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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の八・・・回想
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第124話 新たなる『物語』

 私が墨をすり終えると、桃太郎さんは早速出来事を話し始められました。

 それにしても、いきなり不思議なことを言われます。まず旅の道連れがいて、それは、私も知っております犬の『しろ』と、村を出るときに出会ったサルの『ふうた』とキジの『とびすけ』であるとおっしゃるのです。そしてさらには『ふうた』は人の言葉を喋るサルであると。

 「もう、創作を始められているのですか?」

 私は覚え書きを書く手を止めて問いかけました。いきなり作られたのでは、私の出番など必要ないように思えるのですが・・・。

 「ほんまのことじゃから話してるんじゃが」 桃太郎さんは真面目なお顔で言われます。

 「まさか・・・」 私は何を書くことになるのだろうかと不安になりました。

 「だって、人がほんまに竹から生まれてくるような村じゃで。何があっても不思議じゃなかろうが」 桃太郎さんは、思いついたようにこうも言われました。「よかったら、ふうたに会わしてやろうか? おもしろい言葉喋りよるぞ」 

 「・・・遠慮いたしますわ」 私は何だか気味の悪いものを感じて、好奇心などというものは湧いてきませんでした。もっと若ければ、「見せて見せて」と言うような、無邪気な気分にもなれたのかも知れませんが。

 


 桃太郎は紫式部の反応に少しがっかりしました。ふうたに天然の人と関わらせてやれるかも知れないと思ったのですが。そうはなかなかうまくいかないようです。そのうちに自分の話すことにも慣れてくれば・・・



 そうして桃太郎さんは村を出て京へ向かうところから始められました。

 ふうたたちを連れた道中のこと、『白浜の村』でのこと・・・それはあのお寺でお聞きしたことでございます。が、そこらあたりからお話が怪しげな方向へと進んで行きました。

 賊に追われて海へ落とされたあと・・・なんと、亀に乗って海の中の『竜ノ宮城』とかいうお屋敷へ連れて行かれたと言うのです! そこでは海の中で暮らす人々が呑めや歌えの大宴会!

 ・・・そんなことが本当にあったと言うのでしょうか? 

 私は桃太郎さんの創作を代筆させられているような気分になってきました。

 そして、海の人である『乙姫』からお土産にと渡された『玉手箱』・・・。

 また亀に乗って白浜の浜へ帰ってきた桃太郎さんは、得体の知れない玉手箱を開けることなく浜の砂の中に埋め・・・

 焼き尽くされた村の残骸に心を残しながらも、京への旅を続け・・・

 そうして、私たちが出会った山寺にたまたま行き当たって、一夜の宿を願った・・・

 玉手箱がどうなったかはわからない・・・。


 そこまで聞いて、私は疲れ切ってしまいました。本当の出来事として聞かされておりますので、そんな不可思議なお話を一体、物語としてどうまとめていけばいいのか、路頭に迷う心地でございます。


 それから、二日、三日とこのタケさんのお部屋に通って、桃太郎さんからお話をお伺いする日々が続きました。

 京へと向かい、道長様にお目通りし・・・

 『原本』のありかを知ることになって、それでもなかなか放してもらえない内裏の部屋から脱走し・・・

 原本のことが気になりながらも、いわゆる『神の声』なるものが聞こえて、白浜や役所の様子を確かめてみようと白浜の方へ向かった・・・

 山寺の和尚様から役所の場所を聞き、そこで白浜を襲った真犯人と見られる邪悪の集団と相対し・・・

 それからはもう、聞くに耐えない戦いの連続でございました。海の人々も加わっての『邪悪殲滅』の戦い・・・

 キジのとびすけが役所の建物を燃やし尽くしたとか・・・

 私たちが目撃した『燃える鳳凰』は実はとびすけであったとか・・・

 海の人々が邪悪たちを海へと連れ込んで、戦いの後始末をして行ったとか・・・

 もう、何が何だかわからなくなってきました・・・。


 「これで、オレの話は終わりじゃ。言うことは全部言い切った」

 私はクラクラする頭を片手で抱えつつ、桃太郎さんの言葉を聞いておりました。「終わった」と言われたのに気がつくまで少しかかり、私はふうっと息をつきました。ようやく解放してもらえそうです。しかし・・・

 大方のお話は書き留めましたものの、とりとめのないお話にも思えます。私はふと大切なことを思い出しました。

 「桃太郎さんの物語を書くのですよね?」

 「そうじゃ。じゃからオレの見たもんを全部話したんじゃ」 桃太郎さんはワクワクしたようなお顔で応えられます。

 「あなた様は、桃からお生まれになった・・・とお母様からお伺い致しました」

 私は真面目くさった顔でお尋ね申します。

 「『かぐや姫』が竹から生まれるところから描かれているのですから、あなた様も桃から生まれるところから始めた方がよろしいのではと、ふと思ったのですが」

 「そらそうじゃろう。あと先にはなるが、『かぐや姫』とオレは似たようなもんなのに、オレには物語がないというのがな。何となく納得がいかんわけよ。何でも洗濯場の川の川上からでっかい桃が流れてきたらしいが・・・オレはあんまりその辺は詳しいことは聞いてない」

 「では・・・ご両親や他の方々にもお話をお伺いしてもよろしゅうございますか? 桃太郎さんの生い立ちもお伺いしとうございますので」

 「もちろん! 『かぐや姫』も生まれた時から順番に描かれとるしな」

 何だかこだわっておられるようです。桃太郎さんは『かぐや姫』の向こうを張るおつもりでもあるのでしょうか?


 この聞き取りの間、さぎりはどうしていたかと申しますと、忠実にも私のそばを離れず、何も言わずとも村の方にお聞きして、この建物内の台所で、私たち二人の食事やお茶菓子の世話を甲斐甲斐しくしてくれていたのです。そして部屋の入口に控えていて、こちらが声をかけずとも目端を効かせて何くれとなく用を足してくれます。男武者ではこうはいくまい、と私は感銘を受けておりました。桃太郎さんが、退屈だろうから、そこらの本でも読んでみたら? と勧めてみたりもするのですが、「ご用を見逃してはなりませぬゆえ」と、姿勢を崩しませんでした。

 ・・・つまり、この三日ほどの間、私と桃太郎さんはこのお部屋に二人きりで籠っていたのでございます。さぎりに見張られているような形で。もちろん、暗くなれば桃太郎さんのお家には帰るのですが・・・朝、来る時も二人一緒ですので、私たちを見かけた若い方たちからは、何となく・・・ひそひそ話も聞こえてきそうな感じもします。しかし、桃太郎さんの物語を作るため、とはお知らせしておりますので、ついて来られる娘さんたちもいないのですが・・・。


 そうして翌日からは桃太郎さんや、時にはお母様がご一緒して下さって、桃太郎さんと親しくしてこられた方々の家を訪ねてまわりました。皆様、桃太郎さんの物語ができるということで、「何でもお話ししますぞ」と歓迎して下さいます。

 そこで、またしても呆気に取られるようなお話が出てきたのでございます。

 桃が川上から流れて来たのは五年ほど前のことである・・・

 大きな桃をナタで割ってみたら中身は水で、種の中から赤子が生まれてきた・・・

 ・・・五年・・・?

 私はまたクラクラして来ました。目の前の桃太郎さんはどう見ても二十歳前後の見目麗しき青年です。

 確かに、『かぐや姫』よりはゆっくりですが驚く速さで成長し、ある日、雷に打たれて突然、今の姿になった、と・・・。

 これはもう、嫌でも『かぐや姫』の向こうを張らざるを得ないのでございましょう。


 そして、桃太郎さんはその桃が流れて来たという洗濯場のある渓流にも案内して下さいました。この上流には滔々たる滝があるそうですが、とても私には岩場を伝って行けそうにもありません。ですので上流を仰ぎ見る感じで、岩場を豊かな水量に運ばれて流れてくる大きな桃の姿を想像するばかりでございます。

 そして、洗濯場の片隅に建てられている小さな石の祠・・・。

 跡形もなくなってしまった桃の名残りにと、ただ一つ、桃太郎さん誕生の証として造り、残されているものでした。ここで、まだ子供の桃太郎さんが祠の中のものを掻き出したときに、突然、祠に落雷して弾き飛ばされ、この姿になったのだ、と。音のない、光だけの落雷だった・・・一緒にいた子犬だった『しろ』ともろとも・・・。

 しろも・・・??? 

 ん、まあ、いいでしょう。

 とにかく、これらを素に、新たな『桃から生まれた桃太郎』さんの物語を描くのでございます。











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