第2話・図書殿で交わる~見習い呪師と見習い呪師たち~
第2章 冒険の準備は痛みを伴い
第2話・図書殿で交わる~見習い呪師と見習い呪師たち~
可動式のはしごは、簡単には動かないように留め具で固定することができるようになっている。
もちろん、その留め具は手動で操作することができる作りになっていて、アインでも何とか一人で操作できる程度の固さだった。
少し離れた場所にあったはしごを持ってきて、きちんと留め具で固定し、上り下りの途中で動かないようにする。
それから、アインは一段ずつを慎重に登って、自分の目線より高い位置の本のラインナップを確かめていく。
先ほど見たシェーヴォの記述から、気になっていることがあって探していた本は、クロードの身長よりも高い場所にあった。
幅のある棚板に乗り上げて、該当の本を取り出す。
取り出して、困ってしまった。
「……降りれない……」
本を手に持ったまま、はしごを下りるのは無理だと気づく。
「……? ……」
どうしようか……と、オロオロしていたら、何やら騒がしい声が近づいてきた。
「まったく、どうして私が今更、基礎の基礎でしかない教義の入門書を書き取らなくてはならない! 当然すべて頭に入っているに決まっている……! エルマーニ校長であればこのようなくだらない宿題など出さず、もっと有益なご指導をして下さっただろうに!!」
見ると、数人の神官呪師見習いの男女が何やら喋りながら近づいてきていた。
(……ぁ……!)
先頭を歩くのは淡いピンク色に白いメッシュが混じった色の髪をした自信にあふれた表情の少年。
十四歳のフェスタ=インパチェンスは入学から二年目で、まだ初級が修了していない。
「その通りですね! フェスタ様! 急に退任されたエルマーニ校長なら、当然、フェスタ様の素晴らしさをご存じです!」
そんなフェスタの左後ろを歩く茶髪の少年は、フェスタより少し年齢が上なのか、身長が高め。
同時に体重もフェスタの倍はありそうな体格。
「そうですよ! しかし、神官長様方にフェスタ様のすばらしさをもっと知って頂くチャンスかもしれません!!」
今度はその少年とは逆。
フェスタの右後ろを歩いているシルバーグレーの髪色をした、恐らく同年ぐらいの少年。
身長も体格もフェスタとそう変わりはないが、視力が低いのか銀縁の眼鏡をかけている。
「……なるほど、一理ある……基礎の基礎をどれだけきちんと理解し、説明できるか、は重要な証明となるな!!」
その少年の発言はフェスタの自尊心を大いに満たしたようで、応えるフェスタの声が一段と大きくなった。
「フェスタ様のすばらしさに、神官長様方が他の生徒の模範として講義なさるように仰るかもしれませんわ!!」
紅一点、彼らの一歩後ろをついて歩く少女は、恐らく初年生。
明るいピンク色のウェーブヘアが歩くたびにふわふわと揺れて、かわいらしさをこれでもかと主張していた。
「ははは……! さすがに、それは早計だろう!! 私はまだ入学して二年だ……どこかの身の程知らずとは違い、わきまえているのだよ!!」
心底楽しそうに笑う少年少女を見下ろして、アインはそっと、声をかけた。
「……あの……」
「「「「……っ……!!??」」」」
びくり、と一瞬動きが止まったフェスタたちがサッと視線だけで周囲を見る。
「……ごめんなさい、あの……」
「(……フェスタ様、あそこ……)」
もう一度、遠慮がちに声をかけたアインに、茶髪の少年が気づき、顔を向けることなく目で示す。
囁くように教えられたフェスタは、チラッと視線だけを向け、アインが棚の上から覗き込んでいるのを見つけた。
(っ!? この俺様を、見下ろすだと!! 生意気な!!)
「……フェスタ様、確か、必要な資料はあちらの棚の上の方でしたね?」
途端に不機嫌そうになったフェスタに、シルバーグレーの髪色の少年が眼鏡を押し上げながら全然違う方向を指す。
「は? ……っ! そうだったな!! はしごを持っていかねばなるまい!!」
「ぇ? ぁっ! そうですね!! では移動させましょう!!」
一瞬戸惑ったフェスタは、すぐにその少年の考えを悟ると、ややわざとらしいほどの声で頷く。
その物言いでようやく理解した茶髪の少年が、アインが固定しておいたはしごに近づき、留め具を外す。
「……ぇ……? ぁの……っ!?」
驚いてアインは声を上げるが、彼らは気づかないフリをした。
「さ、行きましょう。時間は有限です!!」
「うむ! そうだな!!」
少年たちはそう言ってはしごを別の棚の方へと持って行ってしまう。
何度かアインは声をかけるが、一度も彼らが応えることはなかった。
「………………」
最後に、棚の向こうに消える前に、微かに振り返った少女だけが一瞬アインと視線を合わせたが、彼女も薄く嘲笑うような笑みを見せただけで少年たちと共に去る。
棚の上に取り残されてしまったアインは……
「……お忙しい、のかな……?」
ぽつりと呟くと、仕方なくその場に座り込んで本を開いた。
第2章第2話をお読みいただきありがとうございます。
はしごを使って上段に登ったものの、降りられなくなってしまったアインのもとへやって来たのは、名門出身の見習い呪師たちでした。
彼らは助けるどころかはしごを移動させてしまいます。
相手を悪く思うこともなく、本を読み始めるアインのちょっとズレた(?)反応が、いかにもアインらしいですね(笑)。
果たして棚の上に取り残されたアインは、この後無事に降りることができるのか?
次回もお楽しみに!
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