第一章 二人の楽園 3話:【独占の口づけ】
「……そういうことなら、境界の外に出ないでほしいんだがな」
シンは彼女の顎を指先で優しく持ち上げ、まっすぐにその瞳を見据えた。
彼の言葉には、単なる嫉妬を越えた拒絶がある。彼女がかつて自分を縛り付けていた運命の渦中へ、再び足を踏み入れることなど、彼には何よりも許しがたい。
「あそこは……私がいた場所を、思い出させるから」
アリシアは少しだけ目を細め、いたずらっぽく笑った。その瞳の奥には、彼が知らない「彼女の過去」が揺らめいている。それは王にとって最も気に食わない領域だが、彼女がそうして遠い記憶を見つめる姿すら、シンにとっては愛おしく、そして激しく焦燥を駆り立てるものだった。
「お前の視線は、俺だけをみていればいい」
シンの低く響く独占の宣言。それは命令ではなく、彼が彼女に捧げている唯一の祈りでもあった。
その言葉を聞いたアリシアは、今度こそ抗いようのない満面の笑みを浮かべた。彼が求めている「愛」を、彼女はすべて理解している。
「じゃあ……貴方も、私だけをみてね」
彼女の細い指が王の頬に添えられる。
交差する視線と、加速する鼓動。シンがゆっくりと顔を近づけると、アリシアもまた躊躇うことなくその唇を重ねた。
降り注ぐ陽光の中、二人の影が一つに溶け合う。
古城のテラスは、世界から切り離された絶対の聖域。神であろうと魔王であろうと、この至福の時間に割り込むことは許されない。二人の吐息だけが、この閉じられた楽園の空気の中に静かに溶けていった。




