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余命宣告された私を引き取る姉が不憫でしたが、精霊の夫と幸せそうです  作者: 吉沢月見


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暑さ、病院、畑仕事2

 汚い話だが、うんこが固まりつつある。ずっと下痢みたいな感じだったのに、今日はちょっと固形で、それが久しくついカメラを向けて、いやこんなものを死後に見られたらかなわないので撮影はしなかった。でも、明らかに海苔の佃煮じゃない。温水洗浄便座から出る水の違いが大きいのかもしれない。医者には見せるべきなのだろうか。最初に病院へ行ったとき、うまく説明が伝わらなかったから写真に残したのだった。聞かれたら答えよう。


 その日は検査だから朝食抜きのまま姉の車に乗った。不思議と憂鬱とは思わない。


 病院に向かいながら腹が鳴る。この前来たときより格段に元気な自分に気づく。動くのも睡眠すら辛かったはず。キミヒコさんが体にいいものを食べさせてくれるからだろうか。昨日はオクラの煮びたしを食べた。近所の人にもらったものだ。うちのはまだ小さい。実になるのはかわいらしい花が咲いてから。ガンに効くからと、姉が熱心な信者のようにあれやこれやを勧めるからだろうか。動物の角とか睾丸まで頂戴して生きたいとは思わない。私にはしそジュースで充分。色もきれいだし。


 この前は思わなかったが、道沿いの商店やら飲食店が潰れている。時代ってなんなのだろう。いつだって人は死ぬ。寿命や出生率の問題はある。だけれど、最新はどんどん古くなる。だが、姉の椅子はいつだって人に愛される。壊れても直して使ってもらえる。潰れたお店全てが愛されなかったとは考えにくい。需要がなくなるケースもあるだろう。姉の椅子も、姉が死んだら誰も作れなくなる。直せなくなる。それはやっぱり悲しいことだ。


 病院は相変わらず駐車場から混んでいた。しかし、ちょっと離れた場所に車を停めても難なく歩けた。この前は姉が駆け寄ってドアを閉めてくれたが、自分でボンッ。普段のそういう動きができる自分に驚く。


 CTは嫌いなの。なんというか、宇宙ステーションはわからないけど、そういう得体の知れないところに入る気分。ひゅんと一瞬なのだが、酔う。


 鶴亀先生、今日はマスクの間から髭が伸びていることが窺える。彼もまた、休めない仕事なのだろう。

「脳の転移が消えている」

 と先生はぽそっと言った。


 血液検査とお尻にカメラまで入れた。

「前の病院で転移はないって」

 そう聞いていた。私の検査結果を見ながら担当医の鶴亀が息を吞む。どことなく嬉しそうにも見える。


「ああ、嘘だよ。患者に本当のこと言わない場合もある。若い女の子にそんな真実言えないよ。生きる希望なくなっちゃうでしょ?」

「それって余命宣告みたいなものですか?」

「そうだね」さらりと鶴亀が答える。「本当はね、転移だらけ。おっ、こっちも小さくなってる」

 鶴亀は声が小さくて嫌いだ。そして自分の考えを訥々と話す。飄々としていて、人の気持ちとか考えないタイプ。視線も合わせない。私自身よりも私の内部のガンにしか興味がないのだろう。以前の画像と照らし合わせて私のガン細胞の減少を私よりも喜んでいる。


「うわ、3キロも太ってる」

 私は声を上げてしまった。痩せた分が戻ってきた。そうだよな、昨日鍋のあとにバニラアイスを食べたもん。濃厚だったから400キロカロリーくらいあるのではないだろうか。半分残そうともしたが、夜のうちに死んだら姉が悲しむだろうと思って完食してしまった。食べれなかった私が、食べだしたら途端に太るのだ。全吸収。


 明日から土を耕して痩せよう。でも顔や手にシミができるのも嫌なの。わがままだな、私。


「なにか生活に変化はありましたか?」

 担当医の鶴亀が聞く。


「殺人事件が解決しました」

 私は答えた。


「へ?」

「なんでもないです。野菜を育てています」

 と豆が潰れた手を見せた。


「土に触れていると落ち着くタイプの人間もいるそうですよ」

 自分は違うと言わんばかりの口調。


「昨日はキノコをたくさん食べました」

 姉が食べさせるから多種多様なキノコを食べた。なめこよりももっと黄色いキノコが毒キノコっぽくてちょっと嫌だった。先に姉が食べてから口へ運んだ。ヒラタケは好きだ。


「それ、迷信ですよ。学術的には…」

 やっぱりこの人、話し方も面倒臭そう。今日は私一人で問診。姉は廊下で待ちながら、この時間に小物ひとつなら作れると思っていないだろうか。


「知っています。今日はこのあと姉と野菜の苗を買って帰ってまた植える予定です。あと精霊の知り合いがいます」

 鶴亀は聞き逃してくれなかった。


「そういう話、好きです。今度ゆっくり、是非」

 笑った顔なんて初めて。黒縁メガネで今日ももっさり。笑ったときに気づいたが、もみあげと髭がくっついてしまっている。


「先生のことはタイプじゃありません」

 と断った。


「次来るときは小ぎれいにしておきます」

「はあ」

「これでも身ぎれいにしたらそこそこなんですよ」

 斜め上をゆく人ってこういう人。鼻歌まで歌って、おかしい人だ。おかげで大便の話をすることをすっかり忘れてしまった。


 心配すると思い、姉に口説かれたことは言わなかった。ガンが小さくなってることを伝えたら、

「やっぱりこっちが合うのよ」

 と笑った。そうなのかもしれない。

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