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余命宣告された私を引き取る姉が不憫でしたが、精霊の夫と幸せそうです  作者: 吉沢月見


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竹炭1

 暑さで居間に避難していたせいもあって姉が納期に追われる。できることが限られる。

「しょうがないなぁ」

 と私はいよいよ手伝いを開始する。


 キミヒコさんは成形や移動、荷を運ぶ手伝いはしても編むことは手伝わない。精霊には肩こりも腰痛もなさそうだから彼が手伝ったほうがいいと思うのだが。

 その答えは簡単だった。キミヒコさんは姉が好きだから、つい触りたくなって姉の仕事を邪魔してしまうのだ。故に材料を運ぶ以外は仕事場への入出禁止らしい。かわいらしいというか哀れ。


 キミヒコさんは姉のためにご飯を作り、野菜を育てる。姉はあまりキミヒコさんに感謝をしているようには見えない。冷たい気がする。

 愛なんて人それぞれなのだ。どこの夫婦も愛の比重はまちまち。一貫性も決まりもない。同じくらい好きでいてほしいなんてエゴ。


 さて、困った。手伝いを申し出てみたものの私は自分が根性なしであることを思い出した。唯一の趣味であった沢登りもずっと初心者コース。向上心もない。その場しのぎは得意だが、他に取り柄もなし。

 姉に教わって簡単な枕を編んだのだが、数ヶ所ミスして売り物にならず。


 編むというよりは要領よく巻いてゆくというほうが正しい。土台となる太い籐に縦向きの細い籐をくくって、横の籐を順繰りに編むだけなのに頭でわかっていても手前と奥を間違える。そういえば手編みのマフラーの目もいつの間にか増えていた。手元に集中できない性分なのだろうか。そして、ずっと床に座っているからお尻が痛い。


 性格的に合わない。でも姉が熱心に教えてくれる。

「そうそう。大丈夫よ」


 学生時代、初めてバイトした喫茶店の先輩を思い出していた。メニューを網羅しているからって、全部の注文をソラで覚え、当時は8パーセントだったややこしい消費税も頭の中で計算してしまう。それが普通の彼は、

「なんでできないの?」

 と不思議そうに私を観察した。いや、できないのが普通ですよと反論したかったがマスターも似た感じで、私は不出来の烙印を押された気がして無断欠勤。


 姉が籐の注文ばかり受けるから竹がたくさん余っていた。切ってすぐに使えるように乾燥はさせている。修理は極まれなようだ。修理以外にも使い道はたくさんある。スプーンやフォークだけでなくゴルフのティーも。でも新たな工具を買うには金がかかる。もっと簡単で、人に喜ばれるものがいい。


「竹炭でも作ろうかな」

 私は言った。


「あれって大変なのよ。煙も出るし、何日もかかるんだから」

 自分だって手のかかることをしているのに姉は反対のようだった。


「体の悪い人間は体にいいものを作りたくなるのよ」

 正論のような、逃避のような、わがままだった。


 しかし姉も竹の消費に困っていたようで、キミヒコさんに手伝いを命じる。

 私一人ではできないのだ。キミヒコさんは数メートルの丸いままの竹を私が一人で運んで割れるくらいの大きさにカットしてくれる。青竹も乾燥すれば色が変わる。祖母は何でもお茶にする人で竹の葉を摘んでは乾かしお茶に。よもぎも、まだハーブが一般的でないときから好んで飲んでいた。


「昔は山に籠って炭を作る人がいたでござるよ。あ、いました」

 のこぎりでギコギコ。ガンじゃなくなったら、キミヒコさんが見えなくなってしまうのだろうか。それは困るというよりも、寂しい。恋心というよりはすっかり家族愛。


「言い直さなくても大丈夫です。おばあちゃんと時代劇観てたからわかるよ。戦国ものの漫画も好きだし」

「小春ちゃんはそうだったね。十子は、今のどういう意味? ってすぐ聞き返すけど」

 この人、本当に私を見ていてくれていたのだ。そこにいるのに無視されるって、会話に入れないって、最初からそうだと寂しいとも思わないのだろうか。比例して、姉への依存が強くなる? 反動で愛は歪まない? ずっと姉にキミヒコさんが見えるのはやっぱり愛なの?


 キミヒコさんは葉っぱで昔は森にいて、獣が人に狩られたり、反対に人間が食われたり、四季が変わるように当然にそれらも見ていたのだろう。何百年生きようと人間は小さなことで争いがちだ。私はもうすぐ死ぬから、今は姉とキミヒコさんが幸せならいい。


「炭作りって農家の冬のお仕事だったんでしょう? 今みたいにビニールハウスで温度管理できなかったから。うちの家具作りもそうよね。農作業の合間にやっていて、きっとご先祖様が器用でそれを受け継いでるのよ、お姉ちゃんは」

「小春ちゃんもだよ」

 キミヒコさんに言われて私ははっとした。


「そうなのかな。不器用でお姉ちゃんみたいにきれいに椅子も編めないし、飽きっぽいし、逃亡癖もあるし病気だし」

 思い返すとそんな人生だった。なにひとつやり遂げていない。残せていない。


 キミヒコさんと50センチほどの竹をナタで割る。

「竹を割るのが上手だ」

 キミヒコさんが褒める。


「これ、下手な人いないよ」

 乾燥した竹はナタでトンとすればきれいにすぱっと割れてくれる。縦の繊維のおかげ。


 竹炭のやり方は調べた。乾燥した竹を焼く。ちょうど裏庭に昔はそこでご飯を作っていたのだろうと思われるかまどがあるので、そこへ隙間のないように割った竹を詰める。途中まで節を取ることを忘れていて、姉に注意される。やっぱり職人さんはなにをするにも完璧主義でうるさい。私とは違い、妥協をしない。

 火をくべて、蓋をして、あとは放置。最初は白い煙が黒くなり、透明に。そのままにして勝手に鎮火、自然に冷ます。


「どれくらい待てばいいんだろう?」

 私はネットで検索。


「2、3日じゃない?」

 姉だって炭を作ったことはないのに正解だ。


 ビビりなので3日開けられなかった。いぶしすぎたのか、土などで覆って密閉を怠ったせいなのか最初に手に取った炭はぽろぼろと手で触ると崩れた。


 他のものはきちんと炭になっていて、

「おお」

 と一人、感動する。まだまだこういうことってある。体験できる。キミヒコさんと並んで適当に作ったきゅうりのナムルがおいしすぎたり、余った枝豆をチーズと焼いたら姉に褒められたり。生きてることって悪くないなと思ってしまうよ。


 その炭の使用方法に困った。田舎だから水はうまいし、畑に撒くにも限度がある。竹酸液は作り忘れたし、部屋や冷蔵庫の臭い取りしか思いつかない。靴入れなど使える場所はなくもないが、家が広く風も通るから脱臭の意味がない。雨さえ入らなければ縁側も玄関も開けっ放し。


「枕にしたら?」

 と提案したのは姉だった。


「お姉ちゃんの商売敵じゃん?」

「籐の枕はお昼寝用のイメージでしょ? しかも夏。でも竹炭で作った枕は毎晩誰かの頭を支えるの。小春、人の安眠を願って作ってみなさい」

「バクじゃあるまいし」

 でも、悪くない。誰かの生活の一部になれる。ずっとそういうものを作りたかった。私だけの何かを見つけたかった。今頃かとは思う。私の魂はまだ死の近くにいる。自分でもわかる。


 姉の椅子や家具に対抗したいのではない。一緒になって支えたい。多少なりとも家にお金を入れたい気持ちも大きかった。病院のたびに姉が払ってくれる。生活費も。キミヒコさんはお金がほぼかからなさそうだから一人暮らしの姉に私が加わって、二倍とまではいかなくてもかなり増えただろう。私が死んだら私のお金は姉のものになってほしい。親が死んでるから親のきょうだいにまで相続権がある。きっと放棄してくれるだろうが、念のため遺言書を準備しようか。全部、姉に受け取ってほしい。

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