第4話・検証結果の結論は~機能し得ない同行者たち~
第1章 死出の旅路に生存の術を
第4話・検証結果の結論は~機能し得ない同行者たち~
とりあえずの検証結果を受けて、この場に集まった全員の表情が暗く沈む。
「結論を言うぞ」
重々しく口を開いたシリウムが何を言うのか、全員が理解した上で耳を傾ける。
「まず、インス。お前は一切魔法を使うな。できうる限り、感情で魔力を動かすことがないようにも注意しろ」
「分かりました」
「……っ……!?」
言われてごくあっさりとインスは頷く。
その腕に抱かれたアインが、何か言いたげに一瞬だけ顔を上げる。
だが、何も言えないままに俯いてきゅっと、小さな手を固く握りしめた。
「もし、どうしても魔法を使う必要に迫られた場合は、アイン……」
「っ……!!」
視線を向けられ、名を呼ばれて、びくりとアインの体が震える。
「その場合はお前が使え。インスは崩れはするが耐えきれた……負担がかかるのは間違いないが、まだマシだ……」
「……で……っ!」
「お前は意識を飛ばしただろう?」
「……っ!?」
思わず反論しかかったアインを遮って、きっぱりと言われて唇を噛む。
一瞬とは言え、意識を飛ばしてしまったのは確か。
しかも、今は安全な場所で、初級の魔法を使っての検証だったにもかかわらず、だ。
実際に討伐隊として旅路に同行させられ、戦闘中にそんなことになったら……
(……ぼ、くが……インス、さま……を……っ)
危険に晒してしまう。
いや、危険に晒すどころか、その結果、インスの命を危うくしてしまうかもしれない。
それは、それだけは嫌だ。
「それと、インスとアインの二人には医学の基礎を学んでもらうことになるだろう……インスは、基礎を修めているという話だが、実際のところどの程度なのかの確認と、不足している部分を徹底的に詰め込む……アインも、インスの助手として付ける程度には習得させる予定だから、覚悟しておけ」
許可を得てからにはなるが、と前置きした上で告げたシリウムの言葉には二人とも素直に頷く。
それしか生存率を上げる術がない以上、個人的な感情やら何やらはこの際置いておくしかない。
「……その後、アインの野営訓練が行われる……その結果を待って……」
皇女殿下の極秘討伐隊の出立日が決まるだろう。
「「「「「……………」」」」」
そう締めくくったシリウムの言葉に、全員が暗い表情のままで頷く。
死出の旅路への同行などごめんではあるのだが、辞退する術がない。
だからこその呪いの検証であり、許可を得ての医学の詰め込みであり、十五歳にもなっていないアインの野営訓練だ。
「……つまり……」
言いながら、シリウムの視線が向いたのは護衛官であるクロードとステールの方。
「こいつらは二人とも、すぐに死にかねない荷物だと思え。しかも、お前たちはその荷物を生かすのが役目になる」
「「……………」」
言われて、クロードは無表情のままこくりと頷き、ステールは絶望的な表情で天を仰ぐ。
「……言い方……」
「黙れ。目を離すと、どころか気を抜けばすぐに死にかねない荷物に違いはない」
ぼそっとインスが文句を口にすれば、ぎろりと睨んだシリウムは重ねて言い聞かすようにその言葉を繰り返す。
「油断すると勝手に自滅しかねないからな……ファン卿やリオンにも言い聞かせておけ。ジャネット皇女は言うだけ無駄だろう」
「…………言い方……」
ふんっ、と鼻で息を吐き、護衛官の二人にも重ねて申し送れば、再びインスがぼそりと呟く。
シリウムの物言いは聞く者が聞けば不敬とそしりを受けかねない。
ただ、インスとしてもジャンヌに関しては全面的に同意だ。
言われたクロードとステールはどう反応すればいいのかと困っているようだが、知ったことではなかった。
「……大変だな……」
チェスパスが、憐れみと同情の籠った眼差しでクロードとステールを見る。
よくよく考えると、まともに機能するメンバーがこの二人しかいないことに気づいてしまった。
まず、旅立ちを誰よりも何よりも望む十六歳のジャンヌは世間知らずの箱入り皇女。
時折、皇都に散策には出ていたが、それも、本人は知らずとも安全対策をされた上でのこと。
大人たちの掌の上で……箱庭の中で冒険ごっこをしていただけ。
それなのに、自分は何でもやって見せると意気込んでいる。
次に、極秘討伐隊の実質的なリーダーとなるのであろう、ジャンヌの護衛騎士団長ファン卿ディアス。
確かに、騎士団に所属している以上は見習いの時期もあり、そこで様々な経験も積んではいる。
けれど、彼もまた侯爵家の子息として優遇されていた世間知らずな十九歳のお坊ちゃん。
現場での経験が皆無と言う訳ではないが、早くに騎士団長になってもいるので、どちらかと言えば書類仕事の方が得意なやっぱり箱入り。
そして、もう一人であるリオンは、赤髪で生まれたがゆえに生まれてすぐに親には捨てられ、クロードに拾われた孤児。
迫害と差別の中で反骨精神たくましく育ちはしたが、神殿孤児院という……最悪よりはずっとましな環境にいた。
おかげで様々なことも学んでいるので、皇族や貴族の二人よりはマシとは言え、それでもまだ十七歳の……箱庭育ちの青年。
そこに、呪いで魔法が使えない呪師である、弱冠十八歳のインスと公式五歳の幼児アイン。
どう考えても二十四歳になったばかりの神殿護衛官クロードと、最年長、三十一歳の皇宮護衛官ステールへの負担が大きすぎる。
「「……………」」
チェスパスの言葉でその辺りにも思い至ったのであろう。
一気に二人の顔色が悪くなる。
「……失礼な……」
そんな年長者たちの様子に、それはそれは不服そうにインスが呟く。
魔法が使えないからといって、何の役にも立たないように思われるのは流石に癪だ。
「そう思うなら、死ぬ気で医学ぐらいは習得しろ」
そんな様子に、にやりと笑ったシリウムの表情が嗜虐的な色を帯びていて……
何をさせる気かと、インスの顔が微かに引き攣った。
第1章第4話をお読みいただきありがとうございます。
検証の結果、インスは魔法使用を禁じられ、代わりに「医学の習得」とアインの「野営訓練」が命じられました。
魔法が使えなければ「すぐに死にかねない荷物」と断言されてしまった二人。
しかも、討伐隊の他のメンバーも箱入り育ちばかりと突き付けられた、クロードとステールの絶望感……。
重苦しい空気の中にも、インスのツッコミやシリウムの嗜虐的な笑みなど、彼ららしいやり取りが垣間見えたお話でした。
出立に向けての準備がいよいよ本格化していきますが、果たしてどうなるのか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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