表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

魔導師の遺産

「これはこれは、カナリィ・ユニウス様。いよいよのご登城、心より歓迎いたします」

 ロイド・ヴァレリウス卿。魔術相であるルグナス・ヴァレリウス伯爵を父に持つ。代々王宮魔術師の高官を輩出する名門ヴァレリウス家の次期当主。歳の割に白髪が目立つが、まだ30代だという。王国付きの魔導師の座を狙っているが派閥争いに勝ち切れずにいる。未婚。

 と、書かれたメリルのメモを手の中でくしゃくしゃと丸めてポケットに放り込んだ。

「たびたびの御呼出しにお応えもできず、まことに恐れ入ります。カナリィ・ユニウス、王宮魔術師として着任いたしました」

 片足を下げて腕を軽く広げ、両の掌を相手に見せ頭を下げる、世界の魔術師の正式な礼を送る。

「ユニウス大臣のご息女が魔術学校へ行かれたと聞き、始めは驚きましたが、その上首席でご卒業されたと聞いたときには確信に変わりました。家柄だけが魔術の全てではないのだ、と」

 これは、馬鹿にされているのか?

「御父上もさぞお喜びだったことでしょう。我々も、過去にない逸材を王宮魔術師としてお迎え出来ること、大変喜ばしく思っております。王宮魔術師の新たな名門としてのご活躍、期待しておりますぞ。」

 馬鹿にされているな。まぁ、父上の強引なねじ込みに、毒を吐きたくなる気持ちも分からないではないが……。

「あの魔術学校で主席という事は、騎士団入りの面々を抑えての栄えあるトップということ。いや、まことに我が国としても鼻が高くなりますな」

 ……。

 礼に礼も返せぬ無礼者と、これ以上話していても無意味ではないかと言う気もしてくるが、一応直属の上司に当たるようなので癇癪を起して動きづらくなっても面倒だ。

 姿勢を戻して本題に入る。

「ときに、行方不明の魔導師の塔から、禁書が持ち込まれたとのお噂は……」

「まぁまぁ、実務のお話はおいおいいたしましょう。まずは、どうぞ、お掛けください。魔力回復に効くというプラマベリーの茶を淹れておりますので」

「は、はぁ……」

 自分の執務室の3倍はあろうという部屋の、真ん中に用意されている、ぴかぴかの金糸が編みこまれたソファーに腰掛ける。身体が沈む。金で縁取られたカップとソーサー。ゴテゴテした最近流行りのお高い食器か。応接用の家具や食器は一級品。奥の部屋もあるのか。しかし、本棚が少ないな。ご研究よりもご権謀に御執心、てところかしら。

「ユニウス様のお近くに宅を構えておられるアンガス伯は御存じでしょうか?彼の息子も私の元で大層力になってくださっており、」 

 ……。

「そういえばフィッツロイ大臣のおそばには、」

 ……。

「協会の次期の魔導師の選抜には、」

 ……。

 そろそろ表情筋がつりそうね。この無駄話に付き合っていたら日が暮れてしまいそう。それとも、この無駄話がここでの重要なお仕事なのかもしれないわね。まったく、嘆かわしい。

「……かの災厄から、そう時も立たぬというのに、我が国も国際的な協力のために……」

「オーソロー、ね」

 突然口を挟んだカナリィにびくっと身を震わせるロイド。

「そ、そう!案内に使わせた彼女も、また星の降った日の難民でして、私が拾いあげて色々と任せております」

「彼女からも、私の力を借りたい案件がある、とお聞きしておりましたの。詳細を聞けますでしょうか?」

「ええ、ええ。それでは、お話しいたしましょう」

 舌に油が乗ってきたところを中断させてしまったかもしれないが、こちらは一切興味のない話をこれ以上聞く苦痛から逃れたくて仕方がなかった。

「『星の降った日』。私などはココの最上階から眺めていたものですが、いやはや、本当にわが国での被害は最小でまことに運がよく……。ユニウス様は丁度魔術学校にいらっしゃった時でしょうから、私以上に御存じでしょうが……」

 前置きが、長い!


 ようやく解放された結果、彼の話をまとめると概ね以下の通りだった。

 『星の降った日』以降に姿を消した魔導師の塔には、いくつもの魔術書や魔道具が眠っていることが判明した。即座に協会はこれを接収し、解析・鑑定に当たった。その蔵書の膨大さゆえに協会は各国にも鑑定を依頼。我が国に持ち込まれたいくつもの書物や魔道具の中に、『星の降った日』の大魔術に関わる禁書と繋がると見られる一品が混ざっていた。とのこと。

 これだけを聞くのに一体どれだけ無駄話を混ぜ込むのか。話の端々で感じた通りならば、私に「ユニウス家の娘」であること以上の期待はしていないようね。禁書についても重要性は感じているけれど急いでいる感じはなさそうだし。文字通り手足としてしか頼られていなさそう。ま、それはそれで動きやすくていいかもしれないけれど。

 来た時の3倍は重く感じる扉を閉めながら、大きく息を吐いた。すると、部屋の前で待っていたオーソローが声をかけてきた。

「ろ、ロイド様とのお話は……?」

「終わったわ。終わらせてきた、と言った方が正しいかしら」

「ふ、ふふ。一度お話しだすとなかなか終わらない方ですから……」

 そこには共通の認識ができたようで少し親しみがわいた。

「それで?お噂の禁書とやらはどこにあるの?」

 ロイドからは暗に今日は何もせず様子を見ておけと言われたが、早速無視していく。


 オーソローの案内で、長い螺旋階段を降り1階の広い作業所のような場所にたどり着いた。倉庫にそのまま机を運び込んで作業所にしているようだ。部屋の片側では机に書物を広げ翻訳や解読に当たっている魔術師たちが、その反対側には無造作に積み上げられた本や何やらわからぬガラクタのような魔道具の山、それから大小さまざまな魔具が、一応の形状ごとに分けて積まれている。

「これが、メリーヌ先生の……?」

「れ、例の魔導師の塔、その蔵書や魔道具の中から、我が国が回収したものです」

 オーソローが作業中の者に邪魔にならぬよう小声で答えた。

「あの魔術学校が、よく外への流出を見逃したわね」

 部屋の外側をぐるりと回って、まだ未鑑定な山の前までやってきた。しゃがみこんで積まれた本の背表紙をじっくりと眺める。これが、メリーヌ先生の蔵書たち……。本当なら全て私の屋敷に持ってこさせたいものだけれど……そんな無茶は通らないでしょうね。

「な、なにせその量も質も膨大だったようで……鑑定を急がせたかったようだと……。ものによっては協会に取り上げられることになるのでしょう……」

「貴重かどうか判断させて、貴重なら献上しろって……協会の杜撰さが出てるわね」

「ま、魔導師オーガス様の御口添えで、我が国に回ってきた物は他国よりも多いようで……」

「出た出た。魔導師様同士の力関係、ってやつね、やだやだ」

「禁書、とみられる箱は隣の部屋にあるのですが、その箱が、どうやっても開かないので……」

「へぇ……開かないものが何で禁書だってわかったの?」

「箱の紋様に、り、流星のような物が書かれているので、星の降った日に関わりのあるものに違いない、とロイド様が……」

 なるほど……。

「とりあえず箱が開かないことには、ってことね」

 一度廊下に出て隣の小部屋へ向かう、が。

 ガチャリ。ガチャガチャ。

「……カギがかかってるわ」

「あ、ははは、お、お昼過ぎにカギを借りてきますね……」

 とんだ肩透かしだわ。と憤ったところで、階上からゴォン、ゴォンと鐘が鳴り響いてきた。

「お、お昼の鐘ですね。ユニウス様は、お食事は……?」

 昼食のことは考えていなかったのでメリルに相談しよう。

 自分の執務室へ一度戻るためオーソローと一旦別れ、再び2階のロビーの脇を通った。昼食を外で取る者たちなのか、大勢が連れ立って門へ向かって出ていく。

「……コネとカネが……」「……ご貴族様は……」

 今度ははっきりと聞こえた。

 ちらちらと、こちらを盗み見ていく者たちの口からハッキリと。はぁ、これがユーグの言っていた『良くない話』、ってことか……。

 気が重くなりながらも、自分の執務室の戸を開ける。

「ただいまー……ってぇ!?」

 帰ってきた自室は、もはや見違えるようである。メリルによって掃除は完璧に終えられていた、だけではなく。

 応接用のソファーの穴はつくろわれ、その前のローテーブルには敷布に一輪挿しでバラが生けられている。自分の執務机にも綺麗な敷布に、つやつやしたインクが満たされたインク瓶にふわっふわの羽ペン、金の文鎮、とその下に指の切れそうなほどピンとした新品の紙の束……そして、正面の小皿に乗った、野菜を挟んだパンと、湯気の立つティーカップ。

「こ、これは……?」

入口に控えるメリルに問うと、こともなげに答える。

「はい、お食事のとれる場所が不明だったため、簡素なパンしかご用意できませんでしたが、御昼食です。……それとも、今からでも何かご用意させましょうか?」

「私は食事の相談に来たつもりだったというのに、呆れた先回りね……いえ、カンペキよ」

 椅子に付き、淹れたてのお茶に手を伸ばす。プラマベリーの甘酸っぱい香りが鼻孔をくすぐる。このお茶、流行っているのかしら……。

 両手でパンを抱えこみ、そのままかじりついた。メリルが目を細めるが、ここには他に誰がいるでもない。挟まれた葉野菜がパリッと高い音を立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ