一 魂の管理局マソルネ
初めての短編(三万文字以内目標)に挑戦です。
はじめましての方も、また読んでやるよという方も、どうぞよろしくお願いいたします。
一話、三千文字前後の予定です。
「お前の好きな数字は何だ?」
目覚めた私に、目の前の上司らしき威張った男が、何の前置き説明もなく質問してきた。
姿かたちは見えているはずなのに、何故かぼんやりとしか男の全体像が確認できないという不思議。
キョロキョロと辺りを見回すけれど、知っている場所ではないさそうだ。
「早く答えろ!」
「六です」
「分かった。では、六十六回の任務を果たしたら、魂を自由にしてやろう」
「はい?」
訳が分からない。
ここは何処で、貴方は誰? 私はどうして此処に居るの?
分からないことだらけで混乱していると、私の直属の上司だと名乗る男性が現れ、現状をさらりと説明してくれた。
「お前は死に、魂だけが此処へ来た。何処の星の出身で、どう生きてきたのかは関係ない。
お前は魂の適性から、数ある星々の中でも、決して死なせるべきではないと判断された者の命を守る、要人警護の仕事に振り分けられた」
……え~っと、全く意味が分からないんだけど?
「これまでの人生の記憶は全て消去済みだ。明日から任務が始まる。
とにかく、お前は派遣された国で、その国に実在している者の中に入り、守るべき者を命懸けで守るのだ」
やっぱりこの人も、顔がはっきりと分からないけれど、声だけはしっかり聞こえる。そして偉そうだ。
「どうやって? 武器があるのですか?」
「いや、明日向かう星は人類が誕生して五千年という未熟な星だ。当然、使えるモノは石でも棒でも使って守るしかない」
最初の任務地は、だいたいそんな感じの星だと男は言うが、やっぱり意味が分からない。
……あぁ、これは夢だ。夢に違いない。
「お前は今日から、マーシャ・ミロルと名乗れ。マーシャと呼ばれてもミロルと呼ばれても構わん。どうせ、直ぐ此処に戻ってくる。そしてまた、次の任務を果たすのだ」
つい先程までの自分の記憶がないから、己がどんな人間なのか、何ができるのかさえ分からないのに……死ねってこと?
「自分の容姿や年齢、強ささえ分からないのに、戦え? 守れ?」
……いやいや、勘弁して。
「心配するな。お前は魂だけの存在だ。他人の体に憑依するから、どんな容姿で何歳なのかは、行かねば分からない」
そう言い捨てて、上司だと名乗った男は去っていった。
私は白いようなグレーのような何もない広い空間に、ぽつりと残され、念のため頬をつねってみたら痛い気がした。
……夢じゃない。でも、現実世界とは絶対に違うと思う。
「しまったー! なんで好きな数字を一とか二って言わなかったんだ私ー!」
ふと六十六という数字を思い出し、自分のしでかしを後悔し頭を抱える。
仕方ない、後悔したところで運命は変わりそうにない。よし、落ち着こう。
分かっているのは、自分の性別が女であることと、上司らしき者の言葉を理解できることから、幼児じゃないってことくらい。
ぼんやりしていたら、今度は先輩という者が現れ、寮へと案内され、詳しい仕事内容を教えられた。
ここに居るのは全て魂だけで、おぼろげながら生前の姿に見えるらしい。
先輩曰く、貴方の身長は百六十センチくらいで中肉中背、知識レベルはまあまあだから、要人警護部に回されたはずだと言う。
「此処へ回される魂の特徴は、何回死んでも心が折れず、任務を全うする可能性がある鋼のメンタル持ちで、人一倍使命感が強い魂の持ち主らしいわ。
私は今日、四十八回目の任務を終えたところよ。あと七回でお別れだわ」
魂だからか、やっぱりぼんやりとしか目に映らない先輩は、諦めが肝心よと笑いながら言う。
きっとさばさばした性格の人……いや、魂なんだろう。
「大事なことはね、任務で死にそうな目に遭うことじゃなく、如何なる時も義務を果たし、毎日きちんと報告することよ」
渡されたマニュアルを読みながら、連絡方法について確認する。
【何があろうと、自分に割り振られた時間に、上司に状況を報告すること。また通信手段は、割り振られた特定周波数を声紋登録してあるので、自分の名前を言えば繋がる】
……う~ん、理解できない。私はダメな魂なのかな?
そんなことを考えていたのは十回目くらいまで。
十回目は、機械文明前の星の、どこぞの国の第二王女を守る任務で、私は剣を扱える護衛騎士として仕えていた。
まあ、一か月で強制的に戻ってきたけどね。
十五回目くらいだったか、とある星の教祖様の部下だった時は、質素な料理に質素な服を着て、料理人をしながら守っていたわ。
まあ、僅か二か月で強制送還されたけど。グサッと剣で胸を刺されたからね。
……もう魂だけだから、死なないけどさ……
この任務の何が辛いかって、それは毎日の報告よ。
星々によって時間は異なり、一日が三十時間の星もあれば、二十時間の星もある。もうバラバラなのよ。
だけど、連絡はマソルネ本部の時間に合わせる決まりだから、夜中に毎日連絡したり、戦いの最中だって連絡しないと怒られる理不尽。
「死闘の最中だったから、連絡できませんでした」
ある時、魔獣と呼ばれる獣との戦闘中だったため、連絡が遅れた。
「それでも減点だ」
「ふざけるなー! 任務優先じゃろうがー!」
血も涙もない本部の評定に、何度文句を言ったことか。
どんどん口は悪くなり、人相だって悪くなっている気がする……魂だけどさ。
死ぬ思いをするのは怖くないけど、体の持ち主には申し訳なくて、何度も溜息が出る。
護衛対象者の命を繋いで仲間にバトンタッチできた時は、心から安堵し、達成感があった。
三十三回くらいまでは、入魂後、早くて三日、長くても半年くらいで強制送還か、たまに任務完了していた。
まあ、時間や月日なんて、その星の時間でのことだけど。
どれだけ時間が流れたのか分からないけれど、五十回目にもなると、武術、剣術、護身術、初級魔法、メイド、解毒剤作成、射撃、ナイフ投げまで、いろいろな仕事を積み重ね、結構戦えるようになっていた。
……願わくば、ぐっすり眠りたい。三時間でいいの……
でも、五十回を超すと、敵が強いのなんのって、もう。
本部がそういう仕事を回すから仕方ないんだけど、文明が発展している星になればなるほど、敵の武器も強力だし、移動手段も増える。
ほぼ、政治絡みの護衛任務で、大統領だの、IT開発関連だの、果ては宇宙戦争中の任務まであった。
文明が発展している場合、魂が入る体もそれなりの立場であったり、重要ポストを任されていることもあり、体の持ち主の記憶と魂を同期させるのが大変だった。
幸せを感じられるのは寝ている時だけ。勿論、休日はあったけど気は休まらない。
六十回目からは強制送還されることなく、任期を全うした。
そして今日、六十六回目の任務を終えた私は、また、あの最初の空間に呼び出され、上司と対面していた。
「任務完了、ご苦労であった。約束通りこれからの生を選ばせてやろう。
これから大きく分けて三つの質問をする。一つ目の質問内容は六つある。
ゆっくりではなく、できるだけ即答しなさい」
「またなの? 考える時間もくれないの?」
六十六回の任務で、私はメンタルつよつよで、口の悪い女になっていた。
「①、男と女、どっちがいい?」
「女で」
この上司、人の話を聞く気なんて全くなかった。
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