表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡くなった母から、三年後にLINEが届いた〜止まっていた家族の時間が、切なくも温かい奇跡で動き出す〜  作者: 鷹司 怜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/27

【最終章 ありがとう、お母さん】 最終話 ありがとう、お母さん


 一年後。


 六月。


 窓の外では、今年も紫陽花が静かに咲いていた。


 朝早く目を覚ました大輔は、庭へ出て花に水をやる。


 葉の上を転がる雫が朝日に照らされ、小さく光った。


「今年も、きれいに咲いたな。」


 その声に答えるように、玄関の戸が開く。


「お兄ちゃん、おはよう。」


 彩花がエプロン姿で顔を出した。


 少しだけ髪を伸ばした妹は、以前よりも柔らかな笑顔を見せるようになっていた。


「朝ご飯、もうすぐできるよ。」


「今日は卵焼きもあるから。」


 大輔は笑う。


「焦げてない?」


「もう、それ言わないで。」


 彩花は頬をふくらませるが、すぐに自分でも笑ってしまう。


 その笑い声を聞きながら、大輔は空を見上げた。


 去年の今頃は、まだ心のどこかで「母が帰ってくるかもしれない」と願っていた。


 今は違う。


 母は帰ってこない。


 その事実を受け入れたからこそ、母との思い出を笑って話せるようになった。


 居間へ入ると、父が味噌汁をよそっていた。


「おはよう。」


「おはよう。」


 短いやり取りのあと、父は照れくさそうに言う。


「今日は俺も手伝ったぞ。」


 彩花がすぐに笑う。


「味噌汁の豆腐を入れただけだけどね。」


「それも立派な仕事だ。」


 三人は顔を見合わせ、自然に笑った。


 食卓には、焼き鮭。


 卵焼き。


 味噌汁。


 湯気の立つ白いご飯。


 どれも母が好きだった朝ご飯だった。


 大輔は箸を持つ前に、仏壇へ向かう。


 遺影の母は、いつもの笑顔でこちらを見ている。


「母さん。」


「いただきます。」


 そう言って手を合わせると、不思議と胸が温かくなった。


 三人で食卓を囲む。


「いただきます。」


 声が重なる。


 何気ない朝。


 何気ない食事。


 けれど、その「当たり前」がどれほど尊いものなのかを、三人はもう知っていた。


 食事を終えると、父が一枚の写真立てを持ってきた。


 去年、紫陽花公園で撮った家族写真。


 三人が笑っている。


 その隣には、十年前の写真も飾られていた。


 四人で笑っている写真。


 大輔は二枚を見比べ、ふっと微笑む。


「減ったんじゃない。」


 父と彩花が顔を上げる。


「形が変わっただけなんだね。」


 父は静かにうなずいた。


「ああ。」


「家族は、人数じゃない。」


「思い合う気持ちだからな。」


 彩花が遺影へ向かって笑う。


「お母さん。」


「今年の卵焼きは、ちゃんと成功したよ。」


 三人の笑い声が、部屋いっぱいに広がった。


 風がカーテンを揺らす。


 仏壇の花が、小さく揺れる。


 まるで母が、どこかで微笑んでいるようだった。


 その日の午後。


 三人は去年と同じように紫陽花公園を訪れた。


 同じ道を歩き。


 同じベンチでお弁当を食べ。


 同じ場所で写真を撮る。


 シャッターが切られる。


 その瞬間、大輔は心の中でつぶやいた。


(母さん。)


(見てる?)


(俺たち、ちゃんと笑えてるよ。)


 返事はない。


 もうLINEは届かない。


 電話も鳴らない。


 それでも、大輔は寂しくなかった。


 母が残してくれた言葉は、もうスマートフォンの中だけにはなかった。


 父の笑顔に。


 彩花の卵焼きに。


 食卓の「いただきます」に。


 玄関の「いってらっしゃい」と「おかえり」に。


 そのすべてに、母は生きていた。


 家へ帰ると、大輔は玄関の扉を開けた。


「ただいま。」


 すると居間から、父と彩花の声が聞こえる。


「おかえり。」


 そのたった一言で、胸がいっぱいになった。


 大輔は靴を脱ぎ、ゆっくりと家へ上がる。


 もう、この家に母の姿はない。


 けれど、この家には今も変わらず、母が守り続けてくれたものがある。


 誰かの帰りを待つ灯り。


 誰かのために並ぶ食卓。


 そして、笑顔で交わす「おかえり」。


 大輔は仏壇の前に立ち、遺影へ向かって静かに微笑んだ。


「ありがとう、お母さん。」


「あなたがくれた時間は、これからもずっと、俺たちの中で生き続ける。」


 窓の外では、六月の風が紫陽花を揺らしていた。


 その花は、今年も変わらず美しく咲いている。


 人は、大切な人との別れを忘れることはできない。


 忘れなくていい。


 悲しみは消えなくてもいい。


 その悲しみの隣で、人はもう一度笑うことができる。


 そして、その笑顔こそが――。


 きっと、残された人にできる、いちばんの「ありがとう」なのだ。

最後まで『亡くなった母から、三年後にLINEが届いた』を読んでくださり、本当にありがとうございました。


この物語を書き始めたきっかけは、「もし、もう一度だけ大切な人と言葉を交わせるなら、何を伝えたいだろう」という、ごく小さな問いでした。


人は、大切な人との別れを経験すると、「もっと会いに行けばよかった」「もっと話をすればよかった」と、たくさんの後悔を抱えることがあります。


私自身も、大切な存在との別れを経験し、「あのとき、もっとできることがあったのではないか」と考える日が何度もありました。


だからこそ、この作品では「奇跡」を描くことではなく、残された人が悲しみを抱えながらも、少しずつ前を向き、再び笑える日を迎えるまでの時間を描きたいと思いました。


作中で母は何度も「幸せになってください」と語ります。


それは主人公たちだけではなく、この物語を読んでくださった皆さまへの言葉でもあります。


大切な人は、いつか必ず旅立ちます。


それでも、その人から受け取った優しさや愛情は、決して消えることはありません。


誰かを思い出して笑える日が来たなら、その笑顔こそが、きっと何よりの「ありがとう」なのだと私は信じています。


この物語が、皆さまの心に少しでも残り、大切な誰かを思い出すきっかけになれたなら、作者としてこれ以上の幸せはありません。


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


もしこの作品を楽しんでいただけましたら、**ブックマークや評価、ご感想**をいただけると、とても励みになります。


また、「この作者の次の物語も読んでみたい」と思っていただけましたら、ぜひ**作者フォロー**もお願いいたします。新作や更新のお知らせを受け取っていただけるので、とても嬉しいです。


現在も、新しい物語を少しずつ執筆しています。


ジャンルは違っても、「誰かの心に残る物語を書きたい」という想いは、この作品と変わりません。


また次の物語でお会いできることを、心より楽しみにしております。


本当に、本当にありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ