第七章 要塞の崩壊と再会 36話【ただの人間に戻る場所】
張り詰めていた糸が、プツリと切れる音が聞こえた気がした。
要塞を塵に帰し、大地を歪めるほどの力を振るった王の巨躯が、まるで重力をすべて失ったかのように、その場に崩れ落ちる。
「……あ……、……あ……」
掠れた声が、破壊の果ての静寂に零れる。シンは、かつて世界を震え上がらせた強靭な肩を、まるで捨てられた子供のように細かく震わせていた。
世界を更地にするほどの圧倒的な破壊力を持ちながら、彼女を失うというたった一つの恐怖の前では、彼はただ一人の女を愛し、愛しすぎている、不器用で脆い男に過ぎない。
アリシアは動揺することなく、瓦礫の山を越えて彼に寄り添った。彼女はシンの乱れた銀髪を、慈しむように優しく撫でる。
「もう大丈夫よ。ほら、ちゃんとここにいるわ」
その言葉は、彼にとって何よりも力強い呪文だった。
シンはアリシアの腰に逞しい腕を回し、彼女の温もりを貪るように、その胸へと顔を埋める。二度と離さない、失わせないという激しい独占欲と、底なしの安堵が混ざり合い、彼は彼女の柔らかな体温に溺れようとしていた。
崩壊した天空の城の残骸の中で、二人の周囲だけが、まるで時の流れから切り離されたかのように静かだった。
シンにとっての世界は、今この瞬間、彼女の鼓動の音以外には存在しない。
愛する者の体温だけが、神の力を振るった王を、再び人間へと繋ぎ止める唯一の錨だった。二人はただ抱き合い、ただそこに存在することで、互いの魂を癒やし合っていた。




