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未完の大魔導士――俺の近くでは何も完成しない――  作者: 勇者ヨシ君
第11章「大陸巡行――帰れない勇者」

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第185話「三日月の追加武装」

 盾は攻撃を止めるためだけにあるとは限りません。

 受けた力を別の場所へ通し、その後に自分の手を自由へ戻せるなら、小さな護りでも次の一手になります。

 完成した【環刃短杖(リング・エッジ)】の試作一号は、武器というより骨組みに近かった。

 七環導杖(セプテム・ロッド)の柄へ軟鉄製の短刃が沿い、その根元から三日月形の環が折り畳まれている。柄を捻って固定環を開くと、長軸の下半分が内側へ縮み、短刃と護拳が同時に展開する。杖頭は残り、内部導線も切れない。全長は普段の半分ほどになり、外見だけなら幅広の短剣へ小盾(スモールシールド)を付けたように見えた。


 ただし、刃はまだ研がれていない。三日月環も本物の剣撃を受けるには薄く、四本の安全破断ピンは意図的に弱い素材で作られている。

 ロッテは試作を両手で支え、レイルへ渡す前に念を押した。


「攻撃を正面から止めない。環へ入った刃を外側へ滑らせる。破断音がしたら即座に離す。試射は四層まで。発射前に足裏の排圧路を開く。どれか一つでも忘れた場合、私はその場で試験を終わらせるよ」

「理解している」

「復唱しな」

「正面受け禁止。環へ滑らせる。破断音で離す。四層上限。足裏排圧を先に開く」

「あと、独断改造禁止ね」

「今日はしていないが?」

「復唱する!」

「独断改造禁止です」

「はい。よろしい」


 レイルは試作品を受け取った。

 通常形態では、刃も環も杖へ密着している。近接形態へ切り替えると、柄の重心が手元へ寄り、杖頭の存在だけが前方へ残る。掌中央には空洞があり、親指から中指で主柄、薬指と小指で補助環を支える特殊な握りになっていた。

 握力だけで持つより不安定だが、掌の【生体導出端(マナ・ポート)】は塞がらない。


「右手だけで形成してみてください」


 セレネが観測環を開く。

 レイルは掌中央へ微風を集め、短刃の内側から杖骨へ通した。魔力は七環導杖の長軸を上がり、杖頭へ小さな風弾を作る。


「経路損失、通常形態より一割二分増加」

「多いな」

「手を開くことで接触面が減っているの。代わりに、武器を握ったまま掌導出が成立してるってこと」

「左手も空いている。二路形成は可能そうか?」

「試作一号で試す項目ではないよ」


 ロッテが即答する。


「今日は防御と一発射だけだよ」

「一発ではなく四層を試したいのだが?」

「四層を一発として撃つ気だろ?レイルは」

「形成は四件するが......」

「言葉で上限を広げないでくれない?」


 ニアが少女型でレイルの横へ立ち、黒銀色の猫耳をぴんと立てた。


「ロッテ強い。レイルの言い換えバグ、全部塞いでる」

「バグではない」

「本人だけ仕様って言うやつ」


 最初の受け流し相手はアルドだった。

 白銀鎧の上半身だけを軽装へ替え、刃引きした片手剣を持っている。正面衝撃を避けるため、振り下ろしではなく右上から左下への斜め斬りに限定された。


「出力は二割にする」


 アルドが言う。


「一割から始めよう」


 レイルが返す。


「俺の一割では剣筋が遅すぎるんだが」

「遅くていい。環へ入る角度を見るためだからな」

「分かった」


 アルドは一歩踏み込み、剣を振った。

 レイルは短刃を合わせる。鋼同士が触れた瞬間、刃を止めず三日月環へ導く。剣が環の内側へ滑り、外縁へ沿って右へ抜けた。

 手首へ衝撃は残るが、前日の仮刃ほど捻られない。環から杖骨、長軸へ力が流れ、石突き側の排圧板が小さく開いた。


「成功角度、外向き十四度」


 セレネが告げる。


「次は二割でいくぞ!」


 アルドの二撃目は速い。

 レイルは接触点を少し手前へ置いた。剣が環へ入る前に短刃を押し、三日月全体が内側へ撓む。破断ピンの一本が乾いた音を立てた。


「離して!」


 ロッテの声と同時に、レイルは柄を緩める。

 環の外側が開き、アルドの剣だけを前へ逃がした。試作は手首帯に残ったが、腕を引かれる力は小さい。


「む、早い」


 アルドが剣を止める。


「二割で壊れたぞ」

「壊れるように作ったからね」


 ロッテが破断部へ駆け寄る。


「レイルの受け角度が内へ三度入りました。正しい角度なら耐えた可能性はありますが、腕で受け続けるより先に環を開く設定です」

「戦闘中に一回で壊れたら盾として使えないじゃないか」

「一回、腕を守れたんだ。交換ピンは腰の予備から差し替えられるようになってる」

「敵は待ってくれないぞ?」

「待たないだろうね。だからアルドが前へ立つんだよ、あくまでこれは緊急時用の防御策だから」


 ロッテは当然のように答えた。

 アルドは試作とレイルを見比べる。


「俺が前へ立てない時に使う武器ではないのか」

「レイルが一撃を受けて射線を作る時間が必要な場面もある。ただ、武器があるから前衛を不要にする設計にはしてない

「ならいい」

「何がだ」


 レイルが尋ねる。


「お前が剣を持ったから、後ろへ下がらなくていいと思うなら困る。俺は守る位置を覚えている途中だ」

「俺も剣士になるつもりはない。受けるのは、逃げるか撃つまでの一撃だけだ」

「その一撃を、俺が減らすつもりだ」

「頼むぞ」


 短い約束だったが、アルドは満足そうに頷いた。


 破断ピンを交換し、次はリィナが相手へ立った。

 彼女の試験剣は愛剣より軽く、刃の戻りも速い。受けるレイルにとっては、アルドより力が小さくても難しい相手になる。


「最初から一手だけ?」

「一手目を流し、四層を作る姿勢まで試そうと思う。撃つ時は停止標的へ変えるから」

「私の剣を押さえたまま撃たないの?」

「試作の環へ人の剣を残した状態で発射すると、反動がリィナへ伝わって危ないんだ」

「そこはちゃんと考えてくれてるんだ?」

「考えていないように聞こえてるのか?お前」

「昨日、自分の指を落としかけた人だからねー」

「寸前で止まっていただろ!」

「私が止めたの」

「分かっている」


 リィナは試験剣を構え、金茶色の瞳を細めた。


「じゃあ、今度は自分で止めてみせて!」


 彼女の踏み込みが速い。

 剣先は右肩へ来ると見せて、途中で手首へ落ちた。レイルは短刃を下げ、三日月環へ刃を入れる。リィナは接触した瞬間に力を抜かず、そのまま柄を返して環の外へ切り上げようとした。

 レイルは環を外側へ傾け、剣を上へ逃がす。腕を追わせず、右足を引いて身体を半身へする。刃が頭上を通過した時、環刃短杖(リング・エッジ)の切っ先は自然にリィナの胸元へ向いていた。

 互いの距離は一歩。リィナは剣を止めたまま、レイルの切っ先を見る。


「今なら撃てるの?」

「射線はあるな。ただ、近すぎる」

「敵なら待ってくれないよ」

「敵には、胸ではなく肩か足へずらす。相手が魔王種クラスなら出力を変えるつもりだ」

「私だから撃たない?」

「当然だろ?」


 返事が早く、リィナの瞳が少し揺れた。


「……そっか」


 レイルも距離の近さへ気づく。

 環刃短杖の三日月が、彼女の剣を外側へ押さえ、二人の腕が交差している。赤栗色の髪から、朝の石鹸と炉煙の匂いがした。

(訓練だ。射線と距離を確認する)


「今、また分析してる顔」

「何も言っていない」

「分かる。もう少し、別のこと考えてもいいのに」

「例えば、なんだよ?」

「自分で考えて」


 リィナは剣を引き、距離を取った。

 ニアが空中で両手を頬へ当てる。


「近接武器の試験なのに、恋愛距離まで近接してる。設計以上の性能出てない?」

「うるさいぞニア、次の射線表示をはやくよこせ!」

「はい逃げたー」

「逃げていない」

「リィナ、判定は?」

「保留にしとく」

「未完きた」

「その言い方やめてよね!」


 試射は中庭の最奥で行われた。四件の【未完(ノット・コンプ)】を近接姿勢のまま分離できるかが、最後の試験となる。

 石壁へ、厚い衝撃吸収板が三枚重ねられている。レイルは環刃短杖を近接形態へし、右手で保持。左手は自由なまま、足裏へ排圧用の微風を通した。

 四枚の小型形成環を順番に起動し、一件目を右掌の熱、二件目を左手の圧力、三件目を杖頭の重量へ置く。四件目だけは、ニアが視界へ出した白い環へ結びつけた。


 昨日と違い、七環導杖は固定されていない。右手へ一件目と三件目の負荷が重なりかける。その境界を、環刃短杖の補助経路が分けた。


「四件分離。保持時間、一・七秒」


 フィアの声。


「排圧路、開いています」


 セレネが足裏の風向きを確認する。


「試作環、温度上昇。許容内。射線、標的中央」


 ニアの口調が解析へ切り替わる。


「連環完成、〇・〇四秒間隔を推奨」

「未完記録、一番から四番。完成順、前から」


 レイルは三日月環を標的へ向ける。


「――連環解放」


 一件目の風弾が杖骨へ通り、二件目が後ろから押す。三件目、四件目が同じ射線へ重なり、単発より太い風圧となって衝撃板へ突き刺さった。

 爆発ではない。

 四度の衝撃がほとんど一つに聞こえ、中央の板だけを拳大にへこませる。

 反動が環刃短杖から右腕へ戻る。レイルは足裏の微風を後方へ噴かし、半歩下がって受けた。

 安全破断ピンは残っている。手首も動く。


四層(フォースレイヤー)発射(ショット)、成立」


 セレネが観測板を見て言う。


「威力は中級上位。上級には届きませんが、形成から発射まで六・八秒です。通常の中級複合より速い」

「魔力損失は?」

「単発四回より二割一分少ない。各風弾の余剰圧を次層へ渡せています」


 ノアが衝撃板へ近づき、へこみの深さを測る。


「理論上、六層なら上級入口へ届く可能性があります。ただ、今の試作は四層で環温度が七割。六層を撃てば、刃か排圧副路が先に曲がります」

「改良すれば」

「保持数もまだ四件です。武器だけ六層にしても撃てません」

「分かっている。次の目標として聞いた」

「それなら回答します。可能です。ただし、四層を十回再現し、剣戟後にも同じ射線へ撃てることが先です」


 レイルはへこんだ標的板を見る。

 長い詠唱をしていない。四つの小魔法を一件ずつ保持し、剣を流した後の片手姿勢から撃った。構想していた戦い方の、最初の輪郭が現実へ残っている。


「成功した」


 今回は、条件を並べる前に言えた。

 リィナがすぐ横で笑う。


「うん。ちゃんと嬉しそう」

「顔に出ているか」

「少し」

「記録しますか」


 フィアが尋ねる。


「そこは記録しなくていい」

「任務記録には入れません」

「別の記録へ入れるのか」

「未確認です」


 フィアは珍しく、答えを空欄へ残した。

【今回の登場人物】


・レイル・アルヴァート

 七環導杖と接続した環刃短杖でアルドとリィナの剣を受け流し、掌を塞がない片手姿勢から四層風砲を初めて連環解放した魔導士。


・リィナ・アルセイル

 軽量試験剣の速さで三日月環の弱点を探り、胸元へ切っ先を向けられた近接距離でも訓練と感情の両方を保留にした剣豪。


・アルド・クロイツ

 二割の斬撃で安全破断ピンを試し、自分が全てを守れない時の一撃を武器に任せつつ、前衛を不要にしない設計を確認した護衛役。


・ロッテ・ベルクマン

 正面受け、四層上限、足裏排圧、独断改造禁止を復唱させ、壊れることで手首を守る試作一号を実戦試験へ出した魔導技師。


・セレネ・グランツ

 開掌把持による経路損失と四層発射速度を測り、単発四回より低い消費で中級上位へ届いたことを数値化した術式設計者。


・ノア・エルグラム/フィア/ニア

 六層上級化の可能性、保持解除順、射線と環温度をそれぞれ管理し、武器が能力を代行しない条件を守った研究・記録・解析担当。


【今回の能力・設定メモ】


・環刃短杖・試作一号

 七環導杖の柄へ接続し、長軸を切らず近接形態へ短縮する。短刃で敵剣を三日月環へ導き、護拳で滑らせた後、その姿勢から杖頭へ射線を通す。


・四層連環解放

 同型風弾四件を〇・〇四秒ずつずらして同一射線へ完成。中級上位の威力に留まるが、単発四回より魔力損失が少ない。


【次回】


 リィナは八割七分の試験剣で街中の実地歩行へ出ますが、軽くなった切っ先は本人が思うより早く届きます。


 剣を止めず三日月へ流した姿勢が、そのまま四つの風弾を撃つ射線へ変わりました。レビュー、ブックマーク、フォローで、次に軽すぎる剣が縮める間合いと二人の距離を見届けていただければ幸いです。


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