第3話・笑顔の般若の視線に刺され~思いとは裏腹の情けなさ~
第1章 死出の旅路に生存の術を
第3話・笑顔の般若の視線に刺され~思いとは裏腹の情けなさ~
インスと入れ替わりで簡易ベッドに上げられたアインは、横になるように言われて首を傾げる。
「お前が初級の魔法を使っただけで、インスがあれだけ崩れたんだ……身体の小さい、軽いお前にかかる負担はそれ以上になるだろう」
「そ……っ! だ、大丈夫です。ちゃんと、頑張れます」
自分より、インスの方が魔法を使うのに、自分が我慢できないのでは意味がない。
チェスパスに言われて必死に返すが、全員が厳しい目でアインを見つめた。
「……………」
「アイン君……」
グッと唇を噛んで俯くアインの目線に合わせるように、床に膝を着いたインスがふわりと微笑んで、そっと頭を撫でる。
「頑張るのはいいですけれど、無理はしないで下さい……ちょっとでも痛かったり、苦しかったりしたら、ちゃんと教えて下さいね……我慢しなくていいですから」
「っ!? で、でも……っ!!」
「バカを言え。どこまで許容できるか確かめる必要があるんだ。多少無茶でもやらせるに決まってるだろう」
インスの物言いに、反論の言葉に詰まったアインと違い、若干呆れた様子でシリウムが口を挟む。
コクコクと無言で頷くアインの頭を撫でながら、インスが射殺しそうなほどの殺気を込めてシリウムを睨んだ。
「実際問題、どうしても必要になった時に迷うわけにはいかないだろう」
気持ちは分かるが落ち着けと、チェスパスが言えば、ムッと押し黙ったインスは不満そうに溜め息を吐く。
「……その場合は、アイン君に使ってもらいます……」
「……ぇ……?」
呟くような小さな声に、アインが目を見張って絶句した。
それに、少し困ったように微笑んで、インスは立ち上がる。
部屋の中央には、先ほどアインが使った『薄明』の魔法で発生させた明かりがまだ残っていて、ぼんやりと辺りを照らしていた。
「……継続時間のある魔法は、発動させる時だけで、維持に魔力を注ぎ込むわけではないので、問題なく持続するようですね……」
それを目にしてインスが言えば、シリウムが視線で体調を問いかける。
「一切ありません……つまり、発動時まで堪えきれれば、多少は使える、と言うことでしょう」
「……なるほど……」
元々、一定時間、自動的に継続するような魔法であれば、発動させる時に魔力を動かすだけ。
その時に注ぎ込んだ……動かした魔力分の苦痛には襲われるが、発動しきってしまえばそれ以上の苦痛は続かない、と言うこと。
ほんの僅かな光明と言えばいいのか……
「……つまり、一度に必要になる魔力量に応じて、苦痛の強さも変化する可能性が高い、と言うことですね……大きく魔力を動かす必要があるような、上級魔法や高位魔法は絶望的、と言う訳です」
逆を言えば、そういうこと。
インスの言葉に重々しく頷いて、シリウムは魔法を使うようにと促した。
「……………」
溜め息を一つ、インスがゆっくりと呪文を唱え始めると、途端にピクリ、とアインが身を震わす。
「続けろ」
思わず口を閉ざしたインスに、シリウムが冷徹に告げれば、僅かに唇を噛んで、インスは詠唱を再開した。
「……っ……。……ぅ……っ」
どんどん息を乱して、寝かされた簡易ベッドの上で身体を小さく丸めて、アインは必死に痛みを我慢する。
その様子に、インス自身も青ざめて、まるで自分が苦痛に襲われているかのように顔を顰めた。
けれど、止めようとすればシリウムが鋭い声で続けるように促し、グッと奥歯を噛みしめてインスは詠唱を続ける。
きゅっと、限界まで体を小さく丸めて、微かに震えるアインを視界の端に捉えたまま、合図の言葉を口にする。
「陰影……っ!?」
「……ぎ……っ!?」
途端にビクンっと身体を跳ねさせたアインが短い悲鳴を上げ、くたりと力を失う。
その瞬間に来たパチリと弾けるような痛みに、インスも一瞬、顔を顰めた。
「っ! アイン君!!」
ハッとしてインスがアインを見ると、ほんの一瞬、意識を失っていたらしいアインが荒く息を吐きながらポロポロと涙を零し、必死に腕で拭っている。
「アイン君……! 大丈夫ですか!?」
駆け寄ったインスが声をかけるが、アインは無言で頷くだけ。
容体をチェスパスが確認して、問題なさそうだと告げる。
「……ごめ……なさ……っ。ぼ……く……っ」
もっと頑張れる、我慢できると思っていたのに、全然で、情けなさに涙が止まらない。
「何を言っているんですか……言ったでしょう? 我慢しなくていいです、と……」
そっと抱き起して、アインを抱きしめるインスの方が顔色が悪くて、痛みに一瞬意識が飛んでしまったアインはむしろ興奮しているのか顔が若干赤くなっている。
「……跳ね返ったか?」
「……一瞬ですけれどね……魔法に失敗した時や、強制的に阻止された時の魔力の跳ね返りのような感じでした……」
泣いて謝罪を繰り返すアインを宥めながら、確認してきたシリウムに答える。
魔法に失敗した時、あるいは、何らかの要因で邪魔をされた時に、使った魔力が自分に跳ね返ってくることがある。
その時に受ける衝撃と似たような現象が起きていたのをインスは体感していた。
「……なるほど……」
頷いたシリウムは、手元の記録書類に検証結果を書き記して行く。
「……次はもう少し、魔力量を増やした検証を行いたいが……」
書きながら呟くように言うと、極寒の殺気が射貫く。
「……………」
無言で睨みつけるインスはそれはそれは素晴らしい笑顔を浮かべていて、視線の強さと、そこから来る殺気と、表情の落差が激しい。
「……今は、やめておこう……」
その視線から目をそらして、シリウムはそう結論付けた。
第1章第3話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、アインが呪いの苦痛を受ける過酷な検証に挑むお話でした。
痛みに耐えようと必死なアインと、無理をさせまいと優しく宥めるインス。
そして、容赦なく更なる検証を提案するシリウムにインスが向けたのは「極上の笑顔と極寒の殺気」でした。
重苦しい空気の中での検証実験、彼らは最終的にどのような結論を出すのか?
次回もお楽しみに!
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