第4話・凍える夜の熱烈な~滝汗流して、熱に抱かれ~
第4章 野営訓練の食事情
第4話・凍える夜の熱烈な~滝汗流して、熱に抱かれ~
インスとは違い、アインは差し出された薬瓶を素直に両手で包む。
クロードが手に持って支えたまま、アインのペースで一口分だけをこくりと飲み込ませた。
「……お前も、アインくらい素直に飲んでくれればな……」
「うるさいですよ……」
その様子に溜め息を漏らしたステールをちょっと睨むが、インス自身も自分の不甲斐なさを突き付けられた気分だ。
まだ幼いアインが、驚きはしたが嫌がるそぶりの一つも見せずに素直に飲んでいるというのに、限界以上に食べさせられるのが嫌だからと自分が拒絶していてはいけないだろう。
「……ん。えらい……」
「……インス様が、頑張ってますから……」
(………っ!?)
瓶の蓋を閉めて、軽く頭を撫でたクロードに、アインはふるりと首を横に振ると、さも当然のように答える。
その返答に、インスは心臓を貫かれたかのような衝撃を覚えて硬直した。
「……だとよ? じゃあ、頑張らなくちゃなあ? な、インス様?」
「……うるさいですよ……」
にやにやと笑うステールを睨むが、先ほどまでの強さはない。
「落ち着いたら、早めに天幕で休め」
「はい」
「分かりました」
クロードに促されて頷いた二人は、それから程なく設営された天幕に移動し、それぞれ寝袋にくるまった。
最新式の防温遮断幕で作られた天幕は、本来なら外気を遮断し、夏は涼しく、冬は暖かく過ごすことができる。
ただ、だからと言って温めたり冷やしたり、といった機能が付いているわけではない。
外にいる時のように直接風が当たることはないが、中で焚火を起こすことができるわけでもないので、体温がそれほど上がらないインスとアインでは、外ほどではないがそれでもかなり冷える。
明かりもなく、外の焚火のオレンジ色と、明かりの仄かな光が幕越しに微かに染み込んでいるだけで暗く静まり返っている。
用意された寝袋は、ほんの僅かな水分を熱に変える性質を持つ生き物の毛皮を使った最高級品。
本来なら、あっという間にあたたかくなるはずの寝袋。
だが、基礎代謝の低さで、汗も掻かないアインは、全然暖かくならなくてガタガタと震えた。
しかも、行きの移動中と馬の世話の後にもお昼寝をしてしまったので、全く寝付けない。
「……アイン君……寒くて寝られないのなら、こちらにいらっしゃい……それほど暖かくはならないでしょうけれど、人肌に触れていれば、落ち着くかもしれません……」
見かねて、インスがそっと声をかける。
片づけを終えたステールも、先に仮眠を取るために天幕に入ってきて、巨大な寝袋にくるまって横になったところ。
「……でも……」
「じゃあ、アイン君が、私を温めて下さい」
迷惑では……と遠慮するアインに、ふわりと微笑みかけて、インスは寝袋にくるまったアインをそのまま抱き寄せ、自分の腕の中に閉じ込めた。
「……ぇ……?」
「……アイン君は、温かいですね……」
キョトンとしたアインの耳元で、インスの冷えた頬の感触と、熱い吐息の囁きがして、ビクンっと体を硬直させる。
とんとん……と、軽く背を叩かれて、徐々に体から力が抜けて行った。
「……インス様も、あったかい、です……」
ほわっと、微笑んで、目を閉じたアインがインスの胸に頬を摺り寄せ、その鼓動に耳を澄ませる。
「……………」
微笑んで抱きしめるインスと、ますますすり寄るように身を寄せるアインの様子を……
(……こいつら、どうなってるんだ……!?)
暗がりの中で、気配で捉えたステールが、内心で滝のような冷や汗を掻いていたことを、二人は知らない。
ステールからすれば、知らない間に異常なほど仲を深めていた二人を、初めて目の当たりにした瞬間。
(頼むから、おかしなことになってくれるなよ!!)
そのステールの心からの叫びが聞き届けられるかは……まさしく神のみぞ知る。
そうは言ったものの、インスもアインも、どちらもそれほど体温が上がらない。
結局、二人抱き合って寝袋の中で震えているだけ。
その二人の様子にげっそりと疲れ切ってしまったステールは、ろくに眠れないままクロードと火の番を代わる時間を迎えてしまい、のそりと濃いクマを貼りつけて天幕を出て行った。
((……っ……!?))
出入り口の幕が開き、外の殺人的な冷気が入り込んだことで、ますます冷えて、お互いに縋るように抱き合う。
こちらも、とても眠れる状況ではなかった。
少しして、また幕が開き、ステールよりも上背があり、体重も重いクロードがのっそりと入ってくる。
「……………」
その際に外に設置してある明かりで見えた中の様子に、無言のまま少し首を傾げた。
「「……っ……!?」」
そして、自分の寝袋を広げると、ガバリと震える二人をまとめて引きずり込む。
「え? ちょ……っ!? クロードさん!?」
驚いたインスが声を上げ、アインも目を白黒させる。
「放してくださいっ! 何が悲しくて……!」
「……寝ろ……」
抵抗を示すインスの頭をグイっと押さえ込み、ぼそりと一言告げた。
「……あ……った、か……い……?」
「……っ!?」
インスの腕に抱かれたまま、クロードの胸に抱きこまれたアインが無意識にか呟く。
それを聞いて、インスの動きも止まる。
「……寝ろ……」
「……分かりましたよ……」
繰り返されて、諦めたように呟いて、インスも目を閉じ、身体の力を抜く。
「「「……………」」」
程なく、三人分の寝息が暗い天幕の中に響き始めた。
第4章第4話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、真冬の森の野営を舞台にした「ドタバタ就寝劇」です。
自力でテントを暖めるだけの熱量を持たないインスとアインの震える夜。
二人の異常な様子を察して焦りまくるステール。
そして問答無用で二人を暖めるクロード。
四人それぞれの個性が入り乱れる、和やかで少しカオスな夜の様子でした!
果たして彼らは無事に朝を迎えることができるのか……?
次回もお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
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