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第一章 二人の楽園 1話:【楽園のティータイム】

その古城は、世界の理から切り離された場所に存在していた。

堅牢な結界に守られたテラスでは、季節も時も止まったかのような穏やかな午後が続いている。銀髪の王は、愛しい妻を背後から抱きしめ、その柔らかな体温を自身の大きな体躯で完全に囲い込んでいた。


彼の腕の中で、彼女の華奢な体はあまりにも小さく、儚げに見える。だからこそ王は、愛おしさを抑えきれずにその首元へ顔を埋め、深く、深く呼吸をした。彼女から漂う甘い香りが、王の荒んだ精神を鎮める唯一のくさびであった。


女王アリシアは窓の外、結界の向こうに広がる城下町を、柔らかな瞳で見つめている。街を行き交う民の営みを、慈しむような眼差しで追う彼女の横顔を、王は射抜くような情熱で眺めていた。


「焼けるな」


王シンの喉から、低く重い呟きが漏れる。それは恋人たちの甘い吐息というよりは、獲物を前にした獣の唸りに近かった。


「その視線を、あいつらが独り占めしていると思うと、どうにも気に食わん」


シンは女の腰に回した腕に、わずかな力を込める。彼女を傷つけることは決してない。だが、自分以外の何ものにも彼女の関心は向かせないという、絶対的な独占欲の表れだった。王にとって、愛しい妻と過ごすこの時間は、神が禁じようとも決して譲るつもりのない唯一絶対の聖域である。


「ふふ、貴方は本当に……」


アリシアはくすぐったそうに、しかし何よりも嬉しそうに目を細め、シンの手の甲に自身の細い指を重ねた。

彼の屈強な腕の中に完全に収まり、彼女の視界は彼という聖域で満たされる。王は愛しい人の鼓動を肌で感じながら、ふと、結界の向こうに広がる灰色の空へと流し目をした。


シンのダークルビーの瞳に、ほんの一瞬、氷のような冷徹な色が混じる。

この甘い静寂を、たとえ一秒たりとも邪魔する者があれば、その存在ごと世界から抹消すればいい。シンはそう考え、再び彼女の温もりに執着するように深く顔を埋めた。


二人の愛の城は、今日も世界から隔絶され、歪なほどの幸福を謳歌している。彼らの安寧を揺るがす外の喧騒など、このテラスの優雅なティータイムを遮ることは、何一つとして許されないのだから。


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