第2話・薄明かりが齎す苦痛~襲われたのは痛みではなく~
第1章 死出の旅路に生存の術を
第2話・薄明かりが齎す苦痛~襲われたのは痛みではなく~
アインは部屋の中央に移動させられ、対してインスは壁際に設置された簡易ベッドに座るように言われる。
「大げさじゃないですか?」
「大げさじゃない」
「大げさではないな」
別に、近くに立っていても大丈夫なのに……というインスに対し、シリウムとチェスパスはそれぞれにそう返す。
「お前が魔法を使おうとして跳ね返りで気絶したのが一回。アインが魔力を動かした結果、嘔吐してしばらく動けなかったのが一回……体内で魔力が動いただけでそのざまだ……アインが魔法を使おうとした結果、その場で倒れて頭でも打たれては困る」
「そういうことだ」
ぎろりと睨むシリウムの説明に、重々しくチェスパスが頷けば、インスは軽く肩を竦めて素直に簡易ベッドに腰を下ろした。
対して、話が聞こえてしまったアインは、真っ青になってオロオロと大人たちの様子をうかがっている。
「よし。アイン。初級白魔法の『薄明』を使え」
「は……はい……」
インスが腰を落ち着けるのを確認し、シリウムが指示を出す。
使う魔法は手元に明かりを灯す白魔法。
緊張しながらも頷いたアインは、ゆっくりと深呼吸して心を落ち着けようとする。
けれど、自分が魔法を使おうと魔力を動かせばインスが苦しむと分かっているので、どうしても落ち着ききれない。
半泣きになりながらも、アインはゆっくりと呪文を唱え始めた。
「……っ……」
途端に、身体の奥を突き上げる様な……厭な苦痛が生じるが、インスは一切表情を変えない。
チラチラと様子を見ながら魔法を構築するアインと、表情は変えていないが微かに体に力を入れているインスをシリウムとチェスパスがそれぞれに観察する。
「……薄明……」
アインが合図の言葉を口にした。
「……っ……!?」
その瞬間、インスが目を見開く。
両手で口を押え、前屈みになり、堪えきれない吐き気に嘔吐いた。
「っ!? インス様っ!!」
アインが悲鳴を上げ、咄嗟に抱き止めたチェスパスの手を、なぜかインスは振り払う。
「……は……?」
戸惑ったチェスパスの前で床に崩れ落ちたインスはそのまま嘔吐し、慌てて周囲に全員が集まるが、手を伸ばして支えようとすればインスは乱暴に振り払って触らせようとしない。
「……いんすさま……っ」
左目が見えなくなってしまった結果、一人では歩くのにも支障をきたすアインがふらつきながらも最後に寄ってきて、涙を湛えた瞳でインスを見つめた。
「……っ……。すみ、ま……せ……っ……だい、じょ……」
「無理はするな」
ややあって、落ち着いてきたらしいインスが肩で息をしながらようよう言うと、シリウムは水の入った水筒を差し出す。
素直に受け取って、インスは口の中を洗う。
「……で、どうだった?」
汚れを水魔法で洗浄したシリウムが問いかけると、インスは何とも言えない、厭そうな顔で視線を逸らした。
「……苦痛自体は、体内で魔力が動いた時よりマシですね……ただ……」
「ただ……?」
ぼそぼそっと、呟くように答えたインスが途中で口籠る。
促したシリウムはインスが睨んでいるのに気づくと溜め息を漏らした。
今は言いたくない、と言うことらしい。
「……分かった。今は聞かない……で、お前は魔法を使えそうか?」
これだけ崩れた状態で魔法が使えるか?
問いかけに、インスもそっと、溜め息を吐く。
「それは、大丈夫ですが……」
言いながら、いまだ泣きそうな顔でインスを見つめるアインに視線を向けた。
目が合った瞬間、びくりと震えて、後退りかけたアインは、バランスを崩して後ろに転びそうになる。
「「……っ!?」」
あっと、小さく声を上げたアインと、咄嗟に抱き止めようと手を伸ばしたインスがその手を掴む前に、アインの横に立っていたクロードが片手で背中を支えて転倒を防ぐ。
「「……………」」
「……ぁ……ありがとう、クロード……」
一瞬遅れたインスの動きは途中で止まり、転ぶのを免れたアインは体勢を立て直すとクロードを見上げて礼を告げる。
クロードは無言で頷くだけだったが、その眼差しは心配していることを伝えていて、ちょっと困った様子でアインも微かに微笑んだ。
第1章第2話をお読みいただきありがとうございます。
ついに実行された検証実験。
アインが初級魔法を使った結果、インスを襲ったのは苦痛……とは少し違うようで?
それでも、ただの初級魔法を使っただけで崩れ落ちてしまったインスと、その姿を目の当たりにして悲しみと恐怖に震えるアイン。
二人に刻まれた「呪い」がどれほど残酷で厄介なものなのかが、はっきりと突きつけられたお話でした。
重く息苦しい空気が漂う中、果たして検証はこのまま進むのか……?
次回もお楽しみに!
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