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失恋したギャルの「彼氏としたかったこと」に、なぜか俺が付き合っています。  作者: ころもぐら


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第68話 ひとりの時間の、そのあとで

 十月に入り、莉緒は案内された期間に出願を済ませた。夏の面談から次へ進めると分かったあとも、必要な物を揃え、家の人と確かめ、学校の先生へ聞くことがあったという。

 その結果が届いたのは、文化祭の賑やかさがすっかり教室から消えた頃だった。正式に合格したと、彼女から連絡が来る。俺は読み終えてすぐ、おめでとうと返した。

 電話で話すと、莉緒は嬉しそうだったが、入学までに必要なことをまだ確認すると続けた。俺は頷き、まず本人が喜んでいる声を聞いた。夏に面談を終えた日も嬉しかったが、今日の声はまた少し違っていた。

「ここで勉強するんだなって、前より思えた」

 彼女はそう言った。俺はよかったなと返し、今いちばん楽しみなのは何か尋ねる。授業の名前より先に、作れる物が増えるのが楽しみ、と答えが来て、俺も笑った。

 その後、家族と手続きも進め、必要な分を終えたと聞いた。高校を卒業するまで学校の勉強も続くし、入学したあとの準備もある。それでも、彼女の進む場所が一つ決まったことは、二人でちゃんと喜べた。

 昼休みに四人で話せた日、高瀬さんも拓海も、おめでとうと言った。莉緒はありがとうと返し、そのまま二人の今の話も聞いている。

 自分の予定が決まったからといって、会話の全部を終えた人の側へ移すわけではない。俺も第一志望へ向けてやっていることを話し、彼女はそれを聞いて頷いた。


 俺の方は、秋の予定が増えていた。授業と火曜、木曜の講習に加えて、家で見直したいところがある。冬に向けて必要なことを確かめると、カレンダーの何も書いていない場所も、完全な空きではなくなっていた。

 それでも、毎日全部を詰めているわけではない。少し休みたい日も、本を読みたい夜もある。その時間に何をしていたかを聞かれると、勉強したと答えるより、言う前に少し考えてしまうことがあった。

 先生との相談では、第一志望だけでなく、ほかに受けることを考える大学の話もした。学びたい内容が近くても、受験の日程や通う時間まで同じではない。俺は自分で見た案内を並べ、まだ分からないところを尋ねた。

 希望を変えるためではなく、自分がどう進むかを考えるための相談だった。先生は、今ある情報と、実際に出願する時の条件を分けて確かめようと言った。俺も、名前だけ増やせば準備したことになるわけではないと分かった。

 家へ持ち帰ると、父と母も一緒に予定を見てくれた。受けるために必要な費用や、家で確かめることは自分一人の紙だけでは決まらない。俺は行きたい理由を話し、曖昧にしていた所をもう一度調べることにする。

 その場で全部の受験先を確定したわけではない。それでも、第一志望以外を見るのを、気持ちが足りないからだと考えずに済むようになった。自分の希望を大事にするなら、その先へ進む方法も自分で確かめたかった。

 夜、莉緒へその話を少し伝えると、彼女は、そういうのも考えるんだね、と返した。自分の受けた学校と同じに分かるふりをせず、何を比べたのか聞いてくれる。俺も必要なところだけ話し、まだ決めていない分はそのままそう言った。

 彼女の進路が決まったあとにも、俺には考えることがある。それを隠さずに話せる相手へ、休みの日には別の話も持っていきたかった。


 ある金曜、莉緒から週末はどうするのと聞かれた。俺は土曜の午前に少し一人で歩こうと思っていると答える。電車に乗るほど遠くではなく、駅の反対側から川の方まで、以前見た道をもう一度見たかった。

「いいね。写真撮る?」

「うん。撮れそうなら。今回は、一人で行こうと思って」

 付け足すと、彼女は少し目を瞬いた。俺はすぐに理由を全部説明したくなったが、莉緒が先に頷く。

「分かった。ゆっくり歩きたい感じ?」

「うん。行く先、あんまり決めずに。たぶん、同じところで長く止まるかもしれない」

 俺が言うと、彼女は笑った。いつもそれくらいなら待てると言ってくれるのは知っている。それでも今回は、自分だけで何を見たいか決めて歩く時間にしたかった。

「私、明日ちょっと会えたらいいなって思ってたから。それは、また別の日?」

 莉緒は俺を見た。嫌そうな顔ではなく、自分の希望もそのまま言ってくれたのだと分かる。

 俺は土曜の予定を考え、午前に一人で歩いたあと、昼前に駅で少し会うのはどうかと尋ねた。彼女は家の用事を確かめてから返すと言う。

「無理に合わせなくていいよ。航平が一人でいたいなら」

「一人で歩きたいのは、午前。莉緒にも会いたい。そこは別で、両方ある」

 俺が答えると、彼女は少し考えてから頷いた。

「そっか。じゃあ、私も予定見て返す。少しでも会えたら嬉しい」

 俺はありがとうと伝えた。全部同じ気持ちに揃えてから誘うより、自分の中にある違う希望を、それぞれ言ってよかった。


 その夜、莉緒から、十一時半に駅なら会えると返事が来た。昼は家で食べる予定なので、三十分ほどがちょうどよいという。俺も午前の外出をその時刻までに終え、十二時までに別れる予定にした。

 決めてから、俺は家にも午前の外出を伝えた。母は昼に戻るのかと聞き、俺が頷くと分かったと答える。弟は、今度は一人、と尋ねた。

「うん。一人で歩いて、そのあと莉緒と少し会う」

「一回で二つあるんだ」

「そう。別の時間」

 答えると、弟はへえと頷いた。自分も友達と会う前に少し寄りたい所があると言い、そこで話が終わる。

 俺だけが一人の時間を難しく考えていたのかもしれない。誰かと仲がよいことと、一日中一緒にいることが同じでないのは、友達や家族との間では分かっていた。

 部屋へ戻ると、机の端に弟から借りた文庫があった。読み終わっていたので、木のしおりを抜き、自分の次に読む本へ移す。弟へ返すため別の場所へ置き、明日持つ物を用意した。

 大きな荷物は必要なく、スマホと飲み物、薄い上着があればよさそうだった。青灰色の花を見て、今日はつけずに小袋へ戻す。何も足さずに歩きたい時もあってよかった。


 土曜の朝、俺は予定より少し早く家を出た。いつもの駅へ向かう道から一本それ、川の方へ歩く。通学する人の流れがないので、同じ時間でも角を曲がった先が静かだった。

 最初に撮りたいと思ったのは、建物の影ではなく、道の端へ落ちていた葉だった。立ち止まってスマホを構えたが、画面で見ると、思ったよりただの葉に見える。

 少し角度を変え、しゃがまないまま身体の位置をずらす。それでも気に入らず、俺は一度スマホをしまった。撮れなかったことを誰かへ説明する必要がないので、もう少しその場所を眺めてから歩き出す。

 川沿いへ出ると、風が冷たくなった。上着の前を閉じ、橋の下まで歩くつもりだったが、途中で向こうの道が気になって曲がる。

 一人だからできることばかりではなく、莉緒と一緒でも相談すれば変えられる。それでも、自分の考えだけで何度も止まったり戻ったりするのは、今日は気楽だった。

 途中のベンチで水を飲み、向こう岸の道を見た。自転車が通り、少し間が空いてから犬を連れた人が歩く。俺はその人たちを大きく写すのではなく、遠くへ続く道の形を見ていた。

 写真を一枚撮ったあと、画面を拡大して確かめる。自分が見たかった線は少し端へ寄っていて、もう一枚撮るか迷った。結局撮らずに歩き、同じところへ戻った時に、今度は別の光になっているのを見つけた。

 それが面白く、俺はしばらくそこへいた。待ってもらっているから急がなければと思う相手は、今は隣にいない。十一時半の約束には間に合うよう、自分で時計を見る。それだけは、一人でも忘れないようにした。

 橋の近くには、道を少し上がったところに小さな公園があった。俺は入口の案内を見てから中へ入り、空いている端を歩く。遊具の近くでは子供たちが遊んでいて、そこを撮るつもりはなかった。

 少し離れた木の下で足を止めると、風が通るたびに葉の影が動いた。写真にしたら面白いかと思ってスマホを出したが、動いていた時の感じは一枚では分かりにくい。俺は撮ったものを見て、一度だけ短い動画に切り替えた。

 誰かへ見せるために上手く撮ろうとすると、先に説明の言葉まで考えてしまう。今日はそこまで考えず、自分が今見たかったものを少しだけ残した。画面を閉じて同じ場所へ目を戻すと、さっきと違う影がそこへ落ちている。

 近くのベンチには本を読む人がいて、向こうを歩く人はほとんど足を止めなかった。自分にとって面白い場所でも、全員が同じように気にするわけではない。俺はそれを寂しいと思わず、今日はここで長く立つ方を選んだ。

 公園を出る前、日陰から日向へ移ると、思ったより身体が温まった。飲み物を出して一口飲み、鞄の肩ひもを掛け直す。次にどちらへ曲がるか決めるのは自分だけで、その小さな判断が今日は楽しかった。

 駅へ戻る道を確認した時、十一時半ならまだ余裕があると分かった。彼女と会う予定を入れたから、ここで急いで帰らなければいけないと思わずに済むよう、今日は早めに動いていた。俺は時計をしまい、今度は川から少し離れた道を選ぶ。

 まだ見たい場所があることと、待ち合わせへ行きたいことが、同じ午前の中にあった。全部見終わってからでなければ会えないと決めるより、次に来る余地を残して歩く方が気楽だった。


 十時半を少し過ぎた頃、戻る方向へ足を向けた。まだ歩きたい道もあったが、今日全部を見る必要はない。次に自分から来たい場所を一つ覚えて、駅の方へ戻る。


 歩いている途中、壁に小さな葉の影が重なっている所を見つけた。俺は立ち止まり、今度はすぐ写真を撮った。さっきの道とは違い、何を写したかったか自分でもはっきり分かる。

 画面を見た瞬間、莉緒がここを見たら何と言うだろうと思った。今日の一人の時間を、彼女に会わないために作ったわけではないからだろう。自分の好きに歩いている途中にも、あとで話したい相手はいた。

 俺はその場で長く送らず、会ったら見せたい写真として残した。別の葉の写真も何枚かあったが、全部を並べて感想を求めるつもりではない。一枚だけ、俺が今日見せたいと思った物を持っていけばよかった。

 駅へ着く前に、コンビニで冷たい茶を一本買った。暑いほどではないが、思っていたより歩いたので喉が渇いている。入口の横へ寄って一口飲み、時計を確かめた。

 十一時二十分。約束までまだ少しあり、俺は広場の時計が見える場所へ向かった。莉緒へ着いたと送ると、もう少しで着く、と返ってくる。

 一人でいるのが気楽だった時間のあとに、彼女が来るのを楽しみに待つ時間がある。矛盾することではないと、今ははっきり思えた。


 莉緒は十一時半の少し前に来た。俺の顔を見ると、歩いてきた感じするね、と笑う。俺はそんなにと聞き、彼女は、ちょっと満足そう、と答えた。

「うん。楽しかった。あとで、一枚見てほしい」

「見たい。先に座る?」

 俺は頷き、駅の近くのベンチへ向かう。昼は互いに家で食べるので、何かを追加で買って長く座る必要はなかった。彼女も持ってきた飲み物を出し、俺はスマホの写真を開く。

 葉の影の一枚を見せると、莉緒は画面へ顔を近づけた。少し黙って眺め、重なってるところが布の模様みたい、と言う。

「俺、そこ、形が面白いと思って」

「うん。これ、歩いてたら見つけたの?」

「帰り。行きは別の道だったから、見てない」

 答えると、彼女は、じゃあ戻ってきたから見えたんだ、と笑った。俺も頷き、予定を決めすぎずに歩いたら、思っていたより同じ所へ戻ったと話す。

 莉緒は写真のことを一つ聞き、俺も自分が撮りたかった場所を指した。見せたあとも、俺の手からスマホを取って別の写真まで探すことはなく、自分が聞きたいところを言葉で尋ねてくれた。

 その見方が嬉しく、俺はもう少しだけ今日の話をした。最初の葉はうまく写せなくてやめたこと。川の道は一枚撮ったあと、撮り直さなかったこと。彼女は、写真のない話も結構あるね、と言った。

「うん。見ただけで、そのまま歩いた所もある」

「それも聞けて嬉しい」

 返してもらい、俺は、そう言ってもらえると話しやすいと答えた。よい写真が撮れた日だけでなく、今日何を見て歩いたかを聞いてくれるのが好きだった。


 話が一度落ち着いたところで、莉緒が少し考え、昨日のことを言ってもいい、と聞いた。俺が頷くと、彼女は自分のカップを膝へ置いた。

「一人で行くって聞いた時、ちょっと残念だった。私、もう少し会えるかなって思ってたから」

 俺は頷き、そうだったのかと返した。彼女は続けて、でも今日の話を聞くと、行ってよかったねって思う、と言う。

「私が行きたかったのと、航平が一人で歩きたかったの、どっちもあったんだよね」

「うん。俺も、莉緒が会いたいって言ってくれて嬉しかった。断ったから、もう言わないって思ってほしくなかった」

 言うと、彼女は少し笑った。すぐにはそんなふうに決めないと答え、それでも本人へ聞けてよかったと続ける。

 俺は、自分のしたいことを話す時に、まだ全部きれいに揃えて説明しようとすることがあると伝えた。会いたいなら全部一緒、一人でいたいならその日は会わない。その二つに分けようとしていたのかもしれない。

「でも、今日は一人で歩きたかったし、そのあと会いたかった」

「うん。今、一緒にいて嬉しい?」

「嬉しい」

 すぐに答えると、莉緒は満足そうに笑った。俺は彼女の方へ少し身体を向け、聞いてくれてありがとうと伝える。

「私も、一人で布を見たい日とかある。誰かの返事を待たずに、ずっと同じとこ見たい時」

 莉緒が言い、俺はそれは分かると頷いた。次にそういう日があれば、自分の予定として言ってくれたらよい。俺も会いたい時には会いたいと言うし、別の日を考えればよかった。

 解決したから、もう一人の時間を取りたくならないわけではない。これからもあると思える方が、俺には自然だった。


 残りの時間は、彼女の最近の話を聞いた。進学先の手続きが落ち着いてから、家で少し布の整理をしたという。使うつもりで取っておいた切れ端を見比べると、今は好きな色が少し違って見えたらしい。

「全部捨てるとかじゃないけど。これ、今なら何にするかなって考えてた」

「赤い花にした時、黄色も迷ってたよな」

「うん。黄色も好き。また別の時に使ってみたい」

 俺は頷き、自分も今日撮った葉が、前なら目に留まらなかったかもしれないと話した。彼女は、そういうのが増えるの面白いね、と答える。

 時間を見ると、もう十二時が近かった。名残惜しいが、それぞれ家で昼を食べると決めている。俺はそろそろ戻ろうと言い、彼女も頷いた。

 駅の前から分かれる道まで、短く手をつないだ。彼女の手は俺より少し冷たく、俺が握り直すと、さっきまで飲み物持ってたから、と笑う。

「今日は、写真も見せてくれてありがとう」

「俺も、見てもらえて嬉しかった」

 返してから、写真は送ってもいいかと聞く。彼女が欲しいと言ったので、その場で葉の影の一枚を送った。全部の記録を見せ合わなくても、今日一緒に見たかった一枚は同じところへ届いた。

 分かれる前に、俺は好きだよと伝えた。莉緒は私もと返し、今度はもう少し長く会いたい日も言うね、と続ける。

「うん。俺も、空けられそうな日を見て返す」

 俺が答えると、彼女は笑った。その希望を聞いたからといって、今すぐ全部空けなければいけないわけではない。本人と相談して次を決められることが嬉しかった。


 家へ帰ると、ちょうど昼の用意ができていた。母へただいまと言い、手を洗って席へ着く。弟から、歩いた、と聞かれ、結構歩いたと答えた。

 彼は自分も午後に出ると言い、俺は読み終わった文庫を返した。借りてよかったと礼を言い、好きだったところを一つ話すと、弟は、そこ、俺も好き、と少し嬉しそうにした。

 返したあとで、弟から、別の人はどうだった、と聞かれた。俺は少し考え、最初は苦手だったが途中で印象が変わったと答える。弟は自分は最後まで少し苦手だったと笑った。同じ本を読んでも、感想まで合わせなくてよかった。俺はその理由をもう少し聞き、借りている間にはできなかった話を続けた。

 木のしおりは自分の次の本へ移っている。返した本をもう一度読みたい時にはまた借りればよいし、今は自分の本も読みたかった。いくつも同時に欲しい時間があっても、そのことだけで間違いにはならなかった。

 午後は予定していた見直しを進めた。午前に歩いた分を取り返すつもりで夜まで無理に続けず、今日やると決めた分を確かめる。解けたところと、次に聞くところを分け、本を閉じた。

 夕方、窓の外を見た時には、朝より光が低くなっていた。今日歩いた川沿いも、今はまた違う色なのだろう。写真を見返すと、朝の自分がそこへ立っていたことを思い出せた。

 その隣に、莉緒と会って話した時間もある。画像は葉の影だけなのに、彼女が布の模様みたいと言った声が浮かび、俺は少し笑った。

 夜、彼女から、今日は自分の布を少し見られたと連絡が来た。俺も見直しを終えたと返す。それから、次は十一月の初めくらいに少し長く会える日を考えたいと伝えた。

 彼女は嬉しいと答え、家と学校の予定が分かったら送ると言った。まだ具体的な日を決めていないが、次に相談する楽しみができた。

 俺はスマホを置き、翌日使う本を揃えた。ひとりで歩きたい日も、彼女に会いたい日も、自分から言えるままでいたかった。

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