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第五章  人質ではない女王 24話:【静かなる拒絶】

天空の要塞、その最奥に位置する玉座の間。地上の喧騒とは無縁の、聖なる光に満ちた空間で、天使族の長と悪魔族の魔王たちが勝利の美酒を酌み交わしていた。


「シンとやらも、結局はただの情に脆い人間に過ぎなかったな」


魔王の一人が杯を掲げ、豪快に笑う。彼らの視線の先、広間の中央には、女王アリシアの姿があった。

彼女の四肢は、魔力を遮断する「魔導の枷」によって強固に拘束され、玉座の足元に力なく投げ出されている。周囲を囲むのは、屈強な天使の守護兵たち。誰もが、彼女が恐怖に震え、慈悲を乞う姿を期待していた。


しかし、アリシアの表情には、一抹の恐怖もなかった。


彼女の黒髪は乱れ、肩口には先ほどの傷が残っているが、その瞳には凍りつくような冷徹な光が宿っている。彼女は拘束された身でありながら、自分を捕らえた魔王たちの愚行を、まるで迷子を眺めるかのような怜悧な眼差しで見下ろしていた。


「……何がおかしい?」


天使族の長が、彼女の冷ややかな眼差しに苛立ち、不機嫌そうに問いかける。


「愚かね」


アリシアが小さく吐き捨てた言葉は、広間に鮮明に響いた。


「あなたたちは、自分が何に手を触れたのかさえ理解していない。……私のために、この世界がどれほどの代償を払うことになるかさえも」


アリシアは抵抗を諦めたのではない。ただ、地平線の彼方から響く「あの足音」を聞いていた。

――私の愛する人が、今、あなたたちの世界を塗りつぶしにやってくる。


彼女は自分の命を心配してはいない。ただ、自分のために壊れていく世界と、すべてを終わらせて迎えに来るシンの絶望に、静かな悲しみを抱いていた。

天使たちは気づいていない。彼女を繋ぎ止めているこの重厚な枷が、女王を封じ込める檻ではなく、迫り来る王の殺意をより一層加速させる「導火線」であることに。

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