガキ大将みたいな地位に昇り詰めたこともあった・・・そんな自分はただでさえ憧れていた武人としての父の後を継いで、自身も武人として立つしか考えられなかったのです。

 ・・・にも増して、まずはお一人でおられる藤式部様のおそばに駆けつけること。

 第一歩はそこからだと決めました。


 

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