第6章-96 号外の街
ーセキが退院して裁判所に戻っていた頃ー
僕は小さな町医者に、初めてのボランティアに来ていた。
ガーゼを切り、道具の消毒を行い、トレイに乗せる。
「先生、終わったよ。次は何する?」
僕はトレイを医師に渡した。
医師は感心したように、僕からトレイを受け取った。
「早かったね。
今日はここまでで大丈夫だ。
とても丁寧な仕事だったよ。
最初はこんな小さい子がと驚いたが、字も読めるし、薬も詳しい。
二度も、三度も驚いてしまった。」
僕は少し照れたように笑った。
「実は、別の病院で少しやらせてもらったんだ。
だから、ここでも少しは役に立てるかなって……。」
医師は納得したようにゆっくりとうなづいた。
「なるほど。
それなら詳しいのも当然だ。
君は将来、医者になりたいのかい?」
「それは……難しいと思う。
僕、不器用だから手術できないと思うし……でも、人を助けるのは格好いいとは思うよ。」
医師は不安そうな僕を見て笑った。
「手術はできなくても、医者にはなれるよ。
手術できる方が稀だからね。
薬に強い医者、リハビリが上手い医者、保険医なら手当やカウンセリングが重視される。
本当に様々なんだ。」
医師はそういうと、棚から僕に紙袋を手渡した。
「普段なら渡さないが、君は本当によく頑張ってくれたからね。
少しだがお礼と、この本をあげるよ。
この本は昔のものだが、今でもまだ使用している植物ばかりなんだ。
興味があれば読んでみなさい。」
紙袋を受け取り袋の中を覗いた。
少しのお金と、薬草の本一冊が入っていた。
「ありがとう、先生。」
「こちらこそ、ありがとう。
また来てくれたら嬉しいんだが、来てくれるかい?」
「うん!絶対くるよ。」
「待ってるよ。
さあ、気をつけて帰りなさい。」
僕は医者に手を振ると、バッグに紙袋を詰め、病院を出た。
青空を見上げ、大きく息を吸う。
「よし、帰ろう。フクが待ってる!」
賑やかな街を歩く。
飲食店からは美味しそうな匂いがした。
遠くからは音楽の音が鳴り、八百屋からは威勢のいい声が聞こえてきた。
僕は真っ直ぐに寮へと歩いた。
途中で、何かを配る人の姿が見えた。
何か叫んでいる。
「号外です!
裁判長自ら落石事故の主犯、現場監督をついに公開処刑します!!
傍聴席も設置するそうです!!」
人々は次々に号外をとっていく。
その周辺は一瞬にして、裁判長や事故のざわめき一色になっていった。
「処刑……?裁判長って人を殺すの?」
僕は身震いし、その場から逃げ出すように、一目散に走り出した。
だが、誰かに勢いよくぶつかり、尻餅をついた。
「ごめんなさい。僕、前見てなくて……。」
顔を上げる。
相手は……コウだった。
「こんなところで奇遇ですね。大丈夫ですか?」
コウは僕に手を差し出した。
僕はその手を掴もうとしたが、ガーディの話を思い出し、手が少し震えた。
「あ……ありがとう。」
コウの手を掴んで立ち上がる。
コウはいつもの穏やかな声と笑顔だった。
「フフッ、良いんですよ。
それより、そんなに急いでどうしたのです?
急用なら馬車を呼びましょうか?」
「ううん。急ぎじゃないんだ。
街がざわついてて落ち着かなかっただけだから。」
僕は号外を配る人たちを指差した。
人は先ほどより集まっている。
コウは納得したように頷いた。
「号外ですね。
僕の家の近くでも配っていました。
しばらくは、どこも同じ話題で持ちきりでしょう。
もし落ち着かないのでしたら、僕の買い物に付き合ってくださいませんか?
とても静かな店ですから、のんびり休めますよ。」
「その、僕は……。」
コウは少し寂しそうな表情をした。
「すみません。
無理強いはだめですね。
ゼロユイさん、こちらの道は人通りが多いので、あちらの道から寮へ戻ってください。
少し遠回りですが、人は少ないはずです。
では、そろそろ僕は行きますね。
どうぞお気をつけて。」
コウは説明を終えると、ゆっくりと歩き出した。
僕も帰ろうとしたが、“処刑”という言葉が、周囲で飛び交っている。
喜ぶ人、怖がる人、興味津々な人……様々だった。
「こんなの……嫌だよ……。」
僕は向きを変え、コウの後ろを追いかけた。
「コウさん待って!!」
コウが立ち止まる。
コウの裾を軽く引っ張った。
「やっぱり僕、買い物に付き合うよ。」
コウは振り返った。
「ありがとうございます。さあ、参りましょうか。」
にこやかに笑うコウは、嘘をつく人には見えなかった。




