二 第六王女へ入魂
それから上司の、容赦ない弾丸質問が続いた。
でも、即答なんてしてやらない。最初の六十六回を後悔しているから。
「② 金と身分、どちらを優先する?
「……う~ん、身分かな」
だって、お金があっても奴隷になったりするのは嫌だし、警護の経験上お金持ちは狙われやすい。
「③ 生後間もなく、七歳、十二歳、どの年齢にする?」
「そうねぇ、生まれたばかりは嫌かな。では、七歳で」
生を頂けると言っても、やっぱり実在する人物の中に魂を入るみたい。
ただし、その人物は現状、魂が抜けた虚ろな状態であるはずだと、追加情報をもらった。
「④ 発展した文明、機械文明前期、機械文明以前。どの文明を選ぶ?」
「えっ? 機械文明後期はないの?」
「七歳だと無理だな」
「仕方ない……機械文明前期で」
そこそこ文明が発展してる方が楽そうだったけど、発展し過ぎた文明は疲れるからパス。
「⑤ 美しい容姿と普通だと?」
「う~ん、普通でいいや」
「⑥ 結婚し子供に恵まれそうな未来、そこには拘らない、どちらだ?」
「あぁ、別に拘らないわ」
私はぐっすり眠って、のんびりできる方がいいの。独身でも構わない。
「二つ目の質問だ。六十六回の任務を勤め上げた褒賞として、二つの願いを叶えてやろう。
一つ目の願いは、生活する星の環境だが、好きな方を選ばせてやる。
二つ目は、与える能力についてだが、チート能力をくれとか、聖女になりたいという願いは却下だ。特殊な能力は与えることができない」
「……最後までケチ」
「何か言ったか?」
「いいえ、思案中の独り言です」
無駄に耳の聴こえはいいのね。
「大事なことを言う。これまでの任務中の事件・事故、出会った人物などは、全て記憶から抹消される。
次の二つの内、星の環境を選べ。
一つの星は、魔法使いや冒険者がいて、国外へも旅することも可能だ。一部の国は栄え、取り残された国もある。よって、度々戦争が起こるようだ。
もう一つの星は、魔法使いも居るが一万人に一人くらいで、戦争もなく民は平和ではあるが、身分差が激しく、家督相続が苛烈だ」
何を淡々と話しているのかしら?
あなた今、褒賞って言ったわよね? 褒賞に思えない内容なんだけど?
「早く答えろ」
「理不尽。プンプン、特殊能力無しじゃ、戦争が無い星の方がいいわ」
……いや本当に、しっかり考えさせてよ。そもそも、夢のある楽しいファンタジー世界とか、のんびり田舎で不自由なく暮らせる未来なんて、用意されてないじゃん。
「では、欲しい能力を言ってみろ。特殊能力はダメだぞ」
「あぁ、それなら、これまでの任務の中で積み重ねてきた、お仕事能力の知識や技能、魔法初級を使いたいです。お仕事に必要な能力ですから、決して特殊能力ではないですよね?」
「そうだな。任務中の仕事能力なら、特殊ではないだろう。初級鑑定能力とか、肉体強化などを望む者は多いが、必要ないのか?」
目の前の上司は、初めて訝しそうに確認してきた。表情が分からないのは残念だけど、きっと眉を寄せ首を捻ったわね。
「はい、要りません。ただ、他の人より少し丈夫であれば嬉しいです」
「よかろう。頑丈な体と書いておいてやる」
何処までも上から目線。もう慣れたけど。
……あれ? 今、頑丈な体って言った? 私、丈夫な体って言ったんだけど、まあ、大して変わらないか。
「三つ目の質問は、入魂する者の境遇というか身分を選ぶことだ。五つある」
①、一生金に困らない爵位のある大商人の家の娘 ②、あまり裕福ではない国の第二王女 ③、下級貴族の娘だが努力で財を成し伯爵家に嫁ぐ予定の者 ④、父は大国の宰相で侯爵家の一人娘 ⑤、大国の第六王女だけど忘れらた存在」
……あぁ、お金より身分を選んだからかぁ。
①の大商人は絶対に働かなきゃいけないからパス。
②は第二王女だから、他国に政略結婚とかで嫁がされそうだから嫌。
③は努力の末にお金と身分だから、ゆっくり惰眠を貪れない。
④は一人娘だから、養子というか婿が必要じゃん。そして子供も。
⑤は何? 意図的に選んだの? 大任もなく、身売りしなくていいポジションの第六王女だから、忘れられてる感じなのかなぁ……
「まあいいか、五番の第六王女で」
七歳なら、そこから挽回すればいいし、忘れられているなら自由ってことよね? 違うの?
「それでは、機械文明前期の、魔法使いも僅かに居る星の、大国の忘れられた第六王女で七歳。顔は普通で結婚には拘らず、特殊能力ではなく、これまで積み重ねた仕事の能力のみを引き継ぐ。そして頑丈な体。以上」
上司の男は、私の成績や直上司の評価をさらりと一目見て、持っていたノートを閉じた。
そのノートには、達成率、信頼度が高く、是非、引き留めて欲しいと直上司が記入していた。
基礎能力値が異常に高く、魔法は初級とは思えない数を習得していると、同僚も追記していたが、見逃してくれたようだ。ウフフ。
せっかちな上司は、追記文なんて見るのも面倒だったに違いない。
ラッキー! もしも残って任務を続けるなんて、絶対に嫌だもん。
忘れられた第六王女かぁ……絶対に訳アリだろうけど、現在その子には魂が入っていないんだから、上手く会話ができていない可能性がある。
これまでの任務で入魂したのは、バリバリの遣り手の護衛や女騎士が多く、ちゃんと普通に生活していたけれど、死に直面したとか、空間の狭間に迷い込んだ者の体だったから、今度は勝手が違うわね。
これまでも子供の体に入魂したことはあるから、まあ、問題ないでしょう。
「では、必要な記憶は消去する。送魂!」
初めて聞いた声だなぁなんて思ったら、いきなり記憶を消去され、あっという間に飛ばされた。
「大丈夫ですか、マーシャリー様! 誰か、誰か助けてー! 第六王女様が、第五王女のシルビア様に、階段から突き落とされたわー」
……う~ん、なんだか騒々しいわね。
「マーシャリー様、ああ、なんてお可哀想なの。いくらなんでも、命を狙うなんて、酷すぎるわ」
……なんだか誰かに抱きかかえられているような感覚が……そして体中が痛いわ。
「煩いわね、メイド風情が! こんなバカで間抜けな子は、王族の恥よ! だから私が、皆のために手を下したのよ」
……このキンキン声は誰? どこぞの人の話を聞かない、上から目線上司みたいじゃない。
「シルビア、私、貴方がマーシャリーを階段の上から突き飛ばしているのを見たわ。絶対にお父様に報告し、罰してもらうわ。
マーシャリー大丈夫? 目を開けて。早く、誰かお医者様を呼んできてー」
今度は誰かしら? どうやらこの体の主を心配しているようだけど……
「第四王女マドレーネ様、お願いです。どうかマーシャリー様をお助けください」
「ええ、直ぐにお医者様が来てくださるわ。それにしても、白昼堂々と妹を殺そうとし、捨て台詞まで吐いて立ち去るとは……許し難いわ」
てな声を聞きながら、でも、瞼が重くて体が痛くて目覚めることができない私。
いつの間にか、周囲の声も聞こえなくなって、目覚めたらベッドの上だった。
「ここは?」
「あぁ、目覚められたのですね。良かった。ここは、マーシャリー様のお部屋ですよ」
「私の?……あなたは誰?」
「マーシャリー様、私は専属メイドのエミリーです。なんてことなの! お話できるようになられたのですか?」
エミリーと名乗ったメイドは、凄く驚いた顔をして訊いた。
「うん、心配してくれて、ありがとう」
そう言いながら、私はこの体の持ち主の記憶と自分の魂を同期させるため、また、眠りについた。
「あぁ、マーシャリー様、王様が、王様が初めてマーシャリー様をお呼びになっているのに、また眠られてしまったわ。どうすればいいの?」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




