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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の八・・・回想
125/135

第125話 二つの世界

 何日間かの聞き取りを重ねて、一連の出来事の全体像は何とか見えてきたようでございます。しかし、これを一つの物語にするには、あまりにも怪しげなことが多すぎて、宮廷の雅やしかじかの事どもしか描いたことのない私は、途方に暮れるばかりでございました。

 それからは、一人でタケさんのお部屋に籠もる日々が続いております。もちろん、さぎりがそばに(はべ)ってはおるのですが。

 私は、何とかこの物語を村のものとするだけでなく、道長様のもとにも送り届け、私の無事と共に、せめて『伝説の村』の何がしかをお伝えしたいとも考えておりました。それはもちろん、村の同意を得てのことではあるのですが。そのためにも、内裏で『不評を買う』ようなものにするわけにはいかないのです。『源氏物語』を献上した身としましては、あまりに奇体なことは書けないのでございます。

 そうなると、さぎりが残ってくれたのは今となっては好都合なのでございます。最初に残る理由として従者たちが思った通りになったようです。

 私は考え続け、構想を練り続けました。しまいには桃太郎さんのお家との行き帰りももったいなくなって、結局、この建物の広大な部屋にさぎりと二人で泊まり込むことになってしまったのでございます。

 それにしても・・・サルだのキジだの亀だの、乙姫だの、玉手箱だの、海の屋敷だの、邪悪たちだの・・・ああ、ややこしい!

 夜中の夢にまでそれらが渦巻くようになり・・・

 ある夜、その渦が突然、二つの渦に分かれたのでございます。

 私は、あっと飛び起きました。

 「如何なされました?」

 隣で寝ていたさぎりがすぐに声をかけてきました。全く、さぎりは眠っていなかったのでしょうか? 音を立てたわけでもありませんのに。

 「道が開けたように思います」 私は心配そうなさぎりに向かって言いました。


 私はその朝から、早速開けた道を進み始めました。

 何も、一つで語ってしまう必要などないのです。桃太郎さんや村の方々のお話を忠実に再現すべきものでもない。日記ではなく、『物語』なのですから。すでにあまりに奇体なことは書けない、と決めてもいるのです。

 私は『源氏物語』も心の赴くまま、宮中のあれやこれやをもとに、仕事ながら自由奔放な気持ちで描いたことを忘れていたようでございます。

 桃太郎さんの物語は桃太郎さんのお話。そして、そこからあふれたものをその番外のようなものとして別の新たな主人公を立てれば良い───。

 一挙に二つの物語が生まれるのでございます。

 

 私は、桃太郎さんの物語から、海の人たち、『竜ノ宮城』の下りを放り出すことにしました。そして、新たな主人公は亀に乗って『竜ノ宮城』・・・いいえ、『竜宮城』とでもしましょうか? に連れて行かれる若き漁師・・・そう、海辺に暮らす漁師がいいですね、あの、『白浜』の海の漁師・・・かも知れません。海の物語になるのですから。なぜ、連れて行かれるのか? ・・・亀の『羅仙』・・・いえ、亀には名前などない方がいいでしょう、多分、浜の子供たちにいじめられて・・・漁師はそこを助けたのですよ。そのお礼にと、竜宮城へ・・・

 私はこちらのお話の方が先に先にと筆が流れてゆくのを止めることはできませんでした。

 

 私はその日一日をかけて、その物語を書き上げました。もちろん、これで完成ではありません。これから何度も手直しをかけねばならないのですが・・・。

 とりあえず、桃太郎さんの物語は明日から・・・。

 桃太郎さんには、残った部分が物語の本筋となるのです。

 桃太郎さんや村の方々のお気に召すかは・・・

 ・・・いえ、タケさんも決してそういうつもりでお書きになってはいないでしょうから。


         ********


───いずれの昔にか、ある里に、翁と媼が暮らしておりました。

   翁は山へ芝刈りに、媼は川へ洗濯に・・・

   

   川上から大きな桃がどんぶらこと流れて来ました・・・


   桃から生まれた桃太郎・・・


   立派な若者に育った桃太郎は、犬と猿と雉を仲間に従え、

   鬼ヶ島へ鬼退治に───



───いずれの昔にか、ある浜の村に、漁師の若者が暮らしておりました。

   名を「浦島太郎」と申します。

   ある日、浜で子供たちが亀をいじめているのを見つけ・・・


   お礼にと「竜宮城」へと誘われました・・・


   そこでは、鯛や平目の舞おどり・・・


   乙姫様はお土産にと「玉手箱」をくださいました。

   決して開けぬように、と・・・


   浜に戻って、玉手箱を開けてしまった浦島太郎は───


         ********


 「『浦島太郎』て、誰?」

 それから幾日もたって、ようやく二冊の書物に仕上げた物語をお読みになり、桃太郎さんは素直にそう聞かれました。私はその答えも用意しておりました。

 「たまたま『玉手箱』を見つけた浜の人ですよ。砂に埋めたのなら、誰かが偶然見つけることもあるかもしれないでしょう? 桃太郎さんの知らない所で、桃太郎さんの埋めたもののお陰で起こっているかもしれない出来事も物語にしてみたのです。その人が竜宮城へ行ってもらって来たことにしてね。そして、玉手箱を開けたらどうなったか・・・。言わば・・・もう一人の桃太郎さん。どちらにしろ、桃太郎さんの身に起こったことですものね」

 「大事なとこ持ってかれてるみたいな気がする」

 「お気に召しませんか?」

 桃太郎さんはただ犬と猿と雉を連れて鬼退治に行って、宝物を持ち帰ったというお話になっているのが少々不服なように見えます。

 「でも・・・いいよ、これはこれで。鬼退治したのは確かじゃし、そこはオレとふうたらでがっつり入ってるからな。実際には宝もんなんかなかったけど・・・」 桃太郎さんは言葉を切って本を机の上に置かれました。「村に新しい物語という宝もんを持って帰って来たみたいなもんじゃな」

 「まあ・・・」

 私は、桃太郎さんから最高のお褒めの言葉を頂いた、と受け取ったのでございます。


 











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