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余命宣告された私を引き取る姉が不憫でしたが、精霊の夫と幸せそうです  作者: 吉沢月見


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暑さ、病院、畑仕事4

 暑い日は続いているが、7月後半の気温が極端に高く、皮膚も慣れたのかむしろ8月になってからのほうが日差しは優しい気がする。


 私の予定ではぼちぼちもう死んでいるはずだった。死んでも魂はキミヒコさんと同じように浮遊していたのかもしれない。しかしキミヒコさんは姉の役に立つし、精霊ながらもせっせと家を掃除する。


 余命宣告されていたら、あの体の状態ではされたようなものだが、まだ33年しか生きていなくてもしょうがないと諦めただろう。こんな世の中だからではない。体が悪くなったら動きようがない。足掻くだけ無駄という思考になる。魂だけではオバケと一緒。精霊はきれいで、どうしてオバケは反対の清くない存在なのだろう。


 誰に見せるわけでもないのですっぴんが続いて、顔に潤いが足りない。脱衣所にある姉の化粧水を拝借。なんかいい匂い。高そう。いい人生を歩んでいる人はいいものを使っている。無駄金じゃない。食事と一緒で自分に浸透するものだ。でも姉がきれいなのは高級品を選んでいるからではないと思う。


 家に置いてある誰のものかわからぬ古い本などを読み漁りながら死ぬ間際の贅沢な時間を味わう。それが伸びて、ん? と思っているところ。死んじゃうなら知識を蓄えても無駄だけれど、することがないから読み進める。晴耕雨読という言葉があるけれど、家具作りは元々雨で農作業ができないときにしていたものに違いない。それが本業になって、基本的には家具を作り時間があるときに野菜を作る生活になったのだろう。


 山は天気がすぐに変わる。このところゲリラ豪雨が激しく、雲の動きを見ているだけで時間があっという間に経過する。祖母と父は絵を描く人だった。時代のせいもあって、祖母はただ描くだけ。父は県民展に出したりしていた。祖父は仕事よりも絵を優先する父が理解できなかったようだ。精神の逃亡を理解しない人っている。そういう人は必要がないのだ。姉も私も絵は描かない。


 父が描いた『妻の寝顔』は目玉が飛び出すような値段でどこかの富豪が買い取ったらしい。家具職人としても有名だったから、それを見越しての購入だったのだろうが、父は母が亡くなったあと一枚しか描かなかった。そしてそれはうちの物置きにしまってあった。『妻の溝』は父が母の秘肉を描いたもので、どうしてあんなものを描いたのか謎だ。寂しさが父をおかしくさせたのかもしれない。母が亡くなって父は死にたいようで、どんどん小さくなっていった。私はそれを見ないように家に寄りつかなくなっていった。姉は、ずっと見ていたのだ。夫であるキミヒコさんと一緒に。恐らくは老いた自分にげんなりというよりは職人として娘に負けたことが父のやる気を削いだのだろうと推測する。


 その日、じりじりじりと電話が鳴った。私が出るとぽそぽそと拙く話す男の人は出版社の人間だと名乗った。黒電話は厄介で、保留ボタンもないし、その辺に置くと相手にその音とこちらでの会話が筒抜けなのでとりあえず折り返しにしてみた。対応する声が仕事をしていた頃の秘書の話し方に瞬時に戻って自分でも笑えた。

「お姉ちゃん、取材の電話があったよ」

 姉は首を振って、

「断って」

 と言うだけだった。父はよく受けていた。お金になると踏んだのだろう。宣伝にもなる。宣伝費は高いし、それに見合う期待ができるとも限らない。姉はこれ以上忙しくなったら困ると思っているに違いない。


 三年近く先まで毎日この生活なのだ。春夏秋冬、枠を作り、ひたすら編む。入金を確認し発送する。帳簿をつけ、今のところないらしいがお金を振り込んでくれない人にその理由を問いたださなければならない。

 余暇はいらないの? 例えば、旅行とか。そうか、キミヒコさんと出かけても周囲から見たら姉は一人。いろいろと厄介なのだろう。外ではキミヒコさんとは話せない。独り言に見えてしまう。別に変な人認定してくれてもいいと姉は考えるだろう。私がいたらそうではなくなる。私が生きている間だけでも姉のために装ってあげる。


 トウモロコシがにょきにょき伸びる。枝豆は土寄せ。落花生って昔は難しいって言ってたけど、普通に種が売っている。簡単になっているのだろうか。今はたくさんの動画が出回っている。

 一般の人から農家さんまでがコツを惜しげもなく教えてくれる有難い。

 姉の編み方も動画に残しておくのはどうだろうか。きっと嫌だと言うに決まってる。

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