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余命宣告された私を引き取る姉が不憫でしたが、精霊の夫と幸せそうです  作者: 吉沢月見


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キミヒコさんのお出かけ1

 この間お盆だったのに、もうお彼岸。ご先祖様、ゆっくり休んで。おはぎはスーパーで買ったもの。祖母と母のように作れないのは私も姉も忙しいから。ごめんね。


 お墓から家に戻るなり、

「再来月、神様と出かけるので小春ちゃんの枕、ふたつ売ってください」

 とキミヒコさんが頭を下げる。


「いや、売るなんて。いつもご飯作っていただいているからプレゼントしたらキミヒコさんが迷惑? 神様に顔向けできないとか?」

 無料のものをプレゼントされたからって怒る神様なんて嫌だ。


「君がちゃんと作っているものだから。炭を作って、枕カバーを縫って。その対価を払いたいんだ」

 キミヒコさんが小さな目を細めるから、私の心の臓がきゅっとなる。


「じゃあ今晩はまた私の好きな炊き込みご飯にしてください」

 キミヒコさんは私にごはんを作ってくれているだけじゃない気がする。


「お安い御用だ」

 キミヒコさんは家じゅうの戸を漁って、いろいろ物色していた。タオルにお酒。うちでは使わないものが神様に需要はあるのだろうか。キミヒコさんは包装がうまい。神様への貢ぎものってお酒だけじゃないのだ。缶詰も食べるの?


「出雲ですか?」

 私は聞いた。


「そう」

 風呂敷にそんなに包めるのだろうか。


「本当に行くんですね」

「はい」

「神無月は来月ですよ?」

「旧月だと再来月なんだよ」

 目に見えない決まりごとはたくさんあるのだろう。


「枕カバーは何色にしますか?」

「白と黄色がいいです」

 誰にあげるのだろう。偉い人なのかな。あ、人じゃないか。高貴な、すごい神様。神様にも偉いとかそうじゃないとか不器用とかあるのだろうか。私が器用なら枕にきれいな刺繍を施すのに。

 姉の椅子のほうがいいのではないだろうか。運ぶのが厄介か。神様も目新しいものが好きだったりするのだろうか。お疲れだから安眠枕? 今年も大雨や地震があった。


 私がどうでもいいことを考えていると、

「毎年、十子を一人にさせることが心配だったけど、今年は小春ちゃんがいるから安心して行ける」

 とキミヒコさんがまた微笑む。その笑顔、私には辛いです。私はキミヒコさんが精霊だから本気で好きにならないの。人間だったら姉から奪っていたかもしれない。いや、無理だろう。キミヒコさんは姉以外を好きにならない。


 夏の終わりにはほっとするし、秋の終わりは切ない。なぜだろう。寒い冬が嫌いだからだろうか。

 鶴亀からは連絡もない。血迷っただけと土下座してくれたら許します。生きれると言い切って。私も、あなたも。


 昨今は生きられる人も死を選ぶ。怒りが6秒で消えるなら、死欲は何秒なのだろう。調べてよ、鶴亀。

 いつもより、ほんの少しだけミシンを丁寧にかけた。




 ここから遠い山に雪がうっすら。上だけ。空に近いと寒いのだ。


 出雲に向かう日、キミヒコさんが正装していた。うっとりしてしまう。あれだ。お雛様の五人囃子みたいな恰好。草履を履く姿まで凛々しい。

「気をつけて。いってらっしゃい」

 と姉と見送る。


 移動は夜がいいらしい。神輿みたいのに乗ってゆくそうだ。ホッカイロを渡せばよかった。夜は冷えるし空の上はもっと寒いでしょう。


 キミヒコさんを見えなくなるまで送ると姉は、

「おやすみ」

 と早く床に入った。


 そして翌朝からいつも通り働いていた。寂しさを払拭するためというよりは、本当に仕事が溜まっているようだった。


 衝立の注文が入っているようだが今時の家で用途が気になる。商売や家の造りによるのだろう。会社などのパーテーションならば籐や竹でなくもっとしっかりしたもののほうがいい。この前、姉と街へ出かけた際にかつ丼を食べたお店にも籐の衝立があった。小上がりの席と席の間、入り口とレジの間、調理場に入るスペースにも。竹の衝立は庭に置いてあるイメージ。実際にうちの門のところにも花壇との仕切りに置いてある。神様への献上はやっぱり姉が作ったもののほうがよかったのではないだろうか。天気予報ではやっぱり西日本は雨らしい。


 キミヒコさん、そろそろ着いたかな。精霊でも家族だから心配してしまうよ。スマホを持っている精霊とか神様はいないのだろうか。契約のときに本人確認できるものが必須だ。キミヒコさんは死ぬ人にしか見えない。お金の支払いだって確実とは限らない。それは人間も同じだろう。


 朝食を食べる前に、いつもはキミヒコさんがしている神棚と仏壇のお水を姉が交換した。姉なりに夫を気遣っているのだろう。寂しいとも言わない。あっちにはあっちのルールがあるのならキミヒコさんは今頃、人間を好きなことで異端扱いをされてやしないだろうか。私もこっそり手を合わせる。


 朝食は私が作ったロールパンにゆで卵を挟んだもの。からしマスタード風味のそれを熱いお茶で流し込む。


「仕事場にいるね」

 姉がすっと立ち上がる。

「うん」

 私も自分の仕事を片づける。待てよ。いつもはキミヒコさんがやっている作業を私がしたら、キミヒコさんの謎パワーが混入されていないことになる。ものの試しに私はその枕を発送した。クレームが来たら謎パワーが立証される。


 私は私のリピーターさんがなぜあんなにも浄化に拘るのかわからない。人でも殺めたのだろうか。私だって大人になった今でも小さな嘘をつく。眠くないのに疲れたから寝ると言ったりする。それは家族であっても人と暮らす礼儀みたいなものだ。


 姉の商品もまた然り。キミヒコさんが洗濯をしてくれるから姉は仕事に没頭できている。発送する商品を運びながら力を込めている可能性もある。それがない椅子や棚が運ばれてゆく。

 思い込みなのだろう。買ってくれたお客様がいいと思えばいいのだ。

 呼びに行かないと姉は昼食を忘れる人なので、キミヒコさんもいないし、今日は二人で庭の東屋でピクニック気分。竹で作られた六角形の椅子が小さいときから座っているのに壊れない。


 籐はトゲがすごいから、植物としてなら竹のほうが好き。用途も多い。しかし、似た工程を経るのに姉は籐のほうが扱いやすいようだ。小回りが利くというか。


 姉は黙って私が握ったおにぎりを口に運んだ。キミヒコさんがいないだけで無口になる。家族の誰かがいないと急に何かが回らなくなる。キミヒコさんが家事の大半をしてくれていたから私は自分の仕事そっちのけで洗濯に掃除、畑の水やりと収穫。そろそろ残渣処理もしなければ。ゴミ捨ては曜日が決まっているし、荷物が届いたり、集荷を呼んだり。

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