第4話・昏い思考の行き着く先は~できないことが多すぎて~
第2章 冒険の準備は痛みを伴い
第4話・昏い思考の行き着く先は~できないことが多すぎて~
空が薄く、明るさを宿すころ。
ぼんやりと天井を見上げたまま、アインはそっと息を吐いた。
結局、一睡もできないうちに朝が来てしまったけれど、今日は野営訓練への出発の日。
朝のお勤めが終わったら、すぐにクロードが迎えに来る。
のそのそとベッドから降りて、前夜、枕元に用意しておいた服に着替える。
神官呪師見習い・初年生用のグレーのローブはまだ真新しい。
元々は、体に合ったサイズの制服がなくて、袖や裾を折り曲げ、紐で止めて何とか着ていたのだが、三か月ほど前に数着、新品の制服を与えられた。
その直前には、二か月近くも医務殿での入院生活を強いられていて、もうこのまま追い出されるのではないかとも思っていたので、本当にうれしくて……
居ていい、と許して貰えていた気になっていた。
そんなはずがない、というのは昨日、図書殿でシプラに言われるまでもなく分かっていたはずなのに……自分のそばにいてくれるひとたちはみんな、とてもやさしいから直接教えてはくれなくて……
(……もう、ちょっとでも、ご迷惑をおかけしたら……邪魔を、してしまったら……)
きっと、今度こそ本当に追い出されるのだろう。
呪師としての勉強をしている自分が、追い出されるとしたら、どこに送られるのかは……分からないけれど……
(……ああ……そっか……)
手を動かして、半ば無意識に着替えながら、思考に耽っていたアインはふいに気づく。
(……だから、お姫さまと一緒に、皇都の外に連れて行かれるんだ……)
皇孫皇女であるジャンヌが、無謀としか思えない遠征に執心しているのを、誰も止めようがないから。
だから、自分のような、足手まといにしかならない見習いの子どもを連れて行くのだ。
どうやって、ジャンヌを諦めさせるのか……どうしたら、弟皇子であるジョンの視力を、奪われた瞳の宝石を……見者の力の源である、目の魔力を取り戻すのを、諦めさせることができるのか?
その一つの方法が、アインの存在だ。
道中、邪魔にしかならない子供がいれば、遅々として進まないのは必至。
さらに、その子供はいらない存在だ。
魔法を使えば、国で一番の皇宮呪師であるインスを苦しめ、痛めつける、害悪だ。
なら、いつでも、どこででも……
(……破棄、できる……)
それも、ジャンヌの代わりに壊れることを望まれている。
そう考えれば、全部納得できてしまう。
そしてきっと、その時を決めるのはジャンヌの護衛騎士団長であるファンなのだろう。
きっと、その権限を与えられて、出発するはずだ。
(……なら、この野営訓練は、耐久性を見るためってことかな……?)
どこまで利用るのかを知るためのもの。
そう考えておけば間違いないだろう。
「……ん……っ」
首の後ろのボタンが留められなくて、ちょっと眉を顰める。
と……
「アイン。起きてるか?」
「……っ! は、はい……っ!」
軽くノックされて、ペルフィーに声をかけられた。
慌てて返事をして、首の後ろのボタンを留めようと焦る。
「おはよう。アイン……ああ。やっぱりか……」
「おはようございます……?」
扉が開かれて、中を覗いたペルフィーが言いながら歩み寄ってきた。
挨拶を返しながらももぞもぞしているアインの前に膝を着いて、軽く肩に手を置くとくるりと向きを変えさせる。
「えっ!?」
「ちょっと、じっとしてろ」
驚いたアインが振り返ろうとするのを言葉で止めて、ペルフィーは素早くアインが悪戦苦闘していた後ろのボタンを留めていく。
「…………ごめんなさい……」
「? どうして謝る? 後ろが留めにくいのは、誰だって同じだぞ?」
ペルフィーの手を煩わせてしまったことに落ち込んで、しょぼんとするアインの謝罪に、本気で意味が分からなくて首を傾げる。
「特に、お前はまだ小さいからな……大人だって、苦手な人はいるのに、子供のお前が上手くできなくても何の不思議もないし、そういった下級生の世話をするのが世話係の役目なんだから、気にする必要はないよ。もちろん、だからと言って、やって貰って当たり前、っていうのは違うけれど、アインはちゃんと、頑張って一人で着ようとしていただろう?」
「……それは……はい……」
もう一度くるりと向きを変え、正面から顔を見て言うペルフィーの言葉に、視線を合わせられないままで頷く。
「なら、それでいいんだよ。それより、そろそろ礼拝堂に移動するぞ? 今日は朝早くから出かけるんだろう?」
「あ……はい……」
くしゃりとアインの頭を撫でて、促したペルフィーに言われて慌てる。
急いで残りの準備をして、ペルフィーに手を引かれて礼拝堂へと移動した。
第2章第4話をお読みいただきありがとうございます。
ついに迎えた野営訓練の朝。
しかしアインの心は、自分が遠征に連れて行かれる理由を「いつでも破棄できる存在だから」と結論づけるほどに暗く沈んでしまっています。
居場所を完全に見失い、悲痛な覚悟を決めてしまうアインの昏い思考……。
上手くできないお着替えを手伝ってくれるペルフィーの優しい言葉に少しだけ癒されますが、この重すぎる気持ちを抱えたまま、物語はいよいよ野営訓練へと進んでいきます。
果たしてどんな訓練が待っているのか?
次回もお楽しみに!
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