第3話・天才たちが奏でる調べ~野営料理の域を超えた~
第5章 雪下の宝を散りばめて
第3話・天才たちが奏でる調べ~野営料理の域を超えた~
てんこ盛りの採取物をステールに運んで貰い、野営拠点に戻ると、インスとアインはさっそく昼食づくりに取り掛かる。
まずは下処理。
塩まみれの干し肉の塊は薄く削ぎ、根菜は洗って皮を剝くと、アインでも一口で食べられるように小さく、けれども均一に切っていく。
他にも、採取してきた雪下草と寒球草も大きさを揃えて、小さな四角形に切る。
干し肉を小鍋で一度煮立たせ、その煮汁は破棄して改めて少量の水と弱火でじっくりと煮出した。
一部は敢えて取り置いて、細かく刻んでおく。
まずは根菜を軽く炒め、大鍋に投入。
改めて、細かく刻んでおいた干し肉と、手で裂いた寒冷茸を炒める。
これも、途中で二つに分けて、片方には下茹でしておいた雪下草と寒球草を加えた。
インスが作業をしている間に、アインも自分のできることを頑張る。
まずは、黒パンの上の方を切り落として貰った中身を、穴をあけないようにくりぬいて器を作る。
他にも、寒冷茸を手で裂く作業や、スノレルの葉脈を丁寧に取り除き、少しだけミルクを吸わせたくりぬいたパンを器の底に敷き詰めて漏れない工夫もしていく。
インスが雪下草と寒球草を加えた方のソテーに、少量のスープベース、ミルクと細かく削ったチーズ、そしてそこにパンペーストを加えたソースを投入し、ひと混ぜしたものをアインがパンの器に丁寧に盛り付けて行った。
その間にも、弱火でじっくりと煮込むスープの灰汁を丁寧に取り、パンの器に盛ったソースの上にはたっぷりと削ったチーズを乗せる。
蓋付きの鉄鍋に入れて熾火を乗せ、焼き上がりを待つ間に残るソテーを乗せる黒パンも焙っていく。
そうして、力仕事はすべてステールとクロードに任せ、繊細な作業はインスとアインが行って……
「はい。完成です。干し肉と寒冷茸のソテーのタルティーヌ、黒パンの具だくさんグラタン……それと、ステールさんが作ったどろしおと全く同じ材料のみで作ったコンソメスープです」
「「………………」」
出来上がったのは、屋外料理とは思えない、本格的な料理の数々。
まず、干し肉と寒冷茸のソテーのタルティーヌ。
持ち込んだ干し肉を薄く切って塩抜きを行い、同時に獣臭さも消して、手で裂いた寒冷茸を極僅かに溶かし出したチーズの油で炒めたものを、厚めに切った黒パンを焙った台に乗せたオープンサンド。
次に、黒パンの具だくさんグラタンは、タルティーヌ用のソテーを作る時に余分に炒めておいたソテーに、下茹でした雪下草や寒球草を加え、白いソースと合わせて黒パンの器に詰め、たっぷりのチーズを乗せて屋外用の簡易オーブンで焼いたもの。
そして、ステールが歯ぎしりしながら見ているのが、持ち込み材料のみで作ったというコンソメスープ。
材料は、ステールが作った時と同じ干し肉と根菜なのに、見た目も匂いも全く違う。
どうしてこんなに澄んだ琥珀色に仕上がるのか謎だ。
インスやアインからすると謎でも何でもないのだが……まあ、そういうことだろう。
「一応、おかわりもありますから、足りなければ追加で焼いて下さい……あ、クロードさんは、ご自分でやらずに言って下さい」
「……わかった……なら、グラタンはあと五つ。タルティーヌは二十は頼む……」
「まだ一口も食べてませんよね!?」
材料は残っているから……と告げたインスに対し、手を付ける前からクロードはおかわりを要求してきて、それには思わず声を上げる。
せめて、食べてから言って欲しい……と呆れた様子で要求された追加分を仕込んだ。
「……作っている時から、匂いが違った……」
「……確かにな……」
食べなくても分かる、旨いやつ。と真顔で頷くクロードに、ステールも悔しいが同意する。
「とりあえず、いただきましょうか……」
若干疲れを見せながらインスが促して、待てをくらわされていた二人は手短に食前の祈りを済ませるとそれぞれ料理に手を伸ばす。
それを、インスは呆れた様子で、アインは呆気に取られながら、それぞれに食前の祈りを捧げて食事を開始した。
まずは、スープをひと口。
澄み切った琥珀色のスープの具材は、昨夜と同じ、干し肉と根菜のみ。
けれど、丁寧に下処理をし、灰汁を取って、火の通り方までも気を使って仕上げたスープは一切の雑味もなく、ほっと安心するような、極上の滋味を感じさせる。
ほくほくの根菜と、舌に乗せた途端にとろける柔らかさの干し肉が口の中で極上の音楽を奏でるかのように混ざり合う。
それから、タルティーヌはしっかりとソテーされた干し肉の旨味を寒冷茸が吸って、これでもかとばかりに味が凝縮されている。
表面はパリッと、中はもっちりと仕上がった黒パンとの相性も抜群で、これだけでも二十はおかわりすると言い出したクロードの気持ちもわかる。
そして、メインとなる黒パンの具だくさんグラタン。
タルティーヌ用のソテーに加えた雪下草や寒球草がほくほくのアクセントとなり、溶けたチーズと焼けたチーズのコントラストがたまらない仕上がり。
スープ以外にはスノレルで臭み消しがされており、フロンクリープはソテーに加えて独特の風味をもたらしている。
「……ん……おい、しい……です……」
「そうですね……アイン君が提案してくれたタルティーヌも、グラタンも、とてもおいしいです」
はふはふと、熱さに白い息を吐きながらアインが思わず……と言った様子で呟けば、インスもふわりと微笑んで頷く。
最初、アインはスープは違うものを提案していたのだが、インスが敢えてステールと同じ材料のみでのコンソメスープにこだわった。
曰く。
「一度、きちんとした調理を行えば、どれだけおいしくなるかを知って頂かないと、いつまでも『どろしお』のままです」
とのこと。
聞かされたアインは何とも答えようがなくて困ったように沈黙し、言われたステールは「どろしおっていうな!」と怒鳴っていたのだった。
第5章第3話をお読みいただきありがとうございます。
インスとアインの協力によって完成した、豪華な野営料理の数々はいかがでしたでしょうか?
力仕事をステールとクロードに任せ、繊細な作業をこなす二人。
あえて同じ材料でスープを作って格の違いを見せつけるインスと、それに言葉を失うステールなど、少し和やかな食事の風景です。
次回もお楽しみに!
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