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余命宣告された私を引き取る姉が不憫でしたが、精霊の夫と幸せそうです  作者: 吉沢月見


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寛解1

 姉はホテルの見積もりが決まってしまって、エントランスの椅子だけでなく、鳥籠みたいな要望に困り果てている。


「高級なホテルとかによくあるよね」

 私はスマホで検索して画像を見せた。私よりも姉のほうがひきこもりである。温泉が近くにあるからわざわざ泊まりに行く必要がないのだ。家でもキミヒコさんのおかげで上げ膳据え膳。


「うん。多分作れるけど」

 と言いながら、ぱぱっと図案を描く。


「そんな感じだね。円の4分の3のイメージ」

 私は絵が下手なので、それを見て姉がにやにやしているのだと思ったら違った。


「もうすぐ病院ね」

 それか。姉は鈍感だから気づかれていないと自信があったのに。まさか、行為の声が聞こえてしまったのではないだろうか。姉の声が聞こえるのだから可能性もなくもない。押さえていたつもり。でも出ちゃうのだ。


 鶴亀のこと、許していない。でも弱みを握ったままのほうが私は人を上手く操れるタイプ。

 私があげた枕でゆっくり眠って。




 寒い朝、遠くの山がうっすら白いことに気づく。初雪だろうか。霧かもしれない。ここでの暮らしでは雪道を回避できないだろう。それだけが難点。


 お金はあるのに姉はお掃除ロボットを買って生活を楽にしようとはしない。今までのやり方で生きることが幸せだと思っているようだ。でももこもこの靴下などは買い込んでいる。


 姉が忙しそうだったから、その日は一人で通院。

 病院に行ったら担当医が変わっているはずもなく、鶴亀が淡々と私の体を様子見る。この間あんなことしたのに今日は仕事の顔。そっちの穴のほうが先に指を突っ込まれていたと改めて思うのは私だけで、鶴亀は検査結果などを見ながら神妙な顔。


「次の休み、今回の結果と一緒にお伝えに行きます」

 平日の午前中だから外来患者の対応ですごく忙しいはずなのに、看護師さんの目を盗んでそこそこ長いキスをした。やっぱりガムの味。


 キスとガム、あなたにとってどちらがストレス軽減になるのだろう。聞けばよかった。ただ鶴亀が、患者との恋で浮かれるような人でないことはわかる。


 そのあと私は運送業者に寄って商品の発送をして、今日は甘エビメインのお造り。

 この帰り道、嫌いじゃない。お金を下ろすのを忘れてATMへ戻る。田舎はまだまだ現金主義。


 秋の空に山がくっきり。紅葉をやめた山が枯れ葉を溜めて冬支度。有機農法が流行っているらしく道路の落ち葉を拾うのは構わないが勝手に山に入られたと近所の人から聞いた。山だって大半は個人や国の所有だ。薪のために木を切る無法者もいるらしい。山の神様が黙っていないだろう。


 北風は冷たくて私の頬から潤いを奪ってゆくから嫌い。これ以上寒くなったら外で竹を切るのも無理だろう。車庫を少し片づけようか。

 家に帰って栗ご飯を仕込むキミヒコさんを手伝う。


「栗はキミヒコさんにとって子どもみたいなものじゃないの?」

 それを食べてしまっていいのだろうか。


「僕はクヌギの木だから」

「あれって落葉樹よね?」

「小春ちゃんは詳しいね」

 でもあなたには詳しくなれない。家族なのにね。キミヒコさんが人間だったら違ったのだろうか。淡い恋心を増大させて病んでいたかもしれない。


 団欒は楽しい。キミヒコさんは姉の甘エビの頭まで取ってあげる。そういう伴侶が欲しい。

 その頭で次の日にビスクスープ。母がいつもそうしてくれたように。キミヒコさん、私ならもっとあなたを愛するよ。


 だめなのだろう。キミヒコさんは姉でないとだめなのだ。横恋慕している場合じゃない。私は鶴亀でなくても大丈夫だ。でも彼は私がいいのだ。


 その鶴亀が休みの日にやって来て、

「寛解です」

 と言った。つまるところガンは治癒しないけれど、数値が正常に近い状態らしい。血液検査の諸々をタブレットで見せてもらう。病院外で見るのは違反じゃないの?


「再発の可能性はあるんでしょう?」

 私は尋ねた。一度ガンになった体なのだから生活を改めなければまた犯されるリスクは高い。


「どうだろう?」

「医者なのにわからないの?」

 少し怒った口調で言うと、

「ごめん」

 と謝った。


 東屋で畑から摘んだハーブティを飲んだ。この人の狂気もここにいたら皆無になるのだろうか。キミヒコさんが枯れ葉をまとめるために熊手と鋤を持って歩いてゆく。鶴亀はそれをぼんやり眺める。宙に浮いているように彼には見えるのだろう。


「見慣れた?」

 私は聞いた。

「いいや」

 見えないというのは便利なようで不便でもある。お互いが妥協して付き合ってゆくのだろう。見えるようになったらほっとして、そして自分の死を受け入れるだけのこと。姉以外に見えないとき、キミヒコさんは気を使って生活をしてくれていたはず。いつかきちんとお返しをしようと思う。キミヒコさんが望むならいくらでも枕を作る。遠くの精霊や神様が愛用してくれているなんて光栄だ。


 私はまだガンも人間も魔物も怖い。精霊のキミヒコさんが死ぬことも恐怖だ。寿命はあるらしい。ただ今は、こうしてのんびりお茶を飲む時間が愛しい。だから、鶴亀のことがすごく好きということではないのだと思う。

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