第2話・雪の森の散策は~宝探しのような体験~
第5章 雪下の宝を散りばめて
第2話・雪の森の散策は~宝探しのような体験~
「さて、アイン君。どちらに行ってみたいか、選んで下さい……そうですね……昨日、着いてすぐに行ったので、馬を繋いでいる小川のある方角以外で……」
準備を整えたところで、少し考えるようにして問いかけたインスに、アインもちょっと首を傾げて考える。
野営拠点として使われるこの場所は、街道から繋がる道のある方角と、小川のある方角。
そして、自然の森へとそのまま続いている方角が二つあり、向かうとしたらそのどちらか。
「……えっと、じゃあ……」
どちらに行くことにするかを聞かれたアインは、少しだけ迷って、その片方を示す。
頷いたインスは右手を差し出し、アインと手を繋ぐ。
「では、ステールさん。お願いしますね」
「わかった」
それから、そう声をかけたインスに応えて、ステールが先に立って歩きだす。
ゆっくりと足を踏み出したアインは、一歩ずつ慎重に、くるぶし辺りまで埋まる雪に足を取られないように気を付けて後に続く。
「……そう……上手ですよ……慌てなくて、大丈夫ですからね……」
「……は、はい……」
アインの歩みに合わせて、インスはゆっくりと左に立って手を引いた。
先に立つステールは手に鈍色の盾のような物を持っていて、それで前方の雪を大雑把にかき分け、後から来る二人の歩く道を確保する。
一定の広さを確保されている野営拠点と違い、自然のままの森は木々によって遮られ、雪の積もり具合も違う。
更に、整備されているわけでもないので、雪の下には木の根が張り出していたり、障害物が埋まっている可能性もあるため、そういったことにも注意が必要だ。
ずぼっ、ずぼっ、と慎重に歩きながら、そういった注意点にも耳を傾けるアインの視線は足元に完全に集中してしまっていて、進む先は手を引くインス任せ。
そのインスも、先に立ち、雪をかき分けるステールに任せていて、本来であれば危険極まりない状況。
ただ、インスもステールも周囲の様子はしっかりと把握しており、方角も逐一確認しながら進んでいるので、迷う心配はなかった。
「……ステールさん、一旦止まってください」
「おう」
しばらく進んだところで、インスが声をかけ、応えたステールが足を止める。
え……? と焦ったアインが顔を上げると、いつの間にか周囲が木々に覆われていて、自分がどうやってここに来たのか全く分からなかった。
「……ぇ……?」
自分が遅いせいで止めてしまったのかと焦ったアインは、目に飛び込んできた光景に別の焦りに襲われる。
「え……? ……ぇ……?」
慌てて辺りを見回すと、後ろの方には点々と、自分やインス、そしてステールの足跡が残っていて、こちらの方角から来たのだということだけは分かった。
「……インス様……」
けれど、少し先の方を見れば、ちょっとした凹凸など雪に簡単に紛れてしまい、野営拠点のある場所が分からない。
不安そうにインスを見上げると、ふふ……っと、小さくインスは笑う。
「……気づきましたか? 足元ばかり見て、どこをどう通って来たか、分からなくなってしまっているでしょう?」
「……はい……」
「今は、私やステールさんがいて、どちらの方角から来たのかを把握していますから大丈夫ですけれど、もし、万が一、自分一人で方角を確認しなければいけない事態になった時に、その方法が全く分からない、では……困りますよね?」
「……はい……」
シュンとして頷くアインを慈愛に満ちた眼差しで見つめ、身を屈めたインスは、では、どうやって方角を知ればよいのか? を問いかける。
「……えっと、まず、切り株があるなら、年輪で確認できます……」
「……うん。正解……でも、なかったら?」
「……なかったら……えっと、影を見る方法と、影の動きを見る方法……があります」
それから……と、アインが次々に上げる方法を聞いて、ステールが大口を開け、目を見開く。
およそ、記憶のない幼い子供が知っているとは思えない知識がぽんぽん出てきて空いた口が塞がらなくなっていた。
対して、インスはアインの返答をにこにこと、嬉しそうに聞いて毎回手放しで褒めている。
確かに、アインが言う方法はすべて正解で、間違っていないのだから褒めることに問題はないだろう。
だが、だからと言ってその知識はどこで得た!? と、問い詰めたいほどには精巧で正確過ぎる。
「……では、アイン君。この辺りには、何か、野営の時に使えそうなものはありそうですか?」
「……野営の時に……」
ステールが唖然としている間に、話は次へと進み、問われたアインがゆっくりと辺りを見回す。
「……えっと、多分、あそこの木の根元辺りには、雪中兎の巣穴があると思います……あっちの……少し開けたところは多分、真っ白で、平らな形のキノコ……確か、寒冷茸? の群生地っぽい地形です……あと……」
「「………………」」
カヴォルの木に生る、芽キャベツのような木の芽のカヴォルコ。
細いオレンジ色の小さな大根である雪下草。
アインの拳程度の大きさの蕪、寒球草。
臭み消しに使える香草であるスノレルと、爽やかな香りが高いフロンクリープ。
薬膳茶の材料となる薄冷茸。
更には、着火剤の代わりに使えるリグム・ピグエや保温材やクッションとしても使える子猿のベッド。
他にも次々と指さすアインの様子に、ステールだけではなくインスも笑顔で固まる。
まさか、アインがこれほど正確に、色々と有用そうなものを見つけ出すとはさすがのインスも予測していなかった。
「……なるほど……では、少し採取して行って、昼食は私とアイン君で作ってみましょうか?」
「「……え……っ!?」」
ほんの一瞬だけ動揺したものの、それをきれいに押し隠したインスの提案に、アインもステールも驚いて声を上げる。
「……そうですね、まずはカヴォルコ。それから、雪下草……寒球草と寒冷茸……他にもスノレルとフロンクリープ辺りを採取していきましょう」
「……えっと……はい……??」
笑顔のインスに首を傾げながらも、先ほど名前を上げた野草や香草などであることから、アインは曖昧に頷く。
「おいおい! お前ら、料理なんてできるのかよ?」
「失礼な……少なくとも、ステールさんよりはできますよ」
そこに、ステールが大声で待ったをかけるが、憮然とした表情で返したインスの言う通り、少なくとも下処理の概念を持っているアインの方が料理はできそうに思える。
「まあ、この人数の昼食分程度なら何とかなるでしょうけれど、大人数の野営料理は流石に難しいですね……主に、物理的な問題で……」
そうは言っても、もちろん問題点も存在していて、そこに関してはインスも認めるところ。
「……物理的……」
言われて、ステールは思わず二人を見る。
せいぜい三歳児程度の体格の幼児と、すらっとした……と言えば聞こえはいいが、病み上がりの痩せた青年……
確かに、自分やクロードほどの体力や腕力など期待できそうにない。
「……なにか、ものすごく失礼なことを考えていそうな顔をしていますね……?」
「……いやっ! そんな、ことは……ないぞ……うん……」
その表情と眼差しに、思わずインスは胡乱げに睨む。
誤魔化すステールに溜め息を吐いて、三人で採取を済ませると野営拠点に戻ることになった。
第5章第2話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、ステールを先頭にした雪の森の散策です。
インスの教えに応える形で、アインが隠れたサバイバル知識と凄まじい観察眼を発揮!
雪に隠れた数々の食材や野草をあっさりと見つけ出し、同行したステールとインスを驚かせます。
そして、見つけた自然の恵みを使って、なんとインスとアインが昼食の腕を振るうことに!?
ステールの男飯とは一味違う予感がする彼らの料理は、果たしてどのような出来栄えになるのか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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【第10弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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