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第七章 要塞の崩壊と再会 35話【王の帰還】

瓦礫の山が、アリシアの歩みに合わせてカサリと音を立てる。

彼女はためらうことなく、無数の命を塵に変えた殺戮の跡地を踏みしめ、その中心で荒い息を吐くシンへと歩み寄っていった。


「シン、シン」


その声は、かつて彼女が彼を呼び続けた、変わらぬ温もりを帯びた響きだった。

愛する妻の呼ぶ声が鼓膜に届いた瞬間、鋼のように硬直していた王の全身が、ビクリと大きく跳ねた。それは、張り詰めていた理性の糸が、ようやく緩んだ合図だった。


シンはゆっくりと、まるで錆びついた機械のように首を巡らせる。

そこには、塵一つ纏いつつも、気高く立つアリシアの姿があった。所々に小さなかすり傷はあるものの、その身体は欠けることなく、ただそこに存在している。


彼女が生きているという現実。

手が届く距離に、彼女がいるという事実。


その光景を脳が認識した瞬間、シンの瞳に澱んでいた、数千年の孤独と狂気が、まるで陽光に晒された雪のようにスッと消え去った。

激しい焦燥を宿していたダークルビーの瞳は、急速にその鮮やかさを取り戻し、かつてのような深い慈愛の色を湛えていく。


シンは差し出された彼女の頬に、震える手で触れた。

血に濡れた己の手の温度を、彼女の肌の温もりが優しく包み込む。

彼はただ、彼女の存在を確かめるように、深く、深く息を吐き出した。要塞を消し去った強大な力も、世界を恐れさせた神の如き暴力も、今はただ、目の前の妻を守るためだけに費やされた「愛の形」に過ぎなかった。


二人の周囲に漂っていた殺伐とした空気が、急速に凪いでいく。

王は、ようやく地獄から還ってきたのだ。

 

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