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第五章  人質ではない女王 26話:【女王の覚醒】

空間が異様に歪んだ。

それは魔力の奔流ではなく、要塞の至る所に張り巡らされた防衛術式の「綻び」だった。アリシアはそれを鋭敏に感知していた。


広間の四隅の影が、不自然に蠢く。

それは宰相が放った極秘部隊『千里眼の影』が、天使族の傲慢さゆえに生まれた防衛結界の「盲点」を突き、浸入した兆候だった。

影の中から一人の男が滑り出る。部隊の隊長だ。彼は音もなくアリシアの背後に立つと、宰相からの伝言を囁くように告げた。


「我が君が要塞の外壁に指一本でも触れた瞬間、全防衛魔導を爆破せよ……邪魔な敵は、陛下自らが排除されるとのお言葉です」


その冷酷かつ的確な指示を聞き、アリシアはふっと口元を綻ばせた。


「……やればできるじゃない。少しは見直したわ」


アリシアがそう呟いて立ち上がると、天使族の兵士たちが驚愕に目を見開いた。アリシアが魔力を極限まで解する。その瞬間に黒髪が紫の燐光を纏い、魔導の枷が彼女の圧倒的な魔力圧によって物理的にひび割れ、粉々に砕け散る。彼女の四肢を繋ぎ止めていたはずの「魔導の枷」が、自らの魔力によって内側から砕け散り、床へと落ちる。


アリシアは優雅に首を鳴らし、しなやかに身体をほぐす。先ほどまでの「捕らわれの姫」の面影は消え失せ、そこにいたのは、王の隣に立つにふさわしい「女王」の姿だった。


「さて……」


彼女は振り返り、顔を引きつらせる魔王たちを見渡した。その顔には、先ほどまでの冷徹な理知とは異なる、シンの血を分かち合ったかのような「悪魔的」な笑みが浮かんでいる。


「誰から死にたい?」


満面の笑み。しかし、その瞳には慈悲など欠片もない。

王が歩を進めるその時、彼女は自身の力でこの広間を地獄へと変える準備を終えたのだ。


要塞の外では、シンの一歩が外壁に触れた。

その刹那、要塞を支えていた結界が一斉に火花を散らして爆散する。

聖域の崩壊と同時に、女王の狩猟が始まった。


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