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残された謎
何も、残らなかったはずだった。
リナは、手を伸ばす。
空になったはずの領域。
本来なら、完全に消去されているはずの座標。
——わずかに、揺れている。
ノイズ。
意味を持たない、ただの乱れ。
そう定義されるはずのもの。
指先が、触れる。
一瞬。
何かが、流れ込む。
知らないはずの感覚。
知らないはずの時間。
言いかけて、わずかに止まる「間」。
「……」
リナは、息を止める。
今のは——違う。
ただの、ノイズだ。
そう思った瞬間、揺らぎがほどける。
形を失い、ただのデータの塵へと戻る。
沈黙。
何もない。
何も——残っていない。それでも。
消える直前のあの揺らぎが、こちらを見ていた気がした。
リナは、もう一度だけ手を伸ばす。
触れてはいけないものに触れるように、慎重に。
しかし今度は、何も起きない。
完全な空白。
ただ、冷たい空間だけが広がっている。
「……気のせい」
そう呟いた瞬間、胸の奥で、何かが引っかかる。
否定しきれない、わずかな違和感。
言葉にすれば消えてしまいそうな、かすかな痕跡。
それはまるで——
死の直前に、彼が放った一瞬の「祈り」のように見えた。
カジムが、何かを言いかけてやめた。
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