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第一章 二人の楽園 5話:【聖域への渇望と、種まく者たち】

境界の外は、終わりのない地獄絵図であった。

魔王たちが闊歩するこの世界において、人間族の居場所などどこにもない。どの国も魔王の領土であり、人間は家畜以下の扱いを受け、虐げられている。各地に点在する魔王国のスラムで、人々は血の滲むような手段を講じ、ただ一つの希望――あの「古城」を目指して彷徨い続けていた。


そこは、唯一、人間が人間として息ができる場所。


しかし今、その難民たちの間で奇妙な詩が囁かれ始めていた。

それは、孤高の古城の主である「王 シン」について。彼が執拗なまでに守り抜く「女王 アリシア」について。そして、決して開かれることのない「境界の内側」について。


『銀の王は傲慢なり。己の女を飾るため、楽園を独り占めす』

『黒の妃は魔女なり。神の恩寵を拒み、男を籠に閉じ込める』


詩の内容は、あることないことの羅列だった。いや、それは事実というよりも、境界に入れない者たちの嫉妬が煮詰められ、毒として結晶化したものだった。自分たちが飢えと恐怖に震える中、城の中で甘い時を過ごす者たちへの妬み。その淀んだ感情が、難民たちの間で伝染病のように広がっていく。


彼らは知らない。この不穏な詩が、自らの魂を救うはずのない「天使族」によって撒かれた種であることを。


天使族の魔王たちは、古城を直接攻める愚を避けた。王の力はあまりにも理外であり、正面から挑めば要塞ごと地図から消されることを理解していたからだ。

ゆえに、彼らは「内側」を腐らせる道を選んだ。民の不満を煽り、王への信仰を疑心暗鬼へと変え、いつか女王がその慈愛ゆえに自ら門を開くように仕向ける――。


境界の外側では、聖歌という名の呪詛が積み上がっていく。

古城のテラスに座す二人は、まだ知らない。その詩が、王の逆鱗に触れ、やがて世界を塗り替える引き金になるということを。


ただ、結界という名の薄い膜の向こう側で、世界は静かに、しかし確実に「終わり」へ向かって毒を回し始めていた。


 

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