第2話・ふれあい動物、巨獣な馬と幼子と~巨漢の馬バカは破顔する~
第3章 東の森の野営訓練
第2話・ふれあい動物、巨獣な馬と幼子と~巨漢の馬バカは破顔する~
インスはアインを地面に慎重に下ろして立たせると、自分が乗って来た……いや、乗せられてきたステールの愛馬の鼻筋を撫でる。
巨漢であるクロードとステールの愛馬はどちらも大人のインスでさえ圧倒されるような巨馬。
首だけ見てもアインの胴体よりも太く、体格は三歳児程度でしかないアインから見れば巨獣もいいところだろう。
「……………」
けれど、アインは怖れるでもなく、そっと、右手を差しだして、インスに撫でられて顔を下げている馬に近づけた。
けぶる鼻息の熱気が凍えた手を温め、そうっと、無言で促すように様子を見ているインスを真似て鼻筋を撫でる。
生き物の熱いほどの体温と柔らかさに知らずに薄く笑みを浮かべた。
「……あったかい……インス様とステール様を運んでくれてありがとう……」
「……怖くないですか……?」
囁くように告げるアインを見下ろしてインスが問うと、アインは顔を上げ、ふるりと首を横に振る。
「怖くないです……かわいい……」
ほわり、と笑うアインの様子に、インスはホッとして微笑み返した。
「っ!!?? アインっ!!」
「えっ!?」
突然ステールに大声で呼ばれ、びくっと飛び上がるように驚いたアインが振り向く。
いきなりなんだと、インスもステールを見た。
「………………」
クロードと共に設営を進めていたはずのステールが、怖い顔をしてずんずんと近づいてくる。
「……え? ……え?」
「……ステールさん、アイン君が怖がっていますよ?」
オロオロとして、インスの外套の裾を掴んだアインを抱き寄せ、宥めながら、インスは呆れた様子でたしなめる。
「! ああ……悪い……アイン、お前、馬は怖くないのか?」
「え? ……はい……怖くないです」
「そうか!」
「……っ!?」
大股で歩み寄ってきて、膝を着いたステールに真正面から問いかけられて首を傾げる。
素直に答えれば大きな声で破顔され、びっくりして肩を揺らした。
「だから、アイン君が怖がっていますよ……というか、設営はどうしたんです? クロードさんに丸投げですか?」
「すぐ戻る。アイン。馬はいいぞ? ちゃんと愛情と敬意をもって接して、きちんと世話をしてやれば応えてくれる。俺が世話の仕方を教えてやるから、やってみろ」
あきれ返った様子のインスを軽く睨み、にぱっと笑顔でアインに詰めるステールに目を丸くする。
「え……っと、お、怒って……?」
いるんじゃないの?
「なんでだよ? 俺の馬を気に入ってる奴に怒るわけないだろう? お前がちゃんと敬意をもって接しているから、こいつも嫌がってないし……」
大声で呼びかけ、怖い顔(真顔)で近づいてきて、ずいっと顔を寄せられて……どう見ても勝手に愛馬に触られて怒っていたようにしか見えないステールの様子と、今、告げられていることが一致しなくて少し混乱する。
「で? やってみるか?」
「ステールさん」
ごそごそと、近くに置いてあった馬の手入れ道具を取り出したステールを、インスが冷ややかに呼ぶ。
「……なんだよ……?」
「さっさと設営を終わらせてください。アイン君も私も凍えて死ねます」
面倒そうにインスを見たステールに、全く笑っていない笑顔で言うインスにウっと、詰まる。
「とりあえず、私が教えてやってみて貰いますから、あなたはあなたのやるべきことを先にして下さい。その上で、アイン君がやってみたいというなら、その時は少し指導してあげればいいでしょう? 時間はあるんですし……」
「……わかったよ……じゃあ、アイン。後で正しい馬の世話の仕方を教えてやるからな!」
「あ……はい……?」
インスに正論で詰められて、しぶしぶステールは立ち上がる。
そして、半ば一方的にそう決めて、戸惑って曖昧に首を傾げるアインの返事を承諾と受け取り、あとでな! と手を振ると設営に戻って行った。
「……まったく……あの馬バカは……本当に……」
「……ええと、ステール様って……?」
不服そうに息を吐くインスに、困惑気味なアインが首を傾げる。
「ステールさんは、聖皇国最強と呼ばれる騎兵団を擁する辺境伯家の寄子家の出身です……幼いころから馬と触れ合って育ってきたので、立派な馬バカになっています……アイン君。ステールさんに付き合って馬の世話を始めると、馬丁に育てられてしまいますから、適度に切り上げないとダメですよ?」
ややうんざりしたように言うインスは、溜め息を吐いてステールが置いていった馬用ブラシを手に取った。
「指導に熱が入りすぎて、こちらの疲労度合いを無視しますからね……あまりに度が過ぎるようなら私も止めに入りますが……」
そこまで言ってインスは再び溜め息を吐いた。
(正直、魔法なしでステールさんを止めるのは無理ですね……その場合はクロードさんに強制的に止めて貰いましょう……)
まさか、こんな理由で魔法が使えない不便さを思い知らされるとは思わなかった……
と内心で考えながら、インスは馬の世話の仕方をゆっくりとレクチャーし始めた。
第3章第2話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、厳しい自然の中での野営訓練の合間に訪れた、少しほっこりとする「アニマルセラピー(?)回」でした。
幼いアインが、自分の何倍もあるような巨馬を全く怖がらずに撫でる姿には、インスでなくても癒やされますね(笑)。
しかし、そんな微笑ましい空気を一変させたのが、最強の騎兵団を擁する辺境伯家の寄子家出身ゆえの「馬バカ」っぷりを遺憾なく発揮してしまったステールです。
嬉しさのあまりアインに熱血指導を始めようとするステールと、それを極上の笑顔(ただし目は笑っていない)で牽制するインスのやり取りは、このメンバーならではです。
果たしてアインは、ステールの熱血指導から逃れ、無事に馬のお世話を完了できるのか?
そして一行の野営準備は無事に進むのか(笑)。
次回もお楽しみに!
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