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皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞⑩~真白の森に命の雫を~  作者: norito&mikoto
第4章 野営訓練の食事情

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第2話・格差の裏に隠された~命をいただく重さを噛みしめ~

第4章 野営訓練の食事情



     第2話・格差の裏に隠された~命をいただく重さを噛みしめ~



 主にアイン用にリメイクされたスープは、ミルクを足したくすんだ薄茶色から、チーズを加えたことでとろみの付いた濃厚なクリーム色になっていた。



 インスから渡された深皿の中身を見て、それまでしょげていたアインもごくっと喉を鳴らし、一旦慎重に置くと十字を切る。



 大きく一度。続けて、その上に小さくもう一度。


 大陸の守護神である女神、ディエルの十字は二つの十字が組み合わさった複十字。



 十字を切って、胸の前で手を右手を緩く握って拳にし、それを左手で包み込むようにして祈りの形に組む。


 目を閉じて、少し俯き加減になって、ゆっくりと唇から旋律が奏でられた。



 神官呪師しんかんじゅし見習いであるアインは、食前食後の祈りも一般的に行われている簡易的なものではなく、きちんと教義に則った正式なものを捧げる。



 だから、一連の所作は神官すべてが見習いの時から叩き込まれているもの。


 更に、神官呪師の見習いでもあるため祈りの言葉も神語だった。



「「「……………」」」



 さっさと簡易的な祈りを捧げて食べ始めていたクロードも、適当に祈りを済ませて早速とばかりに頬張ろうとしていたステールも、アインの様子をやさしく見守っていたインスも、口を閉ざし、動きを止めて見入った。



 ただ、食前の祈りを捧げているだけ。



 それなのに、一瞬にして辺り一帯に神聖な空気が満ち、日が暮れて、刺すような冷気が漂う野営地が礼拝堂であるかのような錯覚を起こす。



 アインの、小さな唇から洩れる綺麗な高音が奏でる神語の祈りは、それだけで一流の音楽のよう。



「…………ぇ……?」



 祈りを終えて、すっと、その神秘的な深紫色が、夜の闇の中で黒く輝く姿を現し、まじまじと見つめられていることに気づいて驚いたように見開かれた。



「……アイン君は、きれいですね……」


「はい!?」



 ふわりと微笑むインスの言葉に、声をひっくり返して目を丸くする。



「いただきましょうか……それにしても、神官呪師側の野営訓練はこんな感じで行われているんですか? ちょっと、格差が大きすぎる気がするんですが……」


「かくさ? ……え? インス様……?」



 言いながら、インスは自分の分の器を置いて、アインの分の器を手に取る。


 首を傾げたアインが、どうする気かとますます首を傾げれば、スプーンに掬ったチーズ入りのミルクスープをよく冷まし、アインの口元へと運ぶ。



「はい、アイン君。口を開けて」


「え? えっと……はい……?」



 鮮やかに微笑むインスに戸惑いながらも、アインは素直に口を開き、ゆっくりと含まされたスープをこくりと飲み込む。



「……ぉい、しい……」


「よかった……パンも硬いですから、スープに浸してしまいましょうか」



 ほうっと、息を吐くアインに、クスリと笑ってインスはアインの分として取り分けられたパンをちぎってスープに浸す。



 その間に、一応、自分の分として渡されたスープも口にした。



「「……………」」



 様子に、クロードは無表情のまま固まり、ステールは一瞬白くなった後、とりあえず、インスがきちんと食べているかを観察することに決める。


 アインに食べさせているのは見ないことにした。



「……ん……。インス様、神官呪師側はって、どういう意味ですか?」



 スープに浸したパンを飲み込んだアインが、先ほどのインスの言葉に疑問を差し挟む。



 ああ……と返しながら、インスも胃の奥を燃やすような熱さを感じさせるスープを口にし、ちょっと遠くに視線を投げた。



 赤みを帯びた紫色の瞳に、どこか仄暗い、どろりとした濁りが浮かぶ。



「……皇宮呪師こうぐうじゅし側の野営訓練は、討伐を含む訓練なので、そもそも食材の持ち込みが禁止です……」


「えっ!?」



 抑揚の消えた声で言われて、ギョッとしたのはアインだけではなく、クロードも一瞬手を止め、目を丸くする。



「知っての通り、皇宮呪師が使う魔法は攻撃的なものが多いでしょう?」


「……ぁ、はい……」



 言いながら、口元に冷めた笑みを浮かべたインスがスープを軽く混ぜて黒焦げから救出し、薄く切って追加した肉片を掬う。



「……だから、むやみに使ってはいけないのだ、と()()した上で使うようにという訓練が行われます……」


「………………」



 言って、ゆっくりとスプーンを口に運んだインスが、肉片ごと含み、ゆっくりと咀嚼して飲み込む。


 ぺろりと、舌先で零れそうになったスープを艶めかしく舐め取り、うっすらと笑みを浮かべるのを、アインは言葉もなく見つめた。



 命を奪うということを、そして、簡単に自分も死ぬということを、心底理解させるための訓練。



 声に出されることがなかったその真意を、裏の意図を読み取って、少し顔を青ざめさせる。



「……変な話をしてしまいましたね……アイン君は、まだ気にすることはありません……さ、もっと食べて下さいね……」


「……はい……」



 にこりと笑ったインスが差し出したスプーンに満たされたクリーム色を、ぎこちなく頷いて口で受け止める。



 体の中から暖かくなる、おいしいスープ。



 けれど、それは……



 そっと目を伏せて、かすかに震える両手をキュッと握りしめる。



 生きるということは、何かの命を、奪うということ。



 誰に言われるでもなく、その真理を理解して、アインはその一口の重さを、しっかりと噛みしめた。


第4章第2話をお読みいただきありがとうございます。


今回は、アインの美しすぎる「食前の祈り」からスタートした実食回でした。


野営地を一瞬で浄化するようなアインの祈りと、インスからの「あーん」でようやくありつけた温かいスープ。


しかし、そんな心温まる展開から一転、インスの口から皇宮呪師の野営訓練の「食材持ち込み禁止」というハードすぎる実態が語られます。


それを聞いた大人たちとアインの反応のギャップ。


ただの食事風景にとどまらず、アインが「命をいただくこと」の本当の意味に触れる、少し真面目なお話しでした。


まだまだ続く野営初日の夜。彼らの食卓はどんな結末を迎えるのか?


次回もお楽しみに!


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。


ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第10弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト


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