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第一章 二人の楽園 2話:【揺るがない誓い】


「貴方はいつも、何かに怯えているわね、それとも心配性なのかしら」


ふいに落ちた言葉に、シンの指先がわずかに硬直した。

アリシアはシンの腕に絡め取られた自身の細い手を取り上げると、下から覗き込むようにして彼を見つめた。その瞳には、彼を縛り付けている千年の孤独が見透かされている。


「……おれが、怯えている、だと?」


王は不服そうに眉を寄せた。世界を掌中で転がす力を持ちながら、目の前の女の言葉一つに子供のように表情を変える。彼は決して認めまいと首を巡らせるが、その腕は決して彼女を離そうとはしなかった。


「私はもう、どこにもいかないわ。まぁ、貴方の腕から抜け出るときもあるけど、必ず戻ってくるわ、大丈夫よ」


アリシアは慈愛に満ちた声で、シンを諭すように言った。結界の外でうごめく雑音や、いつか二人を引き裂こうとする運命など、この瞬間には存在しないと言わんばかりの優しさ。アリシアの微笑みは、シンにとって何百の魔導障壁よりも強力な盾であり、鎮痛剤だった。


シンはゆっくりと目を細め、彼女の細い指の甲に深く、執着するように口付けを落とす。


「……お前がいなかった期間が、長すぎたせいだ。俺はもう、この時間を誰にも奪われたくない」


それは言い訳ではなく、呪詛に近い告白だった。かつて彼女を失い、世界を凍りつかせたほどの喪失感。その記憶が、強大な王を内側から蝕み続けている。シンは彼女を逃さぬように、さらにもう一段深く腕を回した。まるで、少しでも力を抜けば彼女が霧のように消えてしまうと信じているかのように。


「そうね、そうね……でも、もう大丈夫よ」


アリシアは小さく笑うと、彼を安心させるために、幼子をあやすようにその大きな背中を撫でた。シンの硬質な体躯を、彼女のしなやかな腕がそっと抱きしめ返す。


二人の心臓が一つに重なり、古城の静寂がそれを祝福する。

シンの激しい渇望と、それを静かに受け入れるアリシアの余裕。この歪なほどの均衡こそが、二人の楽園の正体だった。外の世界がどれほど狂おしく悲鳴を上げていようとも、このテラスの上だけは、永遠の安息に包まれている。


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