↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失恋したギャルの「彼氏としたかったこと」に、なぜか俺が付き合っています。  作者: ころもぐら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/63

第7話 隣で見る人

 買い物をした建物の出口で、藤崎さんが足を止めた。

 駅へ続く通路の壁に、映画のポスターが何枚か並んでいる。すぐ横には、小さな棚にチラシも置いてあった。この通路を抜けた先に映画館があるので、ここにも案内を出しているらしい。

「これ、もう始まってるんだ」

 彼女が見ていたのは、制服姿の男女が踏切の両側に立っているポスターだった。題名は『放課後の遠回り』。片方が呼びかけようとしているのか、女の子の口が少し開いている。

「知ってるやつ?」

「うん。予告、何回か見た。面白そうだなって思ってたんだよね」

 俺も横から見た。題名に聞き覚えはなかったが、下の方の写真には、古い商店街らしい景色が写っている。

 藤崎さんはチラシを一枚取り、裏返した。片手に服の袋を持っているので、紙が少し折れそうになる。

「袋、置けるとこあったら、そっちで見ようか」

「あ、うん。ありがと」

 通路の端にあるベンチへ移り、買った服の袋を足元へ置いた。俺は通路を空けた側に腰を下ろし、彼女の手元の紙をのぞく。

 隣同士になれば、自然と同じものが見える。藤崎さんはチラシを少し中央へ寄せてくれた。

「同じ学校の子たちが、卒業前に、閉まる予定のお店の映像を撮るんだって」

「商店街のやつか」

「うん。その間に、いろいろあるらしい。予告だと恋愛っぽいところが多かったけど」

 説明を読みながら、俺は写真へ視線を移した。古い店の前で、制服の袖をまくった男子がカメラを構えている。その横に、ポスターと同じ女の子がいた。

「三原、こういうの見る?」

 藤崎さんが聞いた。

「たまに。自分で選ぶと、違うのが多いけど」

「どんなの?」

「冒険するやつとか。あと、笑えるの。さっきのポスターだと、隣にあったアニメも気になる」

「郵便屋さんの?」

「そう。『星の郵便局』」

 宇宙服のような格好をした小さな配達員が、封筒を抱えて惑星を飛び越えている絵だった。予告を一度だけ見たことがある。

「あれも、かわいいよね。私、動いてるのはまだ見てない」

「配達先、間違えたところから始まるらしい」

「宇宙でそれやると、大変そう」

「隣の星まで、だいぶありそうだな」

 藤崎さんは笑い、手元のチラシをもう一度見た。

「じゃあ、一緒に見るなら、そっちかなあ」

 言われて、俺は彼女へ顔を向けた。

「一緒に?」

「……あ、うん。次、どっか行くなら。映画もいいかなって思って」

 藤崎さんは紙の角を指で押さえた。俺も、足元にある二つの袋を見た。

 買った服を着て、また会おうという話はした。でも、何をするかは決めていなかった。

「俺は行きたい。映画」

 そう答えると、彼女がこちらを見た。

「ほんと? よかった。じゃあ、アニメの方、予告見とくね」

「でも、藤崎さんが気になってたのは、そっちだろ」

 俺は彼女の手元を指した。藤崎さんはチラシへ目を落とす。

「うん。こっちも、見たいのは見たいけど」

「だったら、俺もあらすじ読んでみる。何となく苦手っていうほど、こういうの見てないし」

「苦手だったら言ってね。無理して見ても、二時間くらいあるから」

「分かった。とりあえず、どっちも見てから決めない?」

 彼女は少し考えてから、うなずいた。

「そうしよ。私、まだ片方しか知らないしね」

 俺も立ち上がり、自分の分のチラシを取ってきた。二作品の紙を重ねると、青い宇宙の絵の後ろから、赤い踏切のランプが少しだけ見える。

 日程は、次の日曜日なら互いに空いていた。土曜日は藤崎さんに家の用事があるらしい。映画の次の週の上映時間は、まだ詳しく出ていなかったので、時間は後で相談することにした。

 駅前で別れた後、俺は服の袋が折れないように持ち、チラシを鞄へしまった。

 新しいシャツを着る日の候補が、もう一つ決まった。

 日曜日は、久しぶりに一人で歩いた。

 買い物の帰り道、川沿いへ少し遠回りをする。ここ数日は学校か駅前にばかりいたので、土の道を歩く感触が違っていた。

 橋の下へ近づくと、前に写真を撮った猫がいた。階段の端で丸くなっていたのが、俺の方を見た途端、片目だけ開ける。

 スマホを構えても逃げなかったので、少し離れた場所から一枚撮った。

 写真を見ると、猫よりも階段の占める面積が多い。近づくと起こしそうなので、そのまま保存する。

 そこで、藤崎さんが、何か見つけたら送って、と言っていたのを思い出した。

『前に教室で見せた猫、またいた』

 写真をつけて送る。用事はなかったが、今日は文章を消さずに送れた。

 橋を渡る頃、スマホが震えた。

『あの子だ。まだ眠そう』

『俺が来たときから、ほとんど動いてない』

『日曜だからね』

 画面を見て笑い、俺は通路の端へ寄った。川の水面に雲が映り、その上を小さな波が横切っていく。

 続けて、藤崎さんから写真が来た。

 桃色のブラウスが、椅子の背へ掛けられている。その下には、青いスカートの一部が写っていた。

『私も、今度着るやつ考えてた』

 買う前は当日まで見ないでと言っていたのに、買った後は送ってくれるらしい。俺は画面をもう一度見て、返事を打つ。

『そのスカートと合わせるんだ』

『うん。まだ迷ってるけど。三原は?』

『白いTシャツと合わせてみた。昨日言ってたやつ』

『いいね。今度見せて』

 俺も、次の日曜日に着ていこう、と返した。

 送信してから、少し先まで歩く。いつもと同じ川沿いなのに、途中で会話をする相手が増えたような気がした。

 猫の写真一枚を送っただけで、藤崎さんがどんな日曜日を過ごしているか、少しだけ知れた。

 帰宅してから、机の上へ二枚のチラシを並べた。昨日は服をしまった後、寝る前にアニメの予告だけ見たので、今日はもう一方も見るつもりだった。

 スマホへ題名を入れ、短い予告動画を開く。

 閉店する店のシャッターへ、制服姿の生徒たちが絵を描いていた。別の場面では、男子がカメラを構えたまま、映っている女の子へ何かを言いかける。音楽が大きくなり、返事の部分は次の場面へ切り替わってしまった。

 商店街が気になったのも本当だったが、最後には、何を言ったのかも知りたくなっていた。

 画面を閉じようとしたところで、藤崎さんからメッセージが届く。

『星の郵便局、予告見た。あの荷物の積み方は落ちると思う』

 配達員が自分より高く荷物を積んで飛んでいく場面のことだ。

『だよな。しかも一番大事そうなのが上にある』

『先に落ちるよね。絶対』

 返事を書いている途中、弟が廊下から俺を呼んだ。借りていた充電器を返すと言うので、ドアを開けて受け取る。

「何見てんの?」

 机のチラシに気づいたらしく、弟が青い方を指した。

「映画の予告。そっちも、ちょっと気になってる」

「あ、それ、俺も見たい。配達のやつでしょ」

「うん。予告、結構面白かった」

 弟は題名をスマホへ入れ、部屋へ戻っていった。俺は充電器を机へ置き、チラシの端をそろえる。二つとも見たいと思ったことまで、どちらかを選ぶと消えるわけではない。

 俺も、もう一方の予告を見たことを伝えた。

『商店街の方、思ったより気になる。カメラの後ろで何て言ってるんだろうな』

『そこ! 私も気になってた』

 続けて届いた文字を読み、俺はもう一度、動画の最後へ戻った。

 映像の中で、女の子が振り返る。相手の言葉は聞こえないが、笑う直前のような顔をしていた。

 月曜日の昼休み、小テストの答案が机に残っていた。

 俺のは十問中八問、藤崎さんのは七問正解だった。彼女は返された直後、例の符号の問題へ小さく丸をつけていた。

「ここはできてた」

「うん。あとは、この計算の途中だな」

「そう。解き方は分かってたのに、最後で数字違ってた。そこ、悔しい」

 彼女は答えを直してから、ノートの見直す場所へ付箋を貼った。俺も間違えた問題を確かめ、答案をファイルへ挟む。

「で、映画、どっちにする?」

 ノートをしまった藤崎さんが、少し声を弾ませて聞いた。

「俺は、商店街の方も結構見たくなった」

「私、アニメも面白そうだと思った。あれ、途中で変な動物出てきたよね」

「いたな。住所の看板食ってるやつ」

「配達の邪魔しかしてないじゃん」

 彼女が笑ったところで、拓海が弁当を持って振り返った。

「何、その話」

「映画。予告のやつ」

 俺が説明すると、拓海も、ああ、と題名を思い出したようだった。隣から高瀬さんも来て、机を寄せることになる。

 四人で食べるときの位置は、前と同じになった。俺の正面に藤崎さん、隣に拓海、その向かいに高瀬さんがいる。

 弁当袋は、今日は一度で開いた。拓海がそれを見て、直ってるな、と言うので、俺も問題ないと返した。

「映画、見に行くの?」

 高瀬さんが聞くと、藤崎さんは、今度の日曜に、と答えた。

「二つ気になるのあって、まだ迷ってるんだ」

「郵便屋の方と?」

「『放課後の遠回り』。紗季は、そっち見たことある?」

「まだ。先週見たのとは別のやつだよね」

 高瀬さんはスマホでポスターを確かめ、題名に聞き覚えはあると話した。拓海はアニメの方が気になるらしく、弟が見たがっていたと言う。

 俺は、それなら俺たちは別の方に、という言葉を飲み込んだ。誰かが見たいと言ったからといって、自分が決める必要はない。二人でどちらを見るか、まだ相談している途中だった。

「莉緒は、商店街の方、どこが見たいの?」

 高瀬さんに聞かれ、藤崎さんは少し考えた。

「最後、何を残すのかなって。好きな人に言うことなのか、お店の映像なのか、そこが知りたい」

「ああ。どっちも入ってるんだ」

「うん。私、告白するかどうかだけじゃなくて、その前に普通に一緒にいるところが好きなんだよね。予告でも、帰り道で何でもない話してるのとか」

 俺は箸を止め、彼女の話を聞いた。

 題名もポスターも、恋愛映画のものだと思っていた。でも、藤崎さんが何を見たいのかを聞くと、少し違って感じる。

 彼女は俺の方へも顔を向けた。

「三原は、予告見て、どうだった?」

「カメラの後ろのやつ、気になる。何か言った後の顔だけ映して、返事見せてくれないから」

「分かる。そこで切るの、ずるいよね」

「あと、お店の中。奥の方まで映ってたのが、ちょっとよかった」

 そう言うと、高瀬さんが笑った。

「やっぱり背景も見るんだね」

「いや、人の方も見てるよ」

「うん。今、ちゃんと両方の話してた」

 藤崎さんもうなずき、予告の中で気になった場面をもう一つ話した。

 俺が見た場面と同じだったが、彼女が気にしていたのは、画面の端で待っている友達の表情だった。俺はそこを覚えていない。帰ってから見直すか、映画館で確かめようと思った。

 拓海は別の話題を出しかけ、そこで俺を見た。

「三原、日曜空いてないのか。じゃあ、土曜は?」

「何かある?」

「母親に頼まれてたやつ。駅の向こうの店行くから、お前が前に言ってた古本屋、近いなら寄ろうと思って」

 俺は少し驚いてから、土曜日なら空いていると答えた。以前に、安く本を買える店を見つけたと話した覚えがある。拓海も探している漫画があるらしい。

「じゃあ、時間決まったら連絡する」

「うん。場所は分かるから」

「探してるの、まだ続き買ってなかったんだ」

 俺が聞くと、拓海は箸を持ったまま、もったいなさそうな顔をした。

「一冊だけ、飛んでるんだよ。そこ読まないと先に進めない」

「話は分かるんじゃないのか」

「分かるかどうかじゃなくて、順番に読みたいんだって」

「それは、確かに」

 俺も、続きが気になっても途中を抜かして読むことはない。あの店なら並びを確かめやすい棚だったと思い出し、行って探そう、と答えた。

 拓海は、それでなかったら取り寄せる、と言い、自分の弁当へ目を戻した。

 前に話しただけの店を、彼も覚えていてくれたらしい。俺の方からまた誘わなかった間にも、行ってみたいと思っていたのだろうか。

 約束が一つ増え、隣にいる拓海は、そのまま弁当を食べ始めた。

 藤崎さんと会う日を考えていたところへ、別の予定が入ってくる。どちらかを断る必要もなく、土日が少しずつ埋まっていくことが、今は妙に嬉しかった。

 放課後、藤崎さんと昇降口へ向かう途中で、彼女のスマホが鳴った。

 画面を見て、あ、と小さく声を出す。

「お姉ちゃんだ。頼まれてたの忘れてた」

「何か買うの?」

「駅前の文房具屋で、細い両面テープ。家で使ってたの、なくなったって」

「あそこなら、俺も寄る。ノート、もうすぐ終わるから」

 そう言ってから、自分でも、寄る理由を無理に作ったのではないかと考えた。けれど、数学のノートが残り数ページなのは本当だった。帰ってから買い忘れたと思うより、今買っておいた方がいい。

 藤崎さんも、じゃあ一緒に、と答えた。

 店に入ると、彼女はテープの棚へ向かい、俺はノートを探した。大学ノートを一冊取って戻ると、藤崎さんが二つの箱を持って見比べている。

「幅が違う。細いって、どっちだろ」

「聞ける?」

「うん。写真送る」

 返事を待つ間、俺たちは棚の端へ移った。隣には色の違う付箋が並んでいる。藤崎さんは自分のノートについているものと似た色を見つけて、これも少なくなってた、と一つ取った。

「二人とも、学校の買い物になったね」

「昨日は服で、今日はノートとテープか」

「昨日じゃないよ。服は一昨日」

 言われて、俺は曜日を確かめた。

「あ、そうだった」

「今度は三原が分かんなくなってる」

 彼女が笑う。学校が一日始まると、休日から随分離れた気がするのに、土曜日の服選びは、まだすぐそばの出来事みたいだった。

 姉から返事が来ると、藤崎さんは片方の箱を戻し、もう一方を持ってレジへ向かった。俺も別に会計を済ませ、店の外で合流する。

 鞄にノートをしまってから、俺は映画の話を切り出した。

「日曜、商店街の方にしない?」

 藤崎さんが、ほんとに、とこちらを見た。

「俺、あれ、ちゃんと見たくなったから。予告の続きも気になるし」

「アニメは大丈夫?」

「うん。あっちも気になるけど、今回は、こっちがいい」

 彼女は俺の顔を見た。それから、手に持っていた文房具の袋を鞄へ入れる。

「私が見たいって言ったから、合わせてない?」

「それで気になったのはある。藤崎さんが話してなかったら、たぶん予告も見てなかったし」

 俺はそこで一度、言葉を切った。

「でも、見て面白そうだと思ったのは、俺だから」

 藤崎さんは目を少し細くし、うなずいた。

「そっか。じゃあ、一緒にそっち見たい」

「うん」

「よかった。さっき、三原も同じところ気になってるって聞いて、結構嬉しかった」

 俺も、昼休みの彼女の話を思い出した。

 何でもない帰り道の会話が好き。そう言っていた彼女が、今も隣で歩いている。

「藤崎さんが言ってた、端っこの友達の顔、俺、見てなかったから。そこも見る」

「私、逆にお店の奥、覚えてない。映画ではそっちも見てみる」

「全部見ようとすると忙しいな」

「予告の答え合わせだけで、終わっちゃうかも」

 二人で笑いながら、駅へ続く道を歩いた。

 買い物の日に、互いに違う色の服を選んだときも、気まずくはならなかった。今日は、別々に見た予告から同じ映画を選んだ。どちらも、言わずに相手へ合わせていたら、分からなかったことだと思う。

 信号待ちで止まったとき、藤崎さんが鞄を開け、手帳を取り出した。今度は、六つの項目のあるページではなく、日付の入った予定の欄だった。

「日曜、映画。時間は金曜に確認するんだよね」

「うん。上映の予定が出たら。予約もそのときでいいと思う」

「分かった。私、午前でも午後でも大丈夫。夕方までには帰れたら」

「俺も。昼前後のがあったら、その辺にしようか」

 彼女はうなずき、小さく書き込んだ。手帳を閉じる前に、俺の方を見て言う。

「あと、終わってすぐ帰らなくても平気?」

「平気だけど、どこか寄りたい?」

「ううん。見た後、ちょっと話したいなって。気になったとこ、三原はどう思ったかな、とか」

 俺は返事をする前に、彼女の手元を見た。

 映画を見る時間の後に、話す時間も欲しいと言われた。それは、上映が終わった後も、一緒にいたいということだろうか。

 そこまで大げさに考える話ではないのかもしれない。けれど、俺は日曜日の予定を、映画の題名だけで考えなくなっていた。

「俺も、話したい。見たところが違うかもしれないし」

 答えると、藤崎さんが笑った。

「うん。じゃあ、そこも予定に入れとこ」

 信号が青に変わり、彼女は手帳をしまって歩き出した。俺も隣へ並ぶ。

 映画が始まれば、二時間ほど話はできない。水族館のときのように、何か見つけるたびに呼ぶこともできない。

 その代わり、終わってから話せる相手がいる。藤崎さんがどんなところで笑うのか、自分が気にした場面を、彼女も覚えているのか。そういうことまで、少し楽しみになった。

 家へ帰ってから、俺は買ってきたノートを机へ置いた。

 その下に、二枚の映画のチラシが重なっている。俺は商店街の方を上へして、スマホの予定表を開いた。

 次の日曜日の欄へ、映画の題名を書く。時刻はまだ入れず、その下へ、終わってから少し話す、と付け足した。

 朝から隣の席で話していた相手と、今度は映画館でも隣に座る。そのことを思い浮かべると、チラシを見ただけのときより、日曜日が近く感じられた。

 スマホが震え、藤崎さんからメッセージが届いた。

『映画館、席どのへんが好き?』

 俺は座席の配置を思い出してから、返事を打つ。

『真ん中より、少し後ろ。近すぎると全体見にくいから』

『私も後ろの方がいい。じゃあ、その辺にしよう』

 続けて送られてきたのは、映画館の座席表の画像だった。まだ予約画面ではなく、スクリーンの中の並びを説明する案内図らしい。

 藤崎さんが丸をつけた辺りには、空いた椅子がいくつも並んでいる。俺はその中から、二つ続いた席を目で探した。

『ここら辺かな』

 俺も画像へ印をつけて返すと、すぐに、そこいいね、と返事が来た。

『取れたらいいな。金曜、確認しよ』

『うん』

 最後に、彼女から猫が隣の椅子をたたいているスタンプが届く。俺は画面を見たまま、少し笑った。

 席はまだ予約していないけれど、その隣に誰が座るのかは、もう決まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。