第5話・ある意味これが彼らの日常~朝食にはパナードを~
第4章 野営訓練の食事情
第5話・ある意味これが彼らの日常~朝食にはパナードを~
殆ど一睡もできないまま、深夜に火の番を交代したステールは、空がほんの少し、明るさを宿し始めるとすぐに朝食の準備を始めた。
流石に、今朝は雪から湯を沸かす、なんてことはせず、馬を繋いである小川から、氷のように冷たい水を汲んできて、大鍋二つを満たして火にかける。
相変わらず、洗って、適当に切っただけの根菜をポイポイとまだ水の状態の鍋に放り込み、塩抜きも下処理もしていない塩まみれの干し肉を削いで鍋に足す。
グラグラと煮えたぎってくる頃には、濁った灰色の灰汁と油が浮く、何とも言えない大雑把な塩水煮(アイン曰く、どろしお)が完成する。
「……確か、水に少し浸けておくと指でつぶせる柔らかさになる、と……」
ぶつぶつと呟きながら、昨夜クロードが摘んだ深紅の小さな粒の残り二つを水に浸け、少し待って指でつぶす。
昨夜よりも少し辛みが控えめのスープに早変わりしたどろしおに、満足げに頷くと、もう一つの鍋に少し移して味を薄める。
「後は……っと……」
残りの食材を見て、黒パンを取り出し、適当にちぎって鍋にぶち込み、味を薄めた方にはミルクとチーズを入れてまろやかに仕上げた。
「……ぅっし……」
ずず……と味を見て、にやりと笑う。
昨夜はついつい自分も食べ過ぎてしまったが、ミルク煮の方も増やしたので、今朝こそはインスに十皿は食わせようと密かに決意を固めた。
「……………おはようございます」
「うわっ!?」
そこに、何とも言えない嫌そうな声がかかって驚く。
振り返ると、いつの間に起きて来たのか、インスと、手を引かれたアイン。
その後ろに無表情で立っているクロードの姿があった。
「なんだか、物凄く嫌な予感がしたのですけれど……?」
「気のせいだ! 昨日の赤い実を入れたパナードを作ってやったぞ! たっぷり食わせてやるからな?」
「………………ほどほどにしてください……」
あからさまに嫌がるインスににやりと笑って顔を寄せると、ぎゅっと眉間に皺を寄せたインスはますます嫌そうに返してくる。
声を上げて笑いながら、温かい湯に浸けた布を絞って渡してやった。
野営訓練二日目、早朝。
今日も極寒の雪に包まれた森の中で、来るべき過酷な討伐隊への同行を見越した訓練が始まろうとしていた。
「……ステール様。干し肉、戻しましたか?」
「あ? いや……でも大丈夫だ! うまくできてるから!!」
インスに左手を引かれて起きてきたアインが、やり取りを見上げ、こてりと首を傾げる。
何のことだ? と言わんばかりに笑うステールの返答に、何とも言えない表情で押し黙り、インスも無言で顔を顰めた。
「……また、下処理をさぼったようですね……灰汁抜きもしていないどろしおでは限界がありますよ……」
「うるさい! いいから、さっさと食うぞ!!」
眉間に皺を寄せるインスを怒鳴りつけて、三人が顔を拭いた布を回収し、座れと顎で示す。
溜め息を吐きながら、各々が昨夜と同じように焚火の周りに敷かれた分厚い毛皮に腰を下ろし、ステールが器にたっぷりと盛り付けたパナードを受け取った。
アインの分はミルクパナードで、大人用よりは控えめな量。
けれど、明らかに幼児の量でもない。
「薬は飲んだんだから、食えるだろう? 食ったらまた飲め! すぐに動けるようになる!!」
「鬼ですか……」
ニヤッと笑うステールを睨んで、インスは溜め息を吐くと食前の祈りを捧げる。
気づけば、やはりクロードはさっさと祈りを終わらせて食べ始めていた。
周りの様子におどおどしながらも、アインも祈りを捧げ、そっと、両手で慎重に器を持ち上げると、膝の上に置き、片手で支えて添えられていたスプーンに手を伸ばす。
「……ぁ……」
掴もうとした手が空ぶって、かちゃりと小さく音が鳴る。
焦ったようにアインの顔が歪んだ。
「……アイン君。無理はしなくて大丈夫ですよ? はい……貸して下さい」
「え? ……ぁ……っ」
様子に、ふわりと微笑んだインスは、自分の分は一旦置いて、素早くアインの器を手に取り、スプーンにとろりとしたパナードを掬ってよく冷ます。
「はい。あーん」
「……あ、あーん……」
極上の笑顔で差し出されて、ちょっと照れたような表情になったアインは素直に口を開き、冷ましてもなお熱気を含んだパナードをハフハフと、白い湯気を吐きながら咀嚼した。
「……どうですか……?」
「ん……あったかくて、ちょっとだけピリッとして……でも甘くておいしいです……」
問いかけられて、ごくんと飲み込んだアインはほわっと笑顔になって答える。
「そう……良かっ……」
「そうか! なら、二人とも沢山食え!!」
にこりと微笑み返したインスを遮って、笑顔になったステールがまだひと掬いしかしていないアインの皿に追加を盛りつけ、お前も食えとばかりにインスの皿にも追加する。
「「…………っ!!??」」
ギョッとした二人が揃ってステールを見上げると、満面の笑みで立つ皇宮護衛官は、そのまま笑顔で無情に告げる。
「昨夜は途中で無くなったから、今朝は増やしておいた! しっかり食わせてやるからな?」
「ス、ステールさん!? あなた、本気ですか!?」
「そのための消化吸収薬だろうが? お前はまだまだ軽すぎるんだよ。もっと食え!! アインも、体力付けるには、まずは食事だ! 三皿は行け!!」
「……え……っ!?」
「無茶言わないで下さいよ! 物理的な限界があるんですよ!!」
「大丈夫だ! 食える!!」
「根拠はどこにあるんですかっ!!」
「……さ、三皿……? た、たべれる、かな……?」
ぎゃいぎゃいと言い合うインスとステールの隣で、ちょっと顔を青くしたアインが呟く。
我関せずと食事を続けるクロードは……早くも五皿目を盛りに行っていた。
第4章第5話をお読みいただきありがとうございます。
野営訓練2日目の朝食タイムです!
早朝から相変わらずの男飯を張り切って作るステールと、その出来栄えに頭を抱えるインス。
それでも、アイン用に用意された温かなパナードをインスが食べさせてあげるという、束の間の平和な時間が流れます。
しかし、アインの「おいしい」の一言がステールのやる気に火をつけてしまい、事態は思わぬ方向へ……。
消化吸収薬を盾に強引におかわりを迫るステールと、絶望するインス&アイン。
そして黙々と食べ続けるクロードという、四人四様の朝の光景です。
限界突破の朝食を終え、彼らの野営訓練はどうなっていくのか?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。
ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第10弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
――――――
ノリト&ミコト
※番外編シリーズはこちら!
https://ncode.syosetu.com/s8365j/
※本編シリーズはこちら!
https://ncode.syosetu.com/s7443j/




