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魔術師の、正式な決闘、で良いのかしらね

「魔術師の、正式な決闘、で良いのかしらね」

 魔術院の建物を離れ、王宮の更に奥地、林の中の開けた場所まで出てきた。これ以上奥は王族の館である寝所(しんじょ)しかない、とメリルが小声で教えてくれた。

 手袋をはめ直しながらオーソローを見る。緊張した顔で両手で杖の持ち手を握っている。オーソローの獲物は私と同じ片手持ちのワンド。変な魔具頼りの奇策はなさそう、よね?

 オーソローと距離を取って向き合う。

 両手を広げ、魔術師の礼を行うと、オーソローは慌てて杖をしまい込み礼を返した。

「では、立会人はこの私、ロイド・ヴァレリウスが務めます。両者前へ。」

「怪我させても恨まないでよね」

「よ、よろしくおねがいします……」

「ごほん……」

 メリルと並んで立っているロイドが咳ばらいをしながら左手を高く上げ口上を述べる。

「天地を知る魔術師の厳正なる決闘です。負けを認めた者が負け、殺してはならず、相手の魔術について問うてはならず、敗者への追い打ちは恥と知れ。よろしいか」

「お遊びじゃない決闘なんて、久しぶりよ……」

 右手には杖を、左手には懐中から時計状の魔道具を取り出す。時間だけではなく気温と魔圧(まあつ)も測れるお気に入り。

「はじめっ!!」

 掛け声とともに振り下ろされた手を見て……まずは魔弾(まだん)で様子を……って!

 オーソローは合図とともに周囲をゆがませると、光弾を生み出し先手に放ってきた。

 無詠唱の魔弾!?魔術学校でも必修ではないのに!

 速度はそこまででもないため、見てから確実に身を躱す。

「あなた!見習いなんて嘘じゃない!」

「ほ、本気でいきます……」

 オーソローは止まらず、立て続けに無詠唱での魔弾を放つ。

「くっ、『魔よ集いて……』」

 詠唱と共に杖の先が光り輝く。

 左手の時計をちらりと見ながら、引き寄せた魔弾を杖の先に集めた魔力で砕いていく。ステップを踏みながら相手との相対位置を調整する。速度は速くないし狙いも雑。無詠唱と弾数には驚いたけど、そこまでじゃないわ。

「『魔よ集いて力となれ』!!」

 こちらからも魔弾を放つが、防御魔術で確実に防がれた。飛んでくる魔弾の数はあちらが多く、眼前で砕く一方になりつつある。

 再び時計をちらり、とみる。

 魔圧は十分ね。

 なら、そろそろ。

「『炎よ』……」

 杖の先に集中させた魔力に意識を向ける。

「『来たれ』!!!」

 ボウゥ!

 その杖を振り下ろすとともに、目の前から距離を開けたオーソローまで強風の音と共に炎の幕が一度に押し寄せた。

「あつっ……!!」

 魔弾をはじく程度の防御魔術じゃ熱は防げない。悪く思わないでよ。

 炎と同時に身体強化<ブースト>を発動、一息に相手の背後に回り込み、その首筋に杖を突き立てた。

「チェック、じゃないかしら?」

「……き、基礎の炎魔術で、あんな威力……」

「あなたの魔弾の嵐が、私の手元の魔圧を高めてくれたから、ね」

 片眼を閉じて得意顔を作る。立会人ロイドを見ると、一瞬の攻防に目を丸くしているようだ。騎士団でなくてもこれくらいの立ち回りは出来るんだから。

「……さて、ロイド卿!!御覧の通り……」

 と声を上げた直後。

「ま、まだ!!まだ負けは認めていません……!!」

 その声と共に同時に四方八方に魔弾を飛ばしてきた。予想外の行動に思わず飛びずさったが数発防御を抜けて貰ってしまった。太い棒で叩かれたような鈍痛が、わき腹と左足に走る。

「こ、この……!」

 油断しきってたとはいえ、あの内気な姿からは想像もできない闘争心。

 再び手元に飛んでくる魔弾をはじき落としながら、応戦する。

 気のせいか、先ほどよりも魔弾の速度も密度も上がっている気がする。スロースターターなのかしら。

 ええい、めんどうくさい。

 ちらりと魔圧を確認する。比較的落ち着いている、これなら大事にはなるまい。

「怪我しても知らないわよ!!『風よ集い、成せよ炎』!!」

 無詠唱で魔弾に対する防御陣を敷き、声に出して詠唱する。

「『央に熱、偏に圧』……」

 自分の声を体の中に響かせながら、杖の先に集中する魔力に意識を向ける。直撃はさせない。オーソローの3歩手前。

 目を細めて狙いを定める。

「──解放、『エクスプロージョン』!!」

 カッ、と網膜を焼く閃光と共に、爆発音が鼓膜を叩く。

 ドウッ!!

「きゃああっっ!!」

 黒煙が辺り一帯を覆い、爆風が前髪を煽り額を叩く。

 後方に吹き飛んだオーソローが倒れている。当てちゃった!?

 いや、爆発の一瞬、後方に飛びのいたようには見えた。その勢いのまま吹っ飛んだのか。

 もくもくと煙が立ち上るなか、オーソローの元に駆け付ける。息はしている、けど……。

 これは、まだ決闘終わってないの、かしら……?

「ちょっとー!ロイド卿ー!?」

「オーソロー!い、生きていますか!?」

「生きてるけど、目を覚まさない!メリル!!看てちょうだい!」

「い、医務室へ!!ええと、それから、それから……」

 ロイドは何かを喚きながら建物の方へ駆けて行ってしまった。

「ちょっと~、決闘はどうなるのよ~」


 夕暮れの医務室。白い敷布が窓からの金色の光に照らされ部屋全体が輝いて見える。

「……あ、あれ、ここは……?」

「目が覚めた?」

 立ち上がってベッドの脇まで歩みでた。

「メリル、ありがとう。とりあえず目覚めたなら大丈夫そうよ」

 枕元の椅子に座って様子を見ていたメリルに声をかけて、代わりに自分が座った。

「あんたが目を覚まさないから、こうして付いてる羽目になったんだから」

「え、えっと決闘は……?」

「まだ、『負けてません』なんていうんじゃないわよ?」

 オーソローの頬を人差し指でつつく。意外ともちもちと柔らかい。

「あ、あの……ま、負けました……」

 うつむくオーソローに向かって、鷹揚に頷いた。これにて今日の決闘、おしまい。

「まったく、立会人はどっかへ行っちゃうし、決闘も何もあったもんじゃないわよ……」

「ろ、ロイド様も……焦っておられるのです……」

 オーソローはうつむいた姿勢のまま、ぽつり、とこぼした。

「へぇ?」

「星の降った日から……。闇の魔導師、メリーヌ卿の行方が分からなくなってから1年。い、いつまで魔導師の座が空席となっているかも分かりません……」

「その座を狙っているの?魔導師は多くて一国一人じゃない。魔術学校から出るのが筋じゃないの?」

「で、ですから、その一席を取れれば、我が国にとっても大きなアドバンテージだ、と……」

 小物臭いわりに大それたことを狙ってるのね。ま、メリーヌ先生に言わせれば『肩書なんて勝手に名乗れ』、ってもんですからね。

「まったく、大志を抱くのはいいけれど、巻き込まないでほしいものね」


 すっかり日の落ちた頃、ようやく帰り着いた愛しの我が家では温かい食事が待っていた。

「王宮での勤め、いかがであった?」

 父がグラスを揺らしながら、おそるおそる、とでもいうかのように聞いてきた。

「そうねぇ……当面のやることもできたし、損ではなかったわね」

 ぷりぷりの鴨の肉にナイフを通しながら答えた。

「うむ、それは何よりだ。このところ魔術院の予算も絞られているからな……」

「ふーん。このお肉美味しいわね」

 プラマベリーのソース。これは……流行りというか、旬なのね。

「ヴァレリウス伯のご子息とも会われたのだろう?」

「ロイド卿、でしょ?会ったも何も、直属の上司みたいよ」

 皮に脂がのって、小ぶりながらも食べ応えがある。

「おお、それは何よりだ。彼もあの年で苦労が多いようだからな。星降りの日以降、わが国の財政も逼迫しておる。我ら貴族はそこに施しを出す義務があるからな。カナリィも王国魔術師となったからには……」

「はいはい、お国のため、世界のために、ね。まぁしばらくはやることもできたし、父上の顔を立ててあげる気になったわ」

 パンにソースをつけてかじった。肉汁にソースの酸味が絡み、絶品だ。

 やはり労働の後の食事は、いいものなのね。


 そして翌日。

 昨日の身体強化<ブースト>の反動で、両足の太ももがぱんっぱんの筋肉痛。魔弾の直撃をもらったところもうっすらアザが残っている。ううっ、やっぱり訓練は怠ったら祟られるわね……。

 重たい足を引きずって王宮魔術院のロイドの部屋へ向かう。

「ロイド卿、あの後オーソローから敗北の宣言を聞いたわ。決闘は私の勝ち!例の魔導書、私が鑑定させてもらうわ!」

「ええ……オーソローからも聞いております。どうぞお任せしたい……」

 あら?なんだか思ってた反応と違うわね。もっとあれやこれや難癖付けてくるかと思っていたのに……。

「ただし!!」

 突然上げられた声のボリュームにビクッと肩を震わせてしまった。

「鑑定報告書は必ず!私に!直接!お渡しください」

「え、ええ……わ、わかったわ」

 勢いに押されて思わず素直に頷いてしまう。

「様式は、オーソロー、過去の例をお渡しなさい。では、執務があるので私はこれで……」


 部屋を出たところでオーソローと顔を見合わせた。

「なんだか、昨日の元気が嘘みたいにしょんぼりしちゃってたじゃない」

「え、ええ……禁書の件が、こ、こたえてたのと……昨日の決闘の件で、王宮管理官からの問い合わせに奔走されてたようで……」

「私は何にも聞かされてないわよ?」

「なんでも、『部下の責任で怒られるのが上司の務めだ』、と仰られていましたが……」

「なによ……いいところあるじゃないの……」

 さて、何はともあれメリーヌ先生の魔術書の鑑定を任せてもらったわけだし、しばらくはここでも研究し甲斐がありそうね。

 震えた小鹿のような足取りで、メリルがお茶を入れて待っているであろう階下の自分の執務室へ向かうのだった。

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