表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命宣告された私を引き取る姉が不憫でしたが、精霊の夫と幸せそうです  作者: 吉沢月見


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/36

竹炭3

 やっと見つけた。好きなこと、得意なこと、できること、続けられること。それなのに死んでしまうかもしれない。死んでしまったら、全部が終わってしまう。


 こうしちゃいられんと、私は黙々と炭枕を作った。姉と同じだ。作る、発送。姉と違って注文を受けてから作るのではない。炭造りと並行してミシンをかける。二つのことが同時にできるからバシバシ作った。在庫があれば発送もすぐにできる。私が書いた設計図は自分でも笑えるほど稚拙だ。送料込みにしてあげたいが枕が安いからできなくて申し訳ない。


「食べられる炭もあるよね」

 姉が商売を広げようとするが、竹炭パウダーで挫折した私は枕一択。キミヒコさんはそのままの竹炭を売りたがる。水に入れたりご飯を炊く特に用いるらしいのだが、人の口に入るものって愛がないとだめだ。いろんなことを調べなくちゃならない。私は、他人にまで愛を配れない。もう自分の命だって残り少ないの。それなのにご自愛もできない。


 夕飯は五目御飯。我が家の五目御飯はなぜか酸っぱい。紅ショウガのせいなのだろうか。それは母の味に酷似していた。キミヒコさんは母が作る手元を見ていたのかもしれない。人間はすぐ死ぬから、姉に母の味を食べさせられるように覚えていてくれた。この味を私は姉とキミヒコさんの子どもに食べてもらいたいよ。


 人間と妖怪の子どもが半妖ならば、姉とキミヒコさんの子どもは半分精霊? 木に顔がある姪でも甥でも私はいい。見れるのであれば。

 人間は出産までに十月十日。ねぇキミヒコさん、いつものようにその手中でいろいろやってはくれまいか。人型の子どもらしきものでいいから、見せてよ。短い間かもしれないが、私が子育てを手伝うから。


「いただきます」

 懐かしい味に姉が黙る。姉ははたから見ていると母のことが苦手そうだった。父や祖父は師匠として接していたし祖母は姉が初めての孫だから激甘で、そうなると産んでくれたとはいえ接点が一番少ないから母親との間柄に困惑していた。


 母も母で、姉が仕事を手伝うようになると遠慮がちになった。親はご飯を食べさせてくれる人ではない。生き方を教える人でもない。保護者という言葉に母自身が圧を感じているようだった。母は庭の花を飾る人だったが、姉はそれらに無関心。


 私も花にはそれほど興味はないが、花を飾る母を美しいとは思った。花って自分の咲く季節を知っていて、それってどういう仕組みなのだろう。気温なのだろうが、春と秋を間違えない。それらはキミヒコさんの管理ではないらしい。


「太古から決まっていること」

 ひだまり管理人はあなたで何代目なのでしょう。森ごとにいるの? 木って種類によっては千年以上の大木になったりする。キミヒコさんにはまだまだ生きてほしい。


 たまに質問攻めにするけれどキミヒコさんも今のことしかわからないらしい。太陽とは友達じゃなくて、森の水分を集めることはできても雨までは操れない。


 お姉ちゃんが死んだらどうするの? とは聞けない。キミヒコさんがどんなに孤独でも、その頃たぶん私は死んじゃっている。生まれ変わったらまた人間がいいな。平均寿命まで生きられる真面目な女になりたい。


 毎晩祈る。明日も目を覚ましますようにって。そして起きたら、あれをしてこれをして。最近は、まっさきに注文が入っていないか確認する。受注があれば嬉しいしなければ悲しい。スマホにメールを転送する手前でやめたのは、それにばかり気を取られたくないから。まずはいい商品を作ることを最優先。


 今頃になって自分の好きなこと、できることを見つけるって結構酷です。後悔になってしまう。キミヒコさんにミシンを教えたら引き継いでくれるかしら。相変わらず大きいものを運ぶ手伝いはしてくれるけど、興味はなさそう。精霊だからお金を稼ぐ必要性がないのかもしれない。


 姉は小金持ちであるのに、お墓に手向けるお盆の花もそこいらで調達してきたほどだ。お金を使うのがもったいないのではなく、祖父母に習って。さすがに頭の重そうなひまわりというわけにはいかない。小菊だけで蕾もちらほらあるけれど、暑いからすぐに枯れてしまうだろう。お墓参りは家族三人で。


 私はもうすぐ自分が入るからきれいにしておきたいのに、姉は家に帰りたいようだった。お墓までは歩いてたったの4分。それなのに月命日もしなくなる。お姉ちゃん、私のときもそうしてね。私が死んだことなんてしょっちゅう思い出さなくていい。仕事に勤しんで。今日と変わらずにTシャツと寸胴の私ではずり落ちそうな中途半端な丈のパンツでたまに会いに来て。



 お盆でも夏祭りの日でも姉は締め切りに追われて仕事をした。私は姉の作業を手伝うより見積もりを作るほうが性に合っていた。職人気質ではないのだろう。根をつめるとか、死にそうだからではなくてやりたくない。姉のように材料を手にした瞬間、こう使おうと思えない。沸き立つものも情熱も皆無。


 そんな私にもメールが届く。

『子ども用の枕も作ってください』

 は嬉しい。しかし、子ども用だからもっと繊細にしなくてはいけないのかと不安になる。薬剤は使っていないが、竹に残留している成分まで調べたほうがいいのだろうか。基準がわからない。竹の砕き方も子ども用はもっと細かいほうがいいかもしれない。姉の少ない友達の子どもに試してもらう。私にはそういう人すらいない。


 今の人間はメリットを意識しすぎだ。デメリットが人を強くする。ガンになってよかったとは思わない。病気になんてならないほうがいい。しかし、知らないことをたくさん知った。


 健康なときはなんで病院が混んでいるのかもわからなかった。そしてお金のある人、ない人、時間のある人、ない人がいる。収入で入院費が変わるなんておかしい。


 自分の人生を悔やむ人もいるのでしょう。私は、しない。むしろこの体に感謝している。だってさ、食べたらうんちにしてくれて、勝手に栄養にしてくれて、便秘にもなるこの体が愛しくてたまらない。


 枕の注文は極たまに。もう今日の発送分は終了。いまいち広がらない。姉のファンが新商品だから買ってくれているという感じ。SNSをしようかな。攻撃されるのは嫌だが、宣伝の仕方がわからん。姉の仕事風景の動画をアップしたらもっとファンが増えるのではないだろうか。


 姉はお昼がカレーだと踊るほど喜ぶ。やっと変な人認定をしてあげる。こういう一面は女としてかわいい。知らなかったよ。


 真夏はさすがにおにぎりではないようだ。精霊でもキミヒコさんの手にも菌がついたりするのだろうか。

「夏のカレーはおいしいけどすぐにいたむのよね。毎日食べたいのに」

 そう言って、汗をかきながら姉がカレーを頬張る。姉の体を思って、お米に麦が混じっている。


「ジャガイモは入れないほうがいいよ。水分の少ない具にすれば日持ちするし、小分けにして冷凍すれば毎日食べられる」

 私の言葉をキミヒコさんが記憶する。私が死んでも姉にカレーを作ってあげて。どうか、二人で幸せに暮らしてください。平穏に。


 その頃になると、私は一人で近所をすいすいと散歩ができる程度まで回復した。病気だった片鱗もない。でもまだ薬は飲んでいる。

 自慢ではないけれど我が家は700坪ほどあって、しかしこの辺ではそれが普通。敷地と畑がつながっているから否が応にも広くなってしまうのだ。裏山の竹藪もあるし。


 一番近くの岩田さんの家には耕運機と最新のトラクター、除雪車まであった。建設業だからって、庭に巨大な機械が並ぶ。ついでに灯篭までたくさん。新しそうな車もあるからしごとがうまくいっているのだろう。


 うちは大丈夫なのだが近所では野菜泥棒騒ぎが起きていて、網で畑を囲う人や防犯カメラをつける人もいるようだった。

「猪よりはいいや」

 と野放しの人もいる。


 一ヶ所からではなくて少しずつ盗めば気づかないのにごっそり盗るから騒動になる。うちなんて食べるのは女二人だから太くなったきゅうりはその辺に山積みで、黄色くなっている。きゅうりはぬか漬けにするがナスの漬物は私も姉も苦手だった。トマトもぬか漬けにできる。


 トウモロコシは風で倒れてしまうし、倒れなかったものも粒が不揃い。難しいが農作業も楽しい。きちんと帰って来るから。

 うちの野菜を使ってキミヒコさんに無水カレーを教える。トマトとナスの消費にもなって一石二鳥。


 温泉に足繁く通う私たちをキミヒコさんが不思議がる。姉は腰が痛いと言うし、私は竹炭を作るときにすっかり使っていなかった太腿の筋肉を使うのだ。裏だけでなく足との付け根が全然伸びない。キミヒコさんが手伝ってくれないとのこぎりで腕も痛い。細くなった腕に急に筋肉がついて、おばあちゃんの腕みたいにたるんでいる。


 温泉は夏でも混んでいた。私の姉の体は似ている。身長は姉のほうが高いのだが首から下なんてほぼ同じ。しかしキミヒコさんは私の体には欲情しないのだろう。日帰り入浴料が100円も値上がりするから姉とぶつくさ文句を言い合う。


「人間は、というか二人はいつも楽しそう」

 とキミヒコさんに羨ましがられるのは妙な気がした。だってあなたは人の何倍も生きれるじゃない。長く生きたとて、楽しみがなければ苦痛なだけなのかもしれないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ