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不変の残り香 -Last Memory  作者: kai
消失
2/11

-1ビットの断頭台-

そのとき、リナの視界に通知が割り込んだ。


『対象者:サク

 地球ノードへ接近

 同期プロトコル開始まで、あと300秒』


——一瞬、時間が止まった。


サク。


その名前を認識した瞬間、思考が追いつかなくなる。


指先が、わずかに震えた。


「……嘘」


喉の奥で、声にならない音が漏れる。


彼は、もう戻らないはずだった。


一千年前。

最後に触れた指先の感触だけが、ずっと残っている。


彼はいつも、「またね」を少しだけ笑って言った


ただそれだけを残して、彼は光の向こうへ消えた。


それから、どれだけの時間が過ぎたのか。

リナには分からない。


けれど今、


——300秒後に、彼は帰ってくる。


「カジム……」


自分の声が、どこか他人のものみたいに聞こえる。


指先が止まる。


「……本当に、サクが帰ってくるの?」


言葉にした瞬間、ようやく実感が追いついた。


胸の奥で、何かが弾ける。


期待か、恐怖か、それとも——


まだ名前のつかない感情。


「同期開始。ハッシュ値照合中……」


無機質な声が、やけに遠く聞こえる。


リナは器のそばに立っていた。

白い躯体。まだ、何も入っていない。


——300秒。

その残りが、やけに長い。


光が走る。


サクのパケットが、地球の受信網に触れた。

視界の奥で、何かが“来る”。


息が、止まる。


「……サク」


返事はない。


ただ、数値だけが進む。


99.999…%


——止まった。


一瞬、世界が静かになる。


「……え?」


リナは画面を見る。

数字は動かない。

完了しない。


ほんの、わずか。


ほんの、ひとつぶん。


「警告。整合性エラー」


声が、急に近くなる。


「1ビットの齟齬を検出。プロトコルを停止します」


「待って」


理解が追いつかない。


「対象データは改ざんの可能性あり。安全のため——」


「待って!」


器の内部で、光が乱れる。


流れ込んでいたはずの“何か”が、形を失っていく。


ノイズになる。


崩れる。


「やめて……!」


手を伸ばす。


触れられない。


サクの輪郭が、確かにそこにあった。

声にならない何かが、こちらへ届こうとしていた。


——その瞬間。


すべてが、切断された。


光が消える。


沈黙。


表示だけが残る。


ERROR


リナは、動けなかった。


たった1ビット。


それだけで。


彼は——


――いなかった。

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