16 完結
■
フィオは空地で、アーヴィントに訓練を付けて貰ったら。厳しい訓練だったが、本気で相手をしてくれて嬉しかった。
「今日はこのぐらいにしておくか……」
日の落ちる夕方まで、訓練して貰った。
「ありがとうございました!」
フィオは勢いよく頭を下げた。
「……」
頭を上げるとアーヴィントが、フィオを見下ろしている。
「?」
「……飯、食いに行くか」
「え、あっ、喜んで!」
アーヴィントが頷き、背を向けて歩き始める。久しぶりに、アーヴィントと一緒に風封亭に向かった。
アーヴィドが次々料理を頼んで、どんどん食べる。
(相変わらず良い、食べっぷり……)
「ぼーっとしてないで、おまえも食え」
「え、あ、はい!」
豆のスープを飲む。フィオはこの店の素朴な料理が好きだった。
「今日は俺のおごりだ」
「えっ」
「なんだ」
「だって、おごりなんて」
見習い期間中におごって貰った事は一度もない。
「うるせえ、この間の礼だ」
「この間……」
「甘ったるい飴を押しつけただろ」
「あ!」
「俺は借りを作るのが嫌いなんだ。良いから食え」
「は、はい!! いただきます!!」
(飴、口に合わなかったのかぁ!!! けど、おごって貰えるのは嬉しい!!!)
三ヶ月も前の贈り物の事を律儀に覚えてくれている事が、フィオは嬉しかった。
■
きまぐれに風封亭に誘って、フィオに飯を喰わせた。自分の金で、他人におごるのは初めてだった。フィオは、おずおずと、しかし美味そうに飯を喰った。
その時、子供のアーヴィドに飯を喰わせるフィオが笑っていた事を思い出した。心臓の横がくすぐったい。右手で胸を押さえるが、それは治まらない。
(なんだコレ)
痛いような気もする。おそらく原因は、目の前の男だろう。料理に毒の味はしない。そもそも、アーヴィドに生半可な毒は効かない。
胸が痛い、くすぐったい、妙だ。けれど、フィオをずっと見ていたかった。
■
ひと月程、アーヴィントに毎日訓練を付けて貰った。そのおかげで、ラウル達のパーティーに着いて行く事は出来なかった。
(ずっと訓練ばかりなのもな……)
それを察したのか、アーヴィントの方から『ダンジョンに行ってみるか?』と提案された。フィオは喜んでその提案を受けた。
そして、サイクロプスと対峙していた。
「まぁ、出来る範囲でやってみろ」
アーヴィントは、後ろで腕を組んで見ている。
(ひえぇ!!)
以前ボロ負けしたサイクロプスを目の前にして、フィオは震えていた。しかし、このひと月間、みっちりと受けたアーヴィントの訓練を思い出す。すると、震えが止まる。
(大丈夫、俺なら出来る!)
剣を握りしめ、サイクロプスに立ち向かった。
途中、アーヴィントに加勢をしてもらいながら、どうにかサイクロプスに勝つ事が出来た。以前よりも、強くなっている事が確信出来た。
「はぁ、はぁ、はぁ……やったぁ!!」
「及第点ってとこかな」
アーヴィントがワープ石に近づく。帰るのだと思い、フィオもその傍に行く。しかし、次に飛んだ場所はまだダンジョンの中だった。
「え?」
「着いて来い」
アーヴィントが、どんどんダンジョンの奥へと進んで行く。
(え、え、まさか、この後更に別の魔物と戦う感じ?)
さすがに疲労困憊で辛かった。
(も、もう勝てる気しないなぁ……)
涙目にながら、フィオはアーヴィントの後ろを着いて行った。
アーヴィントが、壁の前で立ち止まって石を一つ押す。すると、隠し通路が現れる。
「わっ」
ダンジョンの中には、秘密の通路や部屋が存在していた。それらの情報は、一部の冒険者しか正確な場所を知らない。
アーヴィントがその細い通路に入る。フィオも恐る恐る中に入る。後ろで、壁が閉じる音がした。
しばらく歩くと、毛皮のかかった場所が奥に見えた。アーヴィントは、その毛皮を開けてフィオの方を見る。
「入れ」
「は、はい」
中に入ると、そこは部屋のようだった。地面に毛皮が敷かれていて、壁際に小さな棚が置かれている。中央の囲炉裏で、魔石の火燃えている。部屋の端には、宝箱や布袋が置かれている。宝物部屋と言うより、住居のようだった。
「あの、ここは……」
「俺のねぐらだ」
「へっ!」
「適当に座れ」
アーヴィントは、毛皮の積まれた場所に座る。フィオも、毛皮の上に座った。
「ねぐらって……アーヴィントさん、ココに住んでるんですか……?」
「あぁ」
ダンジョンの中に住んでる冒険者なんて、彼だけだろう。
「す、すごいですね……」
「元々、ずっとココは俺のねぐらだったんだ。そしたら冒険者の奴らが、下りて来るようになった。ダンジョンにいるんなら、ギルドに所属しろと言われたから、仕方なく……冒険者になったんだ」
「そ、そうだったんですか!?」
思いがけない経歴だった。
「けど、なんで……こんなところに住んでたんですか」
アーヴィントに睨まれる。
「……人間が嫌いだからだよ」
「あ……」
フィオは黙ってしまう。
子供の彼、『アヴィ』は他者を強く警戒していた。それは、他者に危害を加えられた経験があるからだろう。だから、あんなに警戒心が強かったのだ。
(親に捨てられて……周りからも、助けて貰えなくて……)
人を嫌って、ここに逃げて来たのだろう。
そう思うと辛くなる。アヴィは、どんな思いをしてここで生きていたのだろうか。
「なぁ」
黙っていると、唐突に声をかけられる。
「は、はい! なんですか、アーヴィントさん!」
「おまえ、俺とパーティーを組まないか」
「えっ!」
「嫌なのか」
「そ、そんな事はないですけど! えっ、でも、それ全くアーヴィントさんにメリットが無い気がするんですけど!!」
アーヴィントが眉を寄せて睨んで来る。
「良いだろ別に」
「そ、そうですね! ありがとうございます!!!」
理由が気になるが、教えてくれそうに無い。ひとまず、フィオは礼を言った。
「じゃあ、これからは俺とダンジョンに潜るんだぞ。あの……赤い髪の奴とはもう潜るなよ」
「ラウルですか? え、けど、たまに誘われる事もあるだろうし……」
「潜るなよ」
アーヴィントが低い声で唸った。
「はいっ!」
「よし」
アーヴィントが立ちあがって、毛皮をめくって部屋の外に出てしまう。一人残されて、フィオはソワソワしながら部屋の中を見渡した。
(あ)
先ほどアーヴィントが座っていた、毛皮の山の傍に、小さな箱が置かれているのが目に入った。それは、フィオが贈った飴の箱である。
どうやら、捨てられてはいなかったらしい。
(ちょっと嬉しい)
アーヴィントが戻って来て、フィオに干し肉を差し出す。
「食え」
「あ、ありがとうございます」
アーヴィントが毛皮の上に座って、干し肉をかじる。フィオもそれに倣って、干し肉を食べた。
(あ、美味しい)
「これ、なんの干し肉なんですか?」
「サイクロプスだ」
「えっ!?」
「なんだ、魔物食べるのは初めてか?」
戸惑いつつも、フィオは肉を飲み込んだ。
「魔物って美味しいんですね……」
「おまえ結構、神経図太いよな」
アーヴィントは面白そうに笑った。
干し肉を食べた後、アーヴィントは毛皮の上に横になった。
「今日はココに泊まって行く。おまえも寝ろ」
「は、はい」
フィオは装備を外して、毛皮の上に横になった。毛皮はフカフカで寝やすかった。
何かが当たった気がして、フィオは目を開ける。
(おうっ!?)
近くにアーヴィントの頭があった。寝た時は、離れた場所に居たのに、互いに寝相がひどすぎた。
浅く寝息をたてるアーヴィントを見て、フィオはなんだか懐かしい気持ちになった。
(アヴィとも、よくこうやって寝てたな……)
そっと手を伸ばして、髪を撫でる。アーヴィントを起こさないように何度か撫でた後、フィオはそのまま傍で眠った。
■
アーヴィントは、フィオが起き上がった瞬間に、すぐに目を覚ましていた。しかし、寝たフリをして彼の動向を伺った。すると、頭を撫でられた。突然の事に、固まってしまった。彼は数度撫でて、そのまま寝てしまった。フィオの寝息が聞こえた後に体を起こして、フィオを見た。
思わず、抱きしめてしまいそうな衝動をアーヴィントは必死にこらえた。
■
あれからフィオは、アーヴィントとダンジョンに潜るようになった。フィオの実力が不足していたら、アーヴィントが地上で訓練を付けてくれた。食事は、風封亭でとったが、夜は彼のねぐらに連れて行かれた。たまに目を覚ますと、アーヴィントに抱き着かれている時があった。心地良い体温に、フィオはそのまま眠ってしまった。
ダンジョンでも、街でも一緒にいるので、ドニに『恋人みたいね』とからかわれる事もあった。彼の相棒だと、周りからも認められたと言う事だろう。それがフィオは嬉しかった。
おわり
ちょっと上手く、書けなかったです。




