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第八章 エピローグ・聖域の日常 38話 【静寂の後の激震】

城の執務室は、まるで戦場のような忙しさに包まれていた。

宰相エルサは、山のように積み上げられた報告書を黙々と片付けている。一つの国家が地図から物理的に消滅したという事実は、大陸全土に激震を走らせていた。国際情勢の再編、要塞から救出した難民たちの受け入れ先調整、そして何より、王による「天変地異」の事後処理――。それら全てが、エルサの肩に重くのしかかっていた。


ペンを走らせる手がふと止まる。窓の外を見やると、かつて要塞が浮かんでいたはずの空が、あまりにも澄み切って広がっている。

「……まったく、破天荒にも程がありますわ」


彼女は小さく苦笑し、溜息を吐いた。かつては王の蛮行を諫めようとしていた彼女も、今では「この理不尽な夫婦が世界を動かしている」という現実を、もはや摂理として受け入れている。彼らの圧倒的な力と、その裏にある歪なほどの愛。それらを支え、国家として形を成させることこそが、自分に与えられた唯一の役割なのだと。


一方、城の結界入り口では、レヴォルテが悠然と難民たちの整理を行っていた。

彼が掃除をしているのは、文字通り「かつて要塞にいた敵軍の残骸」である。先ほどまで生きていたはずの兵士たちが、今やただの「塵」として掃き出されるのを眺めながら、レヴォルテは今更ながら背筋を震わせた。


「ははっ……。一瞬で、塵か。相変わらず、とんでもない王だ」


恐怖と畏怖、そしてそれを上回るほどの高揚感が、彼の心を満たしていた。レヴォルテは満足そうに一人頷く。常識や魔導技術など、彼らの愛の前では紙屑同然。そんな「強者」たちの下に仕えているという事実に、彼は何者にも代えがたい背徳感と忠誠を感じていた。


この城を守る者たちは知っている。

この聖域は、王と女王が愛を語らう場所であり、その傍らで世界がどう転ぼうと、彼らにとっては取るに足らない余興に過ぎないということを。

二人の忠臣は、狂おしいほどの力を持つこの夫婦の庇護下で、それぞれの手法で、この崩壊後の世界を静かに、しかし確実に支え続けていた


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