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第六章  天変地異の進軍 29話:【理不尽なる破壊】

王シンが要塞の城壁に手をかけたその瞬間、天空を覆っていた雲が割れ、世界そのものが震え始めた。


それは、魔王や天使たちが想像し得た「戦争」の範疇を遥かに超えていた。シンは軍隊を率いてはいない。彼がただ「歩く」という動作を行うだけで、数千年の歴史を刻んだ大地は隆起し、波打つ。要塞の防衛線として配置されていた数万の獣人軍や、威容を誇っていた最新鋭の魔導機械たちは、王の周囲に発生する不可視の衝撃波に巻き込まれ、まるでひしゃげた鉄くずのように、あえなく空の彼方へと吹き飛んだ。


術式などという生易しい手順は、そこには存在しない。呪文を唱える隙も、魔力を練る時間さえも、王の存在の前では無意味だった。


シンがその拳を、天使族が誇る『絶対結界』の表面に押し当てた。

結界を構築していた何万もの魔導式は、王の放つ圧倒的な質量の前に、複雑な計算を行う暇すら与えられない。それは防御ではなく、ただの「抵抗」として認識され、ガラスを重いハンマーで叩き割るように、粉々に砕け散った。


光の膜が消滅したのではない。物理法則という名の障壁が、王の意志という名の暴力によって蹂躙され、強制的に書き換えられたのだ。


要塞内にいた天使たちが、絶望的な光景を目の当たりにする。

外壁の向こう側から、銀髪の王が、ただ淡々と、しかし確実に、神の領域である天空の城を「物理的に解体」しながら侵入してくる。


かつて彼らが絶対の自信を持って敷いた防衛線は、今や王の足跡の下で、塵となって消えようとしていた。もはやこの要塞に、王の進撃を止めるすべは何一つ残されていなかった。

 

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