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■


 四十階のボスフロアで、フィオ達はサイクロプスに挑んでいた。広いフロアで、ヒーラーのリリーが悲鳴をあげた。

「リリー! 落ち着いて! ラウルを回復してやってくれ!!」

 フロアの中央で、サイクロプスが棍棒を振り回していている。四人にいる内の仲間の二人が倒れてしまった。頼みの綱のリリーは、震えて混乱状態にある。先ほどから何度も詠唱に失敗している。

「くっ!」

 倒れた仲間達が潰されないように、フィオはサイクロプスを引き付けていた。こん棒を剣で受け止める。

「ぐぅう!!!」

 巨体のサイクロプスは、一撃一撃が重い。ステータス向上のバフも剝がされてしまった。バフをかけられるラウルは意識を失って倒れている。

(このままじゃ俺達……!)

 フィオは、腹の奥がすくむような恐怖を覚えた。

 もう一度、こん棒が振り上げられる。バフが剥げた今、あのこん棒を無事に受け止められる自信が無かった。

「ウラアア!!!」

 突然、真横から黒い人物がサイクロプスに蹴りを入れた。

「ーーー!!!!」

 サイクロプスの頭部が一瞬で破裂した。

「あ……」

 それは、フィオのよく知る人だった。

「ア、アーヴィントさん……」

 黒い甲冑のような鱗で覆われた『竜化』したアーヴィントが、死体になったサイクロプスを見下ろした。

 アーヴィントの姿を見て、フィオは力が抜けた。気力が尽きて、床に倒れてそのまま気を失ってしまった。

「おい……!!」

 アーヴィントの焦ったような声が聞こえたが、フィオは彼の声を聞いていると、とても安心した。


■


 フィオが目を開けると、そこはギルドの医務室だった。今まで何度もお世話になった場所である。

(俺……また、倒れちゃったのか……)

 くらくらする頭で起き上がり、周囲を見渡す。隣に、ラウルが寝ていた。

(あ……)

 ダンジョン攻略に気を抜いたつもりはなかったのだが、五十階のボス部屋でパーティーはボロボロになってしまった。攻撃を引き受ける、タンク役の冒険者が早々に倒れたのが痛かった。その後、ラウルが倒れ、ヒーラーのリリーも混乱して詠唱が上手くいかなかった。

 しかし、彼がやって来てくれた。

(アーヴィンドさん!)

 もうダメだと思った時、黒い影がサイクロプスの頭を打ち砕いた。黒い鱗に体を覆われたその人物は、間違いなくアーヴィンドだった。

(アーヴィンドさんが、連れて来てくれたのかな……)

 額に触れると怪我が治っている。肋骨の方も大丈夫そうだ。

(お礼を言わないと……)

 ベッドから下りようとしたら、誰かが医務室に入って来る音がした。のしのしとベッドの側に歩いて来て、カーテンを開ける。

「あ!」

 アーヴィンドがフィオを見て睨む。フィオは慌てて立ち上がって、頭を下げた。

「あの! 助けていただいて、ありがとうございました!!!」

「おい」

 アーヴィンドが、フィオの頭に手を置く。

「?」

 そのまま顔を上げて、アーヴィンドを見上げる。

「傷は良いのか」

「あ、それは! バッチリです! 痛み止めも効いてます!」

「そうか」

 アーヴィンドが、フィオの頭から手を離す。

(も、もしかして、心配してくれてる?)

 嬉しくて、胸がじーんとした。

「おまえ、弱過ぎないか」

「え」

「サイクロプス程度に負けるなんて……」

「す、すいません……」

 フィオは情けなくて、背を丸めた。

「こんなに弱かったら、俺の評判まで落ちちまう」

「うっ……」

 アーヴィントの言う通りだった。

「……おい」

「はい……」

「明日から、オレが訓練をしてやる」

「えっ!」

「嫌なのか」

「そ、そんな事はないです!」

「……なら、前に使った空地に朝から来い。良いな」

「はい!!」

 アーヴィントは、鼻を鳴らして医務室から出て行った。まさか、また訓練を付けて貰えるとは思わず、フィオは嬉しくなってしまった。

「おまえの先輩も、良い人だな」

 不意にかけられた言葉に驚く。

「ラウル! 大丈夫か?」

「あぁ、傷は塞がってる。けど、痛み止めが切れてるみたいだ……まだ動けそうにない」

 ラウルは、棍棒で右肩を強打されていた。

「アーヴィンドさんに礼を言っておいてくれないか」

「あぁ!」

 フィオは、先輩のアーヴィントをとても誇らしく思った。彼のおかげで、自分達のパーティーは生きて帰って来れたのだ。


■


 ドニはしかめっつらでやって来た男を見返す。 

「フィオの様子はどうだった?」

「ピンピンしてやがった」

「ふふっ、あんたって意外と後輩思いなのね。見直したわ」

「ふんっ」



つづく


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