第2話・足りない覚悟のその上で~心に決めるは一方的な~
第7章 重い事実とあたたかな
第2話・足りない覚悟のその上で~心に決めるは一方的な~
曾祖父であるキプラに、覚悟を問われたシプラは、もちろん本気で覚悟を持って話を聞く体勢を整えていた。
けれど……
(……は……? ……え……? ……なん……っ!!??)
淡々と、一切の感情を排して、五年前の皇宮での「事件」からキプラが復帰の勧告を辞退した理由までを時系列に沿って語られて、シプラの顔から血の気が引く。
覚悟、なんて全然足りなかった、とんでもない事実の数々に真っ青になって震える。
「……つまり、お前が糾弾した『あの子』は、私にとっては大恩人だ……そんな相手を、誰であれ悪く言うことは絶対に許さん」
「……っ!!」
最後に、厳しい口調で断言されて息を飲む。
その通りだ、と心底納得できた。
納得出来たらできたで、更に顔から血の気が引いて、冷や汗が止まらない。
(……俺は……なんてことを……っ!)
先日、図書殿で偶然会ったアインに対して投げつけた言葉の数々を思い出して激しい後悔に襲われた。
「……シプラ……お前は、何のために神官呪師を目指した……?」
「……ぁ……俺、は……ひいお爺様を……ひいお爺様が……」
口調を改めたキプラの問いかけに、半ばうわ言のように呟く。
「……そうか……ありがとう……」
「っ!? 俺はっ!! 何も……っ!!」
穏やかに微笑んだキプラに、息を飲む。
何も、できなかった。
五年も苦しんでいた曾祖父を助けることも。
むしろ、その曾祖父を救ってくれた相手を、詰って、罵倒した愚か者でしかない。
「……いや。お前が私を想い、努力したことに違いはない……きっと、あの子がいなければ、お前が私を救ってくれただろう……」
「っ! でも、それは……っ!!」
それは、曾祖父の命まで、救えたかどうかわからない。
間に合ったかどうかすらも……
せいぜいが、その魂を、解放できたかどうかだけで、それだって、成功したかどうかわからない。
ただの、自分の自己満足だけで終わっていた可能性の方が高かった。
「……だが、そうか……お前の様子を見るに、あの子は呪師寮で、孤立しているのではないか?」
「……っ!!??」
憂うように問いかけたキプラの言葉にハッとする。
確かに、アインは呪師寮で孤立している。
確実に様子を気にかけているのは世話係になっている同室の兄弟子であるペルフィーだけで、それ以外の者は噂程度に知っているだけ。
そして、その噂だけで批判や非難の対象にされている。
(……そう言えば、何でアインは、図書殿で書棚の上なんかにいたんだ……?)
そうして、漸く気付く。
近くにはしごもないのに、書棚の上で本を読んでいたアインが、なぜ、その状況になっていたのかを。
魔法で書棚に上がった?
ありえない。
今さっき、曾祖父に聞かされた話からして、アインが魔法を使った、なんてことはあり得ないし、例え問題なく使える状態であったとしても使うはずがない。
つまり……
(……俺が図書殿に行くより早く、図書殿でアインに会った者がいるんだ……そして、わざとはしごを移動させて、降りられないようにした……)
あまりにも幼稚すぎる嫌がらせ。
それを目の当たりにしておいて、気づきもせずにひたすらアインを責めたのだから救えない。
「……ひいお爺様……」
「……………」
すっと、姿勢を正したシプラがキプラを見据える。
その、何やら決意に満ちた眼差しを、正面から受け止めて、キプラは無言でシプラを見やった。
「……俺は、不当にアインを責めました。何も知らないくせに、勝手な思い込みで……」
「………………」
「……謝って済むような話ではないと思っています。けれど、まずは、誠心誠意、謝罪します……」
「……そうか……」
真剣に言うシプラに、ふっと、キプラは表情を緩める。
「……はい。その上で……」
しっかりと頷いて、シプラは話を続けた。
「ひいお爺様の仰る通り、アインは、呪師寮内では孤立しています……気にかけている生徒は同室の世話係をしている先輩だけでしょう……先生方はもちろん別です……」
「……そうだろうな……」
シプラの説明に、少し苦い顔をしてキプラも頷く。
(……あの子に、無理なスケジュールを強いたのも私だ……呪師寮内で誰かと交流する時間など、欠片も与えられていなかっただろう……それでも、世話役だけでも気にかけていてくれたのは幸いだな……)
アインが孤立している原因の一端も、自分にあると理解していた。
「よく知りもしないくせに、嫉妬でくだらない真似をしている者もいるようです」
「………………」
続けられた言葉には、キプラの眼差しがスッと細くなり、険を宿す。
「……だから、俺は……」
「……………」
ぎゅっと、両手の拳を体の横で握りしめ、真っ直ぐにキプラに向き合って、シプラははっきりと決意を伝える。
「……そうか……」
「……はい……」
その決意を、キプラはただ静かに認め、シプラもまた、静かに頷いた。
第7章第2話をお読みいただきありがとうございます。
キプラから語られた真実により、アインへの誤解が解けたシプラ。
同時に、図書殿でアインが置かれていた状況の「本当の意味」に気づき、自分の行動を深く恥じることになります。
真実を知った上で、自らの意思でアインの助けになることを誓うシプラの決意が、今後どう関わっていくのか……?
次回もお楽しみに!
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