第6章-98 ペンダントと薬草の本
コウがソファーから立ち上がろうとした時、スタッフがコウの横にしゃがんだ。
「コウ様、改めていつもご利用ありがとうございます。
こちらは、日頃の感謝の品です。
宜しければ、お一つお選びください。」
そう言うと、スタッフはテーブルの上に宝石のついた指輪やネックレスなどを並べた。
コウは座り直し、宝石を眺めた。
「どれも美しい品ですが、今の僕には不要です。
ゼロユイさん。
欲しいものがあれば選んでください。」
「え?でも……。」
「大丈夫ですよ。店側のご厚意です。」
僕は戸惑いながらも改めて宝石を見た。
どれも美しく光り、目がくらくらする。
その中に、黄色い雫型の宝石がついたペンダントがあった。
宝石の周りは、美しい銀色の羽で縁取られている
「……これ、フクみたい。」
僕はそれを手に取り、じっくりと見た。
光の加減でオレンジ色にも見える。
紐は柔らかく肌に優しそうだった。
コウが僕を見る。
「それにしますか?」
「うん。これが一番好き。」
コウは微笑むと、僕の手からそっと宝石を取った。
包んでもらうため、店員に手渡した。
「お選びいただきありがとうございます。
すぐにお包みしてまいります。」
店員が下がると、コウは僕の頭を撫でた。
「良いものを選びましたね。」
「ありがとう。コウさん。」
コウの温かな手に自然と表情を緩めた。
「そういえば、ゼロユイさんは朝はどちらに?
何かの帰りか、どこかへ行く途中だったのですか?」
「うん。病院のボランティアの帰りだったんだ。コウさんの病院じゃないけど……。」
僕はバッグの中から、薬草の本を取り出した。
「お金と……あと、これをもらったよ。」
コウは本を見るなり、一瞬目を見開いた。
「その本は……まだ持っていてくださった方がいらっしゃったとは……。」
「どういう意味?」
「僕が書いた本なんです。挿絵は違いますけどね。」
コウは僕からそっと本を取ると、1枚ずつ丁寧にめくった。
「この本が売れた時、本当に嬉しかったです。
これが売れて、やっと資金繰りが回り、少し有名になって、他の本が売れ始め……。
患者が増え、薬の入手も楽になりました。
フフッ、廃盤になったのに、またこうして出会えるなんて。」
本をめくるコウは、憂いを帯びた表情をしている。
「これ、コウさんにあげるよ。大切な本なんでしょう?」
コウが目を上げた。
「いえ、僕にはもう不要です。
ですが、もしゼロユイさんがこれを読み終え、もういらないとなったら、その時はいただきます。
ありがとうございます。懐かしかったです。」
コウは本を閉じ、僕に返した。
僕は丁寧に本をバッグに仕舞った。
コウの顔を見ると、いつもの穏やかな顔に戻っている。
「それにしてもゼロユイさん、僕の病院もボランティアは募集していますよ。
他の病院を手伝うだなんて、悲しいじゃありませんか。」
「いや、その……だって、コウさんに会うの、少し気まずかったし。
でも、そのおかげで本が見れたよね?」
「そうですね。
それでチャラにしておきましょう。」
コウが軽く笑った。
そこへ、店員がネックレスの入った小箱を手渡してきた。
僕はお礼を言い、バッグのサイドポケットに丁寧に仕舞った。




