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余命宣告された私を引き取る姉が不憫でしたが、精霊の夫と幸せそうです  作者: 吉沢月見


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キミヒコさんのお出かけ3

 男を連れ込んでも姉は叱らなかった。主治医だからだろうか。やましいことはしていなくても後ろめたい気持ちはある。鶴亀は休みらしく、うちで私の仕事を手伝った。炭を割るのも畑の手伝いも楽しそうにする。理系だから腐葉土を混ぜる理由や受粉とか理解をしているのだろう。


「養蜂したら?」

 とか言うだけが簡単なことも知っている。


 私とは違い、なんでも一度頭で考えてから行動する。土を耕す、堆肥を混ぜる、石をどかす。


 頭で考えないと動けないこと人が、あんな大それたことをしたのだ。私が欲しいだけで。そう思うとほんのちょっと愛しい。自惚れてしまう。単に一緒に死ぬ女を求めただけかもしれないな。死ぬなら一人でいいだろうに、あの作家を見習ったのだろうか。


 医者って器用そうなのにミシンがかけられないという。だからひたすら不織布に入れる炭260グラムを計ってもらう。それには飽きることなく続けてくれた。困ったことに緊急の連絡も入らないから鶴亀は戻らないし、キミヒコさんが例年通りの役目を終えて帰宅してしまうし、私は枕を発送したかった。


 鶴亀にキミヒコさんは見れないのでご対面にはならず。でも私と姉がキミヒコさんと話すから、何となくその存在を受け入れているようだった。通販でも買えそうな出雲そばを買って来てくれて、キミヒコさん以外の三人でそれをすすった。


「出雲行ってみたいな」

 私は病気になってから遠出をしていない。あのときは体力に自信がなかったし、思い出も必要なかった。


「私も行きたい」

 姉が同調する。


案内(あない)しますよ」

 キミヒコさんがあんないの『ん』がない言い方をした。それって、すごく昔じゃなかっただろうか。お侍さんとかが言いそう。


 鶴亀先生は、

「おいしい」

 とキミヒコさんが作ったそばを口に運ぶ。鶴亀が悪い人だったら、それを食べて笑えるはずない。きっと即死。だから、もう一度この人を信じてみようと思った。鶴亀を見ながら、単純にキミヒコさんが作ったごはんが疲れた細胞にいいのかもしれないと思った。そしてキミヒコさんは姉から栄養をもらっている。巡っているのだ。なんだってそう。畑の野菜もお金もめぐる。水も堆肥も命も。そんなことを考えていた。


 私の考えばかりが堂々巡り。キミヒコさんが帰ってきたから当然姉と致すわけで、そうなると私は鶴亀の扱いに困る。姉が私の部屋に布団を敷いてしまった。私はベッドに潜って、鶴亀はおとなしく布団に入った。別に部屋でずっとそわそわしているよりはましか。


 愛していて健康だから恋人や夫婦はセックスをする。私は健康ではない。そして私たちは愛し合っていない。冷静に考えるとセックスってすごいことをしている。裸になって、ならなくてもいいけど、舐め合って、舐めなくてもいいけど、あれをああしてと考えているだけで鶴亀側の股関節がつりそうになる。彼はスマホで何やら読んでいた。治験とか試薬と後遺症の文字しか認識できない。キミヒコさんに傾倒したら精霊でガンを治すやばい医者になるのだろうか。真っ当な彼はそういうことはしなさそう。


「私ね、お姉ちゃんとキミヒコさんに子どもができたらいいなって思っているの。きっと世間的には一人親になってしまうけど、生きている間なら私も子育てを手伝うから。そうしないとキミヒコさんはいつか一人ぼっちになってしまう」

 子孫を残してあげたい。


「でも子どもに彼の存在が見れなかったら、どっちにとってもとても悲しいことでは?」

 鶴亀が現実的なことを言う。


「そうかしらね」

「僕と君とで子どもを作るのはどうだろう?」

 と布団の上で正座になる。


「ガンなのに?」

「君自身も生きれるような気がしてるんじゃない? この間の検査でほとんどガン細胞は消えていたよ。次の検査で大丈夫だったら…」

 嫌な間だった。


「だったら?」

「そっちに行ってもいい?」

「イヤ」

 と断ったのに鶴亀が私のベッドに滑り込む。その温度がやっぱり心地いい。


「おやすみ」

 鶴亀と手をつないで眠った。セックスをするよりも気恥ずかしい夜だった。何度目を覚ましても手を離さない。寝返りを打っても人差し指だけ絡んでいた。夜なのにそれがはっきり見えて気持ち悪かった。誘拐のことがなかったら、すぐにでも体を許せるのだろう。


 それは建前だ。そう考えている時点で、この人とは寝れる。引っかかっているのはもっと別のこと。

 寝ている鶴亀に体をくっつける。

「鶴亀、まだ起きてる? する?」

 目が合って、手を胸に導くだけでどうして男の顔つきになるのだろう。


 自分の体のことながら、知らないのだ。どうして濡れるのだろう。習わなかった。鶴亀はお医者さんだから詳しいのだろうか。こっちを触られただけであっちから液体が分泌されて、女の体は不思議だな。鶴亀は私を触ったくらいであそこがあんな状態になるからもっと不思議。


 痛くない。やはり私を辛い目に遭わせたいわけではないのだ。鶴亀のことはわからない。私を好きだというなら、わからないままでいたい。正しい愛ばかりではない。正常がいいから正常位。鶴亀とはずっとこうしていたい。私の中にいてほしい。


 なんで病気が治ったかはわからない。キミヒコさんのおかげなのか、姉の言う通りこっちに帰ってきたからかもしれない。ガンが治ることは嫌いな人を好きになるくらい稀なことなのだろう。私にはそれがほぼ同時に起こった気がする。


「ガンは完治とは言わず寛解って言うんだよ」

 鶴亀がぼんやりしている私にたくさん話しかけた。この人の声は眠たくなる。久々のセックスのおかげで深く眠れた。


 鶴亀がまともになったのもキミヒコさんの力なのではないだろうか。鶴亀の愛は恐怖だと思った。手繰り寄せてみたらそうでもなく、むしろ姉とキミヒコさんのほうが狂気。人の愛のことなどわからぬものだ。


 朝になって自分のかわいそうなほどによれている床のパンツを数回ぶんぶん振って元に戻して穿いた。鶴亀も同様。脱いだパンツのことなんて気にならないほど互いに恥ずかしいほど欲したのだ。死ぬ覚悟は一度した。鶴亀はいつも死の傍にいる。そんなのお構いないしに抱き合ったぐちゃぐちゃのベッドが朝日に照らされて乱れているのに眩しかった。


 朝から会議があるという鶴亀を見送る。小さくなる車とは対照的に心に寂しいが広がる。戻って、また抱き締めて。薄いストールじゃあなたのぬくもりがすぐに蒸発してしまう。


 愛もいつ習うのだろう。子どものときは親の愛を自動的に与えられ、思春期になったら恋人から。私の年齢ならば子どもに注いでいるの? 学ばないのに与えることができるのだろうか。


 鶴亀は足りなくなったら暴走するタイプだろう。束縛は苦手なのだ。私も譲歩するから、私の愛し方を少し受け入れて。

「先生帰ってしまったの? 味噌汁作ったのに」

 キミヒコさんのように温かく見守ってくれる男がいい。たぶん、鶴亀は背を向けてミシンをかけるだけで寂しいと感じて憤慨する人だ。


「私が鶴亀の分も食べるよ」

 キャベツとかぼちゃの優しい味の味噌汁だった。

 姉しか見ていないキミヒコさんに男と女のあれやこれやがわかるのだろうか。

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