第37話 看板を外した、そのあとも
八時半の学校の門は、まだお客さんを迎える前だった。昨日は開いていた案内の机に布が掛けられ、その向こうを同じ学校の生徒が通っていく。俺は門柱の横で鞄を掛け直し、来る途中に買った物が入っていないか、意味もなく中を見そうになった。今日は弁当と水筒、それにいつもの持ち物だけだ。
スマホには、昨夜送ってもらった写真が残っている。看板の下で手をつないでいる二人を朝からもう一度見て、家を出るのが少し早くなった。画面を開こうとしたところで、向こうから歩いてくる莉緒に気づいた。
「おはよう。写真、見てた?」
「まだ開いてない」
答えると、彼女は俺の手元を見て笑った。
「じゃあ、見ようとしてたんだ」
「うん。本人が来たから、やめた」
莉緒が返事をするまでに、半歩ぶんの間があった。今日は髪を低めにまとめ、昨日と同じ青い飾りをつけている。彼女はそれが見える方へ少し顔を傾けた。
「おはよう、もう一回言っとく」
「うん。おはよう」
二度目の挨拶をすると、昨日帰りに抱き寄せたときの顔を思い出した。あのときは俺からも近づきたかったのに、言う前に莉緒が言ってくれた。門の前で同じことをするつもりはないが、思い出しただけで、隣へ並ぶ距離が気になってしまう。
彼女も一度俺の顔を見てから、校舎へ向いた。二人で門をくぐると、準備に向かう生徒の声が近くなる。
「昨日、ちゃんと寝られた?」
聞くと、莉緒はうなずいた。
「寝た。足はちょっと重いけど。航平は?」
「俺も。でも、昨日より今日は何するか分かってるから」
「迷路で二周しないしね」
「あれは今日もやったら二周するかもしれない」
俺が答えると、彼女は笑い、今日は別のところへ行こうと言った。昨日と同じ道を教室へ歩いているのに、今日は終わった後で看板を外す。廊下に貼られた紙を見ていると、それが少し惜しくなった。
教室では拓海が、箱のふたを開けようとしていた。俺たちへ顔を上げ、手を止めずに挨拶する。
「三原、こっち持って。昨日、きれいにしまいすぎた」
「片づけた人、褒めるところだろ」
「今、取り出してる人にも褒めるところ欲しい」
俺が箱を押さえると、ふたが外れ、中にまとめてあった布の球が見えた。莉緒がそばで吹き出し、すごい、開いた、と拍手を二回だけする。
「藤崎、それ、完全に幼稚園の応援」
「じゃあ、次は自分で開けようね」
言いながら莉緒は案内の紙を持って入口へ向かった。拓海も笑い、球を遊びの箱へ運ぶ。高瀬さんは昨日の間に折れた小さな飾りを直していた。俺も机の陰から荷物を出し、今日の担当表を確認する。
俺は十時から十一時までと、十四時から十五時まで。莉緒は十一時から十二時までと、十三時から十四時までだった。昨日と同じつもりでいると、昼前の交代を間違えそうになる。
「十二時からは二人とも空いてるね」
彼女が紙をのぞき込み、指で自分の名前をたどった。俺も同じところへ指を置きかけて、ぶつかる前に引っ込める。
「昼、先に食べる?」
「うん。弁当持ってきた。一緒に食べたい」
「俺も持ってきたから、そうしよう」
その後に何を見るかは、弁当を食べながら決めることにした。一時間あるからといって、全部を移動に使わなくてもいい。莉緒は手帳を出す代わりに、スマホへ十二時と打ち込んだ。
「今日は、お昼に集合」
「集合場所、教室の鞄のところでいい?」
「近い。すごい近いけど、それで」
笑っていると、高瀬さんが直した飾りを持ってきた。
「二人とも、決まった? じゃあこれ、上の方お願いしていい?」
俺はうなずき、置いてあった踏み台を使って飾りを掛け直した。莉緒が下で少し右と言い、高瀬さんが今の方がいいと教えてくれる。三人の意見がそろうまで、紙の花は少しずつ左右へ動いた。
公開の十時を迎えると、昨日見かけなかった人も教室へ入ってきた。俺は入口の案内を担当し、写真を撮る場所が混んでいる間は、通れる道を伝える。昨日の莉緒が言っていたとおり、全部を最初から説明しなくても、相手が見ている物を見ればいいこともあった。
遊びの箱を見た子どもへ近い線を示すと、遠い方がいい、と返ってくる。俺はどちらでも選べると答え、球を渡す担当へ引き継いだ。近い方が親切とは限らないらしい。
入口で立ち止まった人から、これ全部紙なの、と聞かれた。俺は布を使ったところもあると答え、看板の文字を示した。色を選んだのは俺ではないので、近くにいた同じクラスの女子にも声を掛ける。その人が作ったときの話をすると、お客さんはもう一度看板を見上げた。
俺もつられてそちらを見た。準備の間は、文字が読めるか、通路へはみ出さないかということばかり気にしていた。どうやって色を決めたかを聞くと、出来上がってからでも知らなかったところがあった。
十一時が近づき、莉緒が戻ってきた。隣の担当へ話をしてから、俺の方へ来る。
「何か、気をつけることある?」
「写真のところ、今ちょっと人が重なってる。先に出る人を通す感じで。あと、この端の飾り、鞄に当たりそうだったから少し寄せた」
「分かった。お昼まで、行ってきていいよ」
彼女が引き受けてくれたので、俺は入口を離れた。今度は莉緒が来た人へ声を掛ける。その横顔を見ていたら、拓海が廊下から呼んだ。
「三原、まだ昼まで空いてる?」
「うん。十二時に戻る」
「じゃあ、ちょっと付き合って。向こうのクイズ、昨日行けなかった」
俺は莉緒へ手を上げてから、拓海の方へ歩いた。彼女も気づき、行ってらっしゃい、と口を動かす。離れている時間の予定を、全部細かく決めておく必要はなかった。
拓海の目当ては、別の階にあるクラスのクイズだった。入口で渡された紙には学校に関係する問題が並び、教室の中の写真や展示を見て答えを探す。難しい知識が必要なのではなく、どこを見ればいいかが分からなくて、俺たちは二人とも同じ掲示の前で止まった。
「これ、答えそのまま書いてない?」
拓海が小声で聞くので、俺も紙と掲示を見比べた。
「たぶん、聞かれてるのは一個隣」
「隣もそのまま書いてある」
「じゃあ、どっちかは正解だな」
俺たちは顔を見合わせた後、問題の最後まで読んだ。写真の中の数を答えるものだったので、説明の文字はどちらも関係がない。拓海が紙を裏返しかけて、いや、表だった、と戻すのを見て、今度は俺が笑ってしまった。
最後まで解いて答え合わせをすると、一問だけ外れていた。拓海はそこを指でたたき、俺もそう思った、と言う。
「二人で同じ間違いしたなら、半分ずつにならない?」
「ならないと思う」
「分かってる。ちょっと言ってみたかった」
帰りの廊下で、俺は莉緒にもこの問題を見せたらどちらを選ぶかと思った。答えを教えるより、二人でまた悩む方が面白そうだったが、今日は別の物を見る約束でもよかった。
時計を見て、まだ少し余裕があると分かる。拓海は別の友達と合流するので廊下の角で別れ、俺は教室へ戻った。莉緒が仕事をしているのを邪魔しないよう、自分の鞄を確かめてから水を飲む。十二時になるのを、今度は俺が先に待った。
「お待たせ。ご飯、行こ」
担当を交代した莉緒が弁当の袋を持ってきた。俺も立ち上がり、二人で飲食のできる休憩場所へ向かう。廊下の先には別のクラスの生徒もいて、空いた二席を見つけるまで少し歩いた。
向かい合って座り、彼女が袋の口を開く。俺も弁当を出すと、莉緒は中身より先に、俺の袋の端を見ていた。
「航平、それ、角ちょっと傷んでる」
「どこ?」
「ここ。糸が出てるところ。今は大丈夫そうだけど」
持ち手ではなく、底の端の縫い目だった。俺は袋をひっくり返して確かめ、帰ったら母さんに聞いてみると答える。莉緒は触ってもいいか聞いてから、出ている糸を引っ張らずに指先で示した。
「何年も使ってるからな。中学の頃からかも」
「そうなんだ。大きさは、使いやすい?」
「うん。弁当と箸が入ればいいし。朝、閉めるのに手間取らないのがいい」
彼女は袋の口を見てうなずき、それから、いただきます、と手を合わせた。俺も箸を取り、今日は卵焼きが入っていると分かる。莉緒の方には小さいおにぎりが二つ並び、彼女はどちらから食べるか一度だけ迷っていた。
「片方、中身違う?」
「うん。こっちが梅で、こっちが鮭。大きさで分かるはずだったんだけど、ちょっと分かんなくなった」
「開けたら分かるな」
「それはそう。でも、梅の気分で鮭だったら、ちょっとびっくりしない?」
俺がうなずくと、彼女は慎重に一つを選んだ。一口食べてから、鮭だった、と笑う。隣の人たちの会話に混ざるくらいの声で、俺たちは朝から見た物を話した。
クイズを一問間違えたことを教えると、莉緒は自分なら分かったと言いかけ、問題を聞いてから、待って、と箸を止めた。俺は答えを言わずに水を飲む。
「それ、実物見ないと難しくない?」
「うん。俺たちは実物見ても間違えた」
「じゃあ私、食べながらなら仕方ないね」
「まだ何も答えてないだろ」
彼女が笑い、おにぎりを食べ終えた。俺も残ったご飯を口へ運び、次はどこへ行きたいか尋ねる。莉緒は昨日もらった案内を出し、細く折れたところを指で押さえた。
「昨日、紗季と見た展示、最後のところにもう一つ部屋あったの。布とか、作った物があるって。時間なくてそこまで見なかったから、今日はそこ行きたい」
「うん。俺も見たい」
「航平は、ほかに行きたいところある?」
俺は案内へ目を落とした。遠くの教室も気になったが、ここから移動して戻るまで考えると、両方は慌ただしい。
「今日はそっち。見てから、時間があったら途中の教室も見よう」
「私に合わせてるだけじゃない?」
問いかけに顔を上げると、莉緒は俺の表情を見ていた。俺は案内の紙を少し戻し、彼女が指している場所を確かめる。
「一緒に見たいのもあるけど、莉緒がどこ見るか、俺も気になる。昨日、紙の街の窓の話してたから」
彼女は一度唇を結び、それから、じゃあちゃんと説明できるように見なきゃ、と笑った。
「説明の試験じゃないよ」
「うん。今、ちょっと背伸びした」
食べ終えた弁当を袋へ戻し、二人で机を確かめた。莉緒は水筒を持った手と反対の手を、俺の方へ出す。俺が握ると、彼女は何も言わずに歩き始めた。
展示の部屋へ入る前に、入口の注意書きを読んだ。写真は撮らずに見ることにして、俺はスマホをポケットへ戻す。莉緒も案内を畳み、鞄へしまった。
最初に見えたのは、布を組み合わせて作った袋だった。明るい色の四角が並び、近くへ行くと、一つずつ向きが違っている。莉緒はすぐ前へ寄りそうになってから、床の線の手前で止まった。
「これ、合わせるとき、ずれないようにするの大変そう」
彼女が言うので、俺も縫い目を見た。色の違うところが重なると、ずれたら分かりやすそうだったが、どこから縫うのかは想像がつかない。
「先に全部並べるのかな」
「たぶん。でも縫う順番で違いそう。私、巾着のとき、向きが分かんなくなったし」
莉緒は自分が作ったときのことを思い出したらしく、片方の手を裏返すように動かした。俺も真似してみたが、途中でどちらが表か分からなくなる。彼女が笑い、私もそうなった、と教えてくれた。
隣には同じ形の小物が二つ並んでいた。一つは口が広く開き、もう一つは細いひもで閉じるようになっている。説明を読むと、使う場面を変えて作ったものらしい。
「さっきの袋の話、これ見て思い出した」
莉緒が俺を見た。
「閉めやすいのがいいって言ってたでしょ。見た目だけで決めると、使うとき困ることあるんだね」
「俺も、普段はそこまで考えてなかった。入ればいいくらいだった」
「入らなかったら、すごい困るけど」
「そのときはもう、袋じゃなくて弁当の隣に持つ」
彼女は口元を押さえて笑い、弁当を包む意味がない、と言った。静かな部屋だったので、俺たちは声を落とし、次の作品へ進む。
布の色を選んだ理由や、作り直したところが短い紙に書かれていた。最初からきれいにできた物ばかりではないと分かると、出来上がった形を見る目が少し変わる。莉緒は一枚の説明を最後まで読み、俺にも端の一行を指して見せた。
「持つ人が決まってるんだって。おばあちゃんが使うから、この形にしたって」
俺もうなずいた。誰が持つかを考えると、色の好みだけでは決まらない。祖母がどんな物を入れるのかは紙には書いていなかったが、作った人はそれを知っているのだろう。
莉緒はしばらく作品を見てから、俺へ顔を向けた。
「私、航平に何か作りたい」
急に自分の名前が出て、俺は彼女を見返した。莉緒は説明の紙を指していた手を下ろし、制服の横で軽く握った。
「上手にできたから、じゃなくて。航平が使うの、考えて作ってみたいんだけど。どうかな」
「嬉しい。俺に作ってくれるなら、使いたい」
答えた後で、何が欲しいかまで言えていないと気づく。莉緒もすぐに、じゃあ何でも作るね、とは言わず、俺の顔を見ていた。
「弁当の袋、さっき見てたから?」
「それもある。でも、今すぐ同じの作れるって意味じゃないよ。サイズも見ないとだし、洗うと変わる布もあるから」
「うん。じゃあ、家の袋、測ってみる。まだ使えるなら、急がなくてもいいし」
俺が言うと、彼女はほっとしたように肩を下げた。
「私も急いで適当にしたくない。できるか、姉にも聞く。難しかったら、別の物にしていい?」
「もちろん。俺も使い方、ちゃんと言う」
彼女が笑ってうなずく。手帳に何か書いたのかは知らないが、今日ここで聞いた希望は、俺が返事をできるものだった。黙って待っていて、ある日急に渡されるのも嬉しいかもしれない。でも、どんなふうに使いたいかを一緒に考えるのも楽しそうだった。
出口へ向かう途中で、莉緒がもう一度だけ袋の展示を見た。俺は隣で待ち、彼女が歩き始めてから同じ速さで廊下へ出る。
「時間、大丈夫?」
「うん。戻って水飲めるくらいある」
時刻を確かめて答えると、彼女は安心した顔をした。別の教室を急いで回るのはやめ、来た道を戻る。俺たちは途中で窓の外を見たが、今日はその景色の写真を撮らずに、二人で空の色を話した。
午後はそれぞれの担当へ戻った。十三時からの莉緒を見送り、俺は空いた時間で弁当の袋の底をもう一度確かめる。糸を引っ張るのはやめ、帰ってから明るい場所で見ようとしまった。
十四時の交代では、莉緒が人の流れを伝えてくれた。写真の場所で頼まれることが多かったらしく、声が朝より少しかすれている。
「水、飲んで。俺、ここやるから」
「うん。ありがとう。あと一時間、頑張って」
彼女が鞄を取るのを見届け、俺は来た人へ声を掛けた。最後の時間になると、もう一度見に来たという人もいた。昨日の写真を家族に見せたら来たくなったと言われ、俺は写真を撮ったのが誰か分からないまま、ありがとうございます、と答える。
十五時になり、公開終了の案内が流れた。最後のお客さんが教室を出てから、皆で入口を閉める。昨日と違って、今日は球をしまうだけでは終わらない。
拓海が机の並びを元へ戻す紙を出し、高瀬さんが残す道具と捨てる紙を分け始めた。俺は椅子を寄せ、看板の下へ踏み台を運ぶ。莉緒は両手を上げて、端の留め具を見ていた。
「それ、俺、上取るよ。下、持ってもらえる?」
「うん。落とさないように持つ」
留めてあったところを外すと、看板が少したわんだ。莉緒がすぐ下から支え、俺は最後の一か所を外して踏み台から下りる。二人で横へ向け、邪魔にならない机の上へ置いた。
壁から離れただけで、さっきまで店先だった場所が、いつもの教室に近づいた。莉緒は看板の端を指で軽くなぞり、その後で手を離す。
「昨日、ここで撮ってよかったね」
「うん。今日だと、もう外してるところだった」
「それはそれで、すごい忙しい写真になる」
笑いながら、彼女は看板を片づける方へ運んだ。俺も机を動かす手伝いへ戻る。誰かが一つだけ机の向きを間違え、拓海がそっちだと全員黒板へ背中だと言って、近くの男子が笑った。
片づけが進むと、床には思ったより小さな紙が落ちていた。ほうきで集め、机の脚の下に残った切れ端を拾う。莉緒が髪を結び直している間、俺は水筒を机へ置いてから、椅子を二つ運んだ。
最後に自分の席へ鞄を戻すと、窓から入る光の向きまで、いつもと同じになった気がした。莉緒の席は手を伸ばせば触れる場所ではない。顔を上げると、彼女も自分の机を見てから、こちらを探していた。
俺が手を上げると、彼女は笑って返した。看板がなくても、どこにいるかはすぐ分かった。
帰る頃には、朝より廊下が広く見えた。鞄に弁当と水筒が入っているか確かめ、俺たちは一緒に校舎を出る。門の前で朝の案内の机を見つけると、もう布が掛け直されていた。
「終わっちゃったね」
莉緒が言ったので、俺もうなずいた。
「うん。でも、ちゃんとお昼、一緒に食べられた」
「展示も。私、作りたいって言えたし」
彼女が俺の袋の入った鞄へ目を向ける。俺は帰ったら大きさを測って送ると答えた。材料を買う日も、何を作るかも、まだ決めなくていい。今日、二人ともやってみたいと思ったところから相談すればよかった。
学校から少し離れ、人通りが減ったところで、俺は彼女の歩く側へ顔を向けた。
「莉緒。帰る前に、ちょっといい?」
彼女が立ち止まる。俺は通る人の邪魔にならないところへ寄り、鞄を肩へ掛け直した。
「昨日、俺からも言うって言ったから、じゃなくて。今、抱きしめたい」
言い終えてから、説明をつけすぎたかと思った。莉緒は少し目を丸くし、それから俺の方へ近づく。
「うん。私も」
彼女がうなずいたので、俺は腕を回した。昨日よりうまくできたかどうかは分からない。ただ、莉緒の手が背中へ添えられ、こちらへ少し体重を預けてくれたのが分かった。
「二日分、おつかれさま」
近くで言うと、彼女が笑った気配がした。
「航平も。あ、でも、ちょっと鞄、当たってる」
「ごめん」
すぐに腕を緩めると、莉緒は離れながら笑った。俺も鞄を横へ直し、二人で目を合わせる。かっこよくは終わらなかったが、言わないまま帰るより、ずっとよかった。
また手をつないで歩き、分かれ道の手前で、次に会う日のことを話した。文化祭の後の振替休業日は、互いに家の用事もあるので、無理に外出を入れないことにする。
「休みの後、学校で。あと、袋の写真、待ってる」
「うん。閉めたところと、開けたところ、両方送る」
「すごい助かる。私も、できそうか聞いてから連絡するね」
彼女は俺の手を一度握り直し、それから離した。別々の道へ歩き出してすぐ、莉緒が振り返る。
「今日の、お昼も好きだった」
「俺も。また一緒に食べよう」
答えると、彼女は笑って手を振った。家へ帰ったら、まず弁当箱を出して洗おう。袋を測るのはその後でいい。俺は鞄の底を持ち直し、まだ二人で決めていない物の大きさを考えながら、いつもの道を歩いた。




