↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失恋したギャルの「彼氏としたかったこと」に、なぜか俺が付き合っています。  作者: ころもぐら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/69

第6話 似合うだけじゃ決められない

 火曜日の夜、クローゼットから出した服をベッドへ並べてみると、思っていたより色が少なかった。

 白いシャツ、紺のシャツ、黒と灰色のTシャツ。それぞれ何枚かあるので、着るものに困ってはいない。ただ、買い替えるときも、同じようなものを選んでいたのだと分かった。

 袖口が擦れた白いシャツを持ち上げ、畳んで脇へ置いた。土曜日に買うのは、その代わりになるものだ。薄くて、手持ちのズボンに合わせられて、家で洗えるもの。一枚三千円くらいまでなら、今月の小遣いから出せる。

 そこまで考えて、ベッドに並んだ服をスマホで撮った。

 藤崎さんへ送ろうとして、彼女が別れ際に言ったことを思い出す。

 当日まで、見てない方がいいから。

 彼女の着るものは、土曜日まで分からない。俺の方は送っても構わない気もしたが、結局、写真はそのまま残すだけにした。店へ行ったとき、手持ちと比べるのに使えるだろう。

 水曜日は、朝からその話をしたわけではなかった。藤崎さんとは数学の問題を確認し、高瀬さんが放課後に見に行くという映画の話を聞いた。

 木曜日の昼には、高瀬さんが、ちゃんと見られた、と報告してくれた。俺が前に話したのとは別の作品だったが、背景も気になって見てしまったらしい。

「普段、そんなに見ないところなのに」

「話、分かんなくならなかった?」

「大丈夫。さすがにずっと看板だけ見てないから」

 そう言われて笑った横で、藤崎さんが、次に見るとき私も探しちゃいそう、と話していた。

 金曜日の小テストでは、月曜に二人で確認した形の問題が出た。返却は来週だが、終わった直後、藤崎さんはノートを開いて、符号のところは合ってた、と小さく喜んでいる。

「全部は?」

「それはまだ分かんない。今、喜べるとこだけ喜んでる」

「じゃあ、そこはおめでとう」

 彼女は、ありがとう、と笑い、それから声を落とした。

「明日、一時ね」

「うん。時計の下」

「また二十分前とかに来なくていいよ」

「この前は、電車が一本早かっただけだろ」

「今回は歩いて来られるもんね」

 そう言って、彼女は次の授業の教科書を出した。俺も前を向いたが、土曜日が近づいているのは、時間割を見なくても分かった。

 それでも、土曜日の広場へ着いたのは、一時の十分前だった。

 先週まで出店が並んでいた場所には、いつものベンチが戻っている。小さな子どもが植え込みの周りを歩き、その後ろを大人が追っていた。

 俺は時計の下に立ち、広場へ入ってくる道を見た。今日は灰色のTシャツに、黒いズボンを合わせている。紺のシャツと迷ったが、同じ格好で待っていたら、先週の日曜日をもう一度始めるみたいで、別のものにした。

 五分もたたないうちに、藤崎さんが見えた。

 白いシャツの上に薄い黒のカーディガンを羽織り、淡い黄色のスカートをはいている。足元は、この前と同じ白いスニーカーだった。

 髪は高い位置で一つに結ばれていて、歩くたびに、後ろで毛先が揺れた。

 声をかけるより先に彼女が俺を見つけ、片手を上げる。俺も同じように手を上げてから、二歩ほど前へ出た。

「お待たせ。やっぱり早いじゃん」

「まだ十分前だったから、前より遅い」

「私も早く着いたけどね。……何かついてる?」

 見ていたのが分かったらしく、藤崎さんが自分の袖へ目を落とした。

「いや。髪、結んでるんだなって」

「あ、こっちか。今日、暑そうだったから」

 彼女は顔の横に落ちた髪を指で寄せた。いつも隠れている首筋が見えて、俺は一度、彼女の目へ視線を戻す。

「似合うと思う」

 そう言うと、藤崎さんの指が止まった。

「……ほんと?」

「うん。いつもと違うから、すぐ気づいた」

「そっか。じゃあ、これにしてよかった」

 彼女は少し笑い、鞄の肩紐を持ち直した。その後で俺の方を見て、今日は灰色なんだね、と言う。

「一応、違う色も持ってる」

「疑ってないよ。今日は何買うか、考えてきた?」

「薄いシャツ。一枚で着てもいいし、Tシャツの上に着られるやつ」

「いいね。私もそんなの見たい」

 話しながら広場を抜け、駅前の商業施設へ向かった。彼女は歩き始めてから、昼は食べた、と聞いてきた。

「食べた。焼きそば」

「私、そうめん。お姉ちゃんが急に食べたいって言い出して」

「もう夏みたいだな」

「ね。今から冷たいのばっかり食べてたら、八月どうしよう」

「温かいのに戻るんじゃないか」

「一周しちゃう?」

 そんなことを話している間に、自動ドアが開いた。冷えた空気が腕へ当たり、藤崎さんがカーディガンの前を少し寄せる。

 俺も、薄い羽織りを買うのは正解かもしれないと思った。

 最初に入った店は、いつも俺が一人で見ている店だった。

 入口には半袖のシャツが並び、その横に、少し袖の長いものも掛かっている。藤崎さんはすぐに何かを取るのではなく、値札を見てから、俺の方へ顔を向けた。

「予算、どれくらいにする?」

「三千円くらいまで。いいのがあれば一枚」

「了解。じゃあ、この辺かな」

 彼女は棚の一段下へ目を向けた。俺も隣から見て、薄い青のシャツを一枚引き出す。袖は肘より少し長いくらいで、布を触ると、持っている白いものより軽かった。

 同じ形で、灰色と、くすんだ緑色もある。

「青いの気になる?」

「うん。白の代わりなら、このくらいかなって」

「こっちの緑もよさそう。三原、こういうの着たことある?」

「たぶん、ない」

 藤崎さんが緑の方を取り、俺の胸元から少し離したところへ当ててみる。襟の辺りを見比べ、あ、こっちも合う、と言った。

「一回、両方着てみたら? 見るのと着るので違うし」

「そうする」

 店員に声をかけ、二枚を試着室へ持っていった。藤崎さんは通路を空けた場所で待ち、俺はカーテンの向こうで青い方から羽織る。

 鏡に映った自分は、思ったより普通だった。大きく変わった感じはしないが、見慣れた白とも、先週着た紺とも違う。

 肩の位置を確かめ、腕を少し曲げる。布が引っ張られる感じはなかった。

「どう?」

 外から声がして、俺はカーテンを開けた。

 藤崎さんは顔を上げ、少し離れて俺を見た。

「あ、いい。涼しそう」

「サイズ、変じゃない?」

「うん。大きすぎないと思う。腕、動かしやすい?」

「平気」

 俺が腕を曲げると、彼女も肩から袖へ視線を移した。その目が真剣なので、試着した服より、見られていることの方が気になってくる。

「もう一個、着てみる」

「うん。比べよ」

 カーテンを閉め、青い方をハンガーへ戻す。緑の方も同じサイズなので、着心地はほとんど変わらなかった。

 もう一度外へ出ると、藤崎さんが、ああ、と小さく声を上げる。

「そっち、好きかも」

「緑?」

「うん。思ったより落ち着いて見える。三原、黒いズボンよくはくし、合わせやすそう」

 俺も鏡を見た。確かに、変ではない。今着ているズボンとも合っているし、買って帰れば普通に着られそうだ。

 藤崎さんはハンガーの青い方を俺の横へ持ち、色を比べるようにして見せた。

「どっちもいいね。三原は?」

 聞かれて、少し迷った。

 緑が似合うと言ってもらえたのは嬉しい。知らなかった選択肢もできた。彼女と一緒でなければ、たぶん試着していない。

 それでも、最初に目が向いたのは青だった。

「……俺は、青の方かな」

 言ってから、俺は彼女の顔を見た。

「こっちもいいと思うけど、着て出かけるなら、青い方が何となく楽しみで」

「じゃあ、青だね」

 返事は、拍子抜けするほど早かった。

「いいのか」

「何で私に許可取るの。三原が着るんだよ」

 藤崎さんは笑い、青いシャツを少し持ち上げた。

「私、緑も好きって思っただけ。青が似合ってないって言ってないし」

「それは分かってるけど」

「うん。だったら、着たい方。そっちで出かけたとこ、見たいし」

 最後の言葉で、俺は鏡から彼女へ目を戻した。藤崎さんは値札を見ていて、今言ったことを、特別なことだとは思っていないようだった。

 俺が次にこの服を着るとき、彼女が見るかもしれない。そこまで考えると、自分が着たいと言った青が、さっきより少し気に入った。

「じゃあ、こっちにする」

「うん。いいと思う」

 着替え終えて、緑の方を店員へ返した。青いシャツを買う前に、俺はスマホを出した。火曜の夜、ベッドへ並べて撮った服の写真を開く。

「準備してきたんだ」

 藤崎さんが隣から画面を見て、ちょっと驚いたように言った。

「持ってるの忘れて、同じようなの買わないように」

「いいね。あ、この黒いの、今日のと別?」

「うん。ちょっと厚い方」

 写真のTシャツと目の前のシャツを見比べる。藤崎さんは、これとだったら、と言いかけて、俺の方を見た。

「三原、どう着たい?」

「白いTシャツの上かな。前開けたら、今持ってるやつと違う感じで着られそう」

「うん。それ、いいと思う」

 自分で言ってみると、家へ帰ってから試す組み合わせが決まった。俺は写真を閉じ、シャツをレジへ持っていく。

 青いシャツは二千四百九十円だった。洗濯の表示も確かめてから会計を済ませ、紙袋を受け取る。

 入口へ戻ると、藤崎さんが俺の袋を見て笑った。

「一枚目、決まったね」

「ありがとう。自分だけだと、試さない方を着て比べるとか、あんまりしないから」

「でも、最初に気になってた方になったね」

「うん。もう片方を着たから、こっちに決められた」

 彼女が、そっか、と言い、店の外へ歩き出す。俺も袋を持ち直して、その隣へ並んだ。

 次に入ったのは、藤崎さんが前から見たいと言っていた店だった。

 俺一人なら通り過ぎる売場に、薄いブラウスやスカートが並んでいる。入っていいのか少し迷ったが、彼女が振り返って手招きをしたので、そのままついていった。

「これ、写真で見て気になってたんだ」

 彼女が取ったのは、くすんだ桃色のブラウスだった。袖が少し膨らんでいて、前に小さなボタンが並んでいる。

 隣には、白地に細かい花の模様が入ったものが掛かっていた。形は似ているが、そちらの方が少し華やかに見える。

「こっちも、かわいいなあ」

 藤崎さんは二枚を並べ、順番に見た。俺も横から見比べるが、服だけだと、さっき自分のを選んだとき以上によく分からない。

 彼女は値札を見た後、袖口の裏へ指を添えた。何を見ているのか聞くと、肌に当たったとき痛くないか確かめているのだと言う。

「かわいくても、着るたび気になるやつだと、結局着なくなっちゃうから」

「そういうの、買う前に分かるんだ」

「たまに失敗するよ。だから、試していいのは試すようにしてる」

 彼女はそう言って、腕に掛けた二枚を持ち直した。俺はまた、自分の紙袋を見る。さっき動きやすいか聞いてくれたのも、見た目だけで選んでいなかったかららしい。

「試着してきてもいい?」

「うん。ここにいる」

「ありがと。暇だったら、その辺見ててね」

 彼女は店員へ声をかけ、二枚を持って奥へ向かった。

 俺は近くの棚を眺めた。服だけではなく、髪を留めるものや小さな鞄もある。値札の書き方も、男物の売場とは少し違う気がした。

 よく分からないまま棚の横に立っていると、試着室の方から呼ばれた。

「三原、こっち」

 顔を上げると、カーテンの端から藤崎さんがのぞいていた。近づいたところで、彼女が外へ出てくる。

 最初は花柄の方だった。今日の黄色いスカートとも合っていて、制服で見るときより、顔の周りが明るく感じる。

「どうかな」

「いいと思う。さっき持ってたときより、着た方が分かる」

「何が?」

「模様が、そんなに大きく見えないんだなって。服だけだと、もっと目立つかと思った」

 藤崎さんは鏡を見て、ああ、と納得したようにうなずく。

「そう。細かいから、離れるとあんまり分かんないんだよね」

 彼女が袖を少し持ち上げた。布がふわりと動き、俺はそれを目で追う。

「暑くない?」

「思ったより薄い。これなら着られそう」

 藤崎さんはもう一度鏡を見てから、次も着るね、とカーテンの向こうへ戻った。

 桃色の方を着て出てきたときには、何を言うか、少し落ち着いて考えられた。似合うと言うだけなら簡単だが、彼女は、自分がどう思うかを聞きたいと言っていた。

「こっちは?」

 鏡の前で止まった彼女が、俺へ顔を向ける。俺は二枚の違いを確かめるように、肩と袖と、顔の辺りを見た。

「こっちの方が、顔がよく見える」

「顔?」

「模様がないからかな。最初にそっちに目が行く。……説明、変かもしれないけど」

 藤崎さんは鏡の中の自分を見て、それから俺を見た。

「ううん。そういうの聞きたかった」

 彼女は少し離れたところにある全身鏡へ移り、スカートまで入るように立った。

「三原は、どっちが好き?」

 俺は正直に、花柄の方だと答えた。水族館の日の服とも違う印象で、着ているところをもう一度見たかった。

「そっか。私は、こっちかなって思ってた」

 彼女は桃色の袖をつまんだ。声が小さくなったわけではないが、俺の返事を待っているのは分かった。

「じゃあ、そっちがいいと思う」

 言うと、彼女が笑った。

「さっきの三原と逆だね」

「うん。でも、どっちも似合ってたよ。俺の好みとは別に」

 藤崎さんは鏡へ向き直り、袖を軽く引いた。もう一度、自分の姿を上から下まで確かめる。

「私、こっち、着たかったんだと思う。写真で見てから、ずっと気になってたし」

「最初に取ってたもんな」

「うん。じゃあ、これにする」

 はっきりそう言って、彼女はカーテンへ戻った。

 俺は少し離れた場所へ下がり、手に持った紙袋を見た。青いシャツは、その中できれいに畳まれている。彼女が勧めた緑ではないし、彼女も俺が好きだと言った花柄を選ばなかった。

 けれど、一緒に選んでもらった感じは、ちゃんと残っていた。

 買い物を終えると、三時を随分過ぎていた。

 途中で別の売場も見たが、結局、買ったのは二人とも一枚ずつだった。藤崎さんのブラウスは二千九百九十円で、手持ちのスカートと合わせるつもりらしい。

 歩き疲れたので、施設の中のカフェへ入った。俺はアイスティー、彼女はアイスカフェラテを頼み、空いていた窓際の席へ座る。

 机の下へ袋を置くと、手が急に軽くなった。

「お疲れ。結構歩いたね」

「藤崎さん、見てるとき、全然疲れてる感じしなかったけど」

「楽しいのと、足が疲れるのは別です」

 彼女は笑って、片足を椅子の下で少し動かした。今日はまたスニーカーでよかった、と言うので、俺もうなずく。

 注文した飲み物が来るまで、彼女は買った服の袋を開き、店員が入れてくれた扱い方の紙を見た。俺も自分の袋の中に同じような紙がないか確かめる。

「紺のシャツと、今日の青いの、着る感じ変えられるね」

「うん。暑くなっても使えそうだし」

「今度、着てきてよ」

 藤崎さんは、紙を畳みながら言った。

 俺はその言い方を聞いて、少しだけ考えた。買うところには一緒にいたのに、着て出かけるときにも会うつもりで話してくれるのが、嬉しかった。

「藤崎さんも、今日のやつ」

「え、私のも?」

「うん。今度、見たい」

 彼女が袋の口を閉じかけたまま、こちらを見る。

「三原、花柄の方が好きって言ってたじゃん」

「それは、比べたらの話だろ。今日買ったのも、似合ってたし」

 言ってから、少し付け足した。

「藤崎さんが着たくて買ったなら、そっちの方が見たい」

 彼女は袋へ目を落とした。口元が少しだけ緩み、それを隠すように肩の髪へ手を伸ばす。今日は結んでいるので、指は耳のそばで止まった。

「……じゃあ、今度ね」

「うん」

 返事をしたところで飲み物が届き、俺たちはそれぞれグラスを手元へ寄せた。氷の音がして、藤崎さんがストローの袋を細く折る。

「今日のも、似合ってるよ」

 俺が言うと、彼女が顔を上げた。

「今、着てる方。さっき、髪のことしか言ってなかったから」

 藤崎さんは自分のスカートを見て、それから俺を見た。今度は、ごまかさずに笑った。

「ありがと。これも、結構迷ったんだ」

「選ぶの、手伝わなくてよかった」

「そうだよ。先に見られたら、今日着てきたときの反応、分かんなくなるし」

 彼女はストローをグラスへ入れ、カフェラテをひと口飲んだ。俺もアイスティーを飲む。窓の外では、駅へ向かう人が広場を横切っていた。

 しばらくして、藤崎さんが鞄から手帳を出した。

「これ、つけとこ」

 開いたページには、見慣れてきた六つの項目が並んでいる。彼女はペンギンのペンを出し、私服を一緒に選ぶ、の横へチェックをつけた。

「これで四つ」

「思ったより早いな」

「うん。今日、三原のだけ選んで終わったら、私のも一緒に、って言うつもりだった」

「最初から両方見る約束だっただろ」

「そうなんだけど。私、迷ったら結構長いし」

「俺も二枚着てる間、待ってもらったし。お互い様でいいんじゃないか」

 彼女はうなずき、チェックをつけた項目をもう一度見た。それから別のページを開き、何かを短く書き込む。

「そっちにも、予定あるの?」

「あ、違う。今日の店の名前。あと、買ったもの。こういうのも書いとくと、後から分かるから」

 そこには、項目を並べたページとは違う、小さな日付の欄が見えた。俺は中身をのぞき込まず、自分のグラスを持ち上げる。

「写真だけだと、どこ行った日か分かんなくなるときあるんだよね」

「俺も、地図の印、増えすぎると分からない。行ったかどうかも、たまに迷う」

「それは結構困るやつじゃん」

「だから、行ったところは分けるようにした」

 藤崎さんが笑い、俺もスマホを取り出して、今日見た店を地図へ残した。彼女は書き終えた手帳を閉じ、鞄へ戻す。

 さっきのページには、まだ二つ、チェックのない項目があった。

 映画を見ることと、雨の日の寄り道。今すぐ次を決めなければと思ったわけではない。ただ、一緒に選んだシャツを着る日が、また来るのだろうと考えた。

 店を出る前、藤崎さんが紙袋を持ち上げたので、俺も自分の袋を取った。

「買ったの、帰ったらもう一回着てみる?」

「たぶん。手持ちのと合わせたいし」

「私も。店と家の鏡で、何か違うんだよね」

 そんな話をしながら出口へ向かう。並んだガラスに、二人の姿と、別々の店の紙袋が映った。

 藤崎さんがそれに気づき、少しだけ歩く速さを緩める。俺も横に並んだまま、同じガラスを見た。

「今度は、買ったの着て会おうね」

 彼女が言った。

 俺は映った自分の灰色のTシャツと、その隣にいる彼女を見てから、うなずいた。

「うん。青い方、着てくる」

「じゃあ私、桃色」

 二人で笑い、ガラスの前から歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。