第3話・地獄のノルマの半分で~競った結果の未達成~
第4章 野営訓練の食事情
第3話・地獄のノルマの半分で~競った結果の未達成~
……嘘だろう……
と言わんばかりに愕然とした表情のステールが見ているのは空になった大鍋二つ。
片方は大人用のカジャの効いたスパイシーなスープが並々と入っていた鍋。
もう片方はそちらから少し取り分けてアイン用に……もちろんステールたち大人も味変として食べるために……鍋に半分ほどの量があったチーズ入りのミルクスープ。
インスにミルクスープを三皿、スパイシースープを二皿食べさせている間に、空になっていた。
「……そんなに俺たちも食ったか……?」
ステール自身はミルクスープは五皿分ほどしか食べた記憶がない。
だが、そう言えば、スパイシースープは何回おかわりしたかな? と考えてみたが思い出せなかった。
「ステールさんもクロードさんも、競うようにおかわりしていましたよ……」
何とか三皿目のミルクスープを飲み込んで、若干涙目になっているインスがどこかホッとしたように、けれど呆れを隠さずに言う。
正直、二皿も食べた頃にはお腹は一杯。
なのにそこから更に追加で三皿も差し出され、その度に黒パンも三つは付いて来るという地獄のようなボリューム。
無理! と何度言っても素直に食わないなら押さえつけて口の中に突っ込むぞ? と脅されれば……どうやっても逃げきれないのが分かっている。
いや、魔法さえ使えれば何とかなるだろうが……お互いに殺し合いをするわけでもないので……今のインスはアインと共に呪いをかけられている。
無理な量を食べさせられるのが嫌だから、何て理由で魔法を使って、アインに苦痛を強いることは絶対にできない。
最初は頑張って! と言った様子で見ていたアインも、三皿目としてスパイシーなスープを突き付けられたインスを目にした時には不安そうな様子を見せていた。
そのアインも、半ば無理やり二皿分……ただし、盛り付けはインスのものより控えめ……のミルクスープと、黒パンも丸々一つ、更にチーズも二切れ頑張って食べて……やはり涙目。
カジャの実の辛さと保温効果が効いているのか、身体の内側は熱いほどに温まってはいるのだが、刺す……というより、切るような鋭さを感じる冷気が、焚火に当たっていない背中側から容赦なく襲い掛かってくるせいで、二人とも少し震えている。
けれど、食べ過ぎで重い胃を抱えた状態では動くに動けなくて、インスはアインを膝に乗せ、自分はアインがお昼寝の時に使っていた毛布を分厚い外套の上から羽織って、アインごと全身を包み込んでいた。
鍋が空になってしまっている以上、今から追加を作るわけにもいかない。
諦めてステールは片づけを始めた。
その様子を尻目に、インスの膝に座って、ごくんと最後に黒パンの欠片を口に入れていたアインが漸く飲み込む。
「ん……く……るし……っ……」
けぷっと、小さく息を吐いて、苦悶の表情でお腹を擦った。
「ですよね? 苦しいですね……私もです……」
そんなアインを撫でながら、インス自身も眉を寄せ、息を吐く。
「……飲む……?」
「「……ぇ……?」」
そんな二人の様子に、クロードが荷物から小瓶を二つ取り出し、差し出した。
一体何だ? と首を傾げた二人に、クロードは無言のまま。
「…………」
一応受け取ったインスが、蓋を開けて臭いを確かめる。
「……っ!?」
そして、サッと青ざめてクロードを見た。
「……な、なぜ、コレを……?」
震える声で問いかけたインスに、
「シリウム神官長が、持って行けと……」
余計なことをっ!!
あっさりと言われて顔を顰める。
思わず内心で罵倒してしまったが、口には出していないので許して貰おう。
「……インス様、クロード……それ、何ですか?」
表情の変わらないクロードと、青ざめて震えるインスとを見比べて、アインが不思議そうに首を傾げる。
「……薬……?」
「……薬ですね……」
「……おくすり……?」
なぜか差し出したクロードは首を傾げ、インスは暗い表情で答え、その答えにアインはきょとんとして瞬きを繰り返す。
「……消化と吸収を助ける……医務殿で食事の前後に処方されていた薬液です」
「……ぁ……」
表情が抜け落ちたインスの言葉で察する。
コレを飲めば、数時間以内に消化は終わり、しっかりと吸収されて血肉になる。
つまり、数時間後にはまた食べられる状態に強制的になってしまう、ということだ……と。
「……飲む……?」
「「……………」」
再び促され、インスは苦虫を噛み潰したような微妙な表情で薬液の入った瓶を睨む。
それを、アインが不安そうに見つめてオロオロする。
「あ、あの……無理、しないで下さい……っ」
「……アイン君……」
見たことのない表情で黙り込むインスに、アインが心配そうに言えば、あからさまにホッとした様子でインスはアインを見下ろす。
しかし……
「飲め」
「は? ……んぐ……っ!?」
あらかた片づけを終えたステールが、がっと、インスの手を掴み、蓋の空いた瓶をそのまま唇に押し付けた。
「インス様!? ステール様っ! 無理に……っ!!」
慌てて声を上げるアインの前で、ステールに拘束されたインスが自らの手に持った瓶の中身を飲まされる。
ごくりと喉が鳴って、苦しげに顔を顰めたインスの目に涙が滲む。
「っ……は……っ。い、いきなり、なにを……っ!!」
「グダグダしてないでさっさと飲んで寝ろ。明日もたっぷり食わせてやるからな」
「鬼ですかっ!!」
ようやく手を離された時にはひと瓶丸々飲んだ後。
涙目で文句をつけるインスに、ステールはニヤリと笑って、まだ未開封の瓶を取り上げ、クロードに渡す。
「アインにも、一口飲ませておけ。食べ過ぎだろうが、また食わせなきゃならん」
「……ぇ……?」
「……は……?」
「……分かった……」
いきなり飛び火して目を丸くするアインと、何を言い出すのかと絶句するインスと、あっさりと頷いて瓶を開け、アインに差し出すクロードと……
日が暮れた野営地では、何とも言えないカオスな空間が出来上がっていた。
第4章第3話をお読みいただきありがとうございます。
波乱の野営初日の夕食は、ステールとクロードが競うようにおかわりをした結果、二つの大鍋が見事に空っぽに。
インスとアインも限界まで食べさせられてぐったりです。
しかし、ここで終わらないのがこの野営訓練の恐ろしいところ。
そんな彼らにクロードが差し出したのは、シリウムが持たせた医務殿謹製の「消化吸収薬」(笑)。
満腹の限界を強制突破させられそうなインスとアインの明日はどっちだ!?
次回もお楽しみに!
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