第5章-87 眠り薬
ー病院の休憩室/コウ視点ー
ゼロユイは休憩室で、スヤスヤと眠っている。
フクはテーブルの上でこちらを威嚇している。
今にも飛びかかりそうな勢いだ。
「フクさん、そんなに警戒しないでください。
ただ眠らせただけですから。」
ポケットから、小瓶を1本取り出しフクの前に置いた。
「これは眠りを誘うお茶の葉です。
ゼロユイさんは、口に入れたものは無効化してしまうみたいなので、きっと香りにやられたのでしょう。
そうでなければ、釘や破片は飲み込めません。」
フクは小瓶を軽く蹴った。
コロンと机の上に小瓶が転がる。
「やはり、貴方は人間の言葉や感情を理解していますね。
だからあの鳥達に受け入れられたのでしょう。」
フクの頭に手を伸ばし撫でようとした。
だが、フクはコウの指を強く突いた。
「痛っ……。」
突かれた指から血が滲む。
だが、笑顔でフクを見た。
「嫌われてしまいましたか。
でも、僕は貴方達を引き裂こうとか、傷つけようなんて思ってません。
僕の知る中でも、とても賢く才能が溢れています。
僕はそんな貴方達が疑われているなんて耐えられません。」
フクは黙って聞いている。
「僕は貴方達を守りたいんです。
今日、お呼びしたのも、セキさんの警戒を解こうとしたのですが……失敗してしまいました。
その点は、お詫びします。」
フクに軽く頭を下げた。
フクは変わらず警戒を続けている。
「僕の元にいてくだされば、貴方達を守れます。
それには、ゼロユイさんが医者になるのが1番良いんです。
そこは理解していただけますか?」
フクはプイッと横を向いた。
可愛い仕草に笑ってしまう。
「流石に上手くいきませんね。
鳥と交渉するのは初めてでしたよ。」
その時、ゼロユイが寝返りをうった。
寝苦しそうに息をしている。
「すみません。
クッションを用意すれば良かったですね。」
ゼロユイの頭を自分の膝に乗せた。
ゼロユイの呼吸が少し整う。
「良かったです。」
頭を撫でる。
「それにしても、ゼロユイさんは本当に可愛いですね。
昔のセキさんにそっくりです。
フクさんには、ゼロユイさんはどのように見えているのでしょうね。」
ゼロユイは穏やかな寝息を立てている。
フクはじっとテーブルの上からこちらを見ていた。
「それにしても……フィナさんを知っていて驚きました。
あそこはお嬢様の家ですよ?
フクさんも一緒に行かれたのですか?」
フクに視線を移すが、フクは微動だにしない。
「お嬢様は認めた相手しか家に招きません。
ですが、ゼロユイさんはお嬢様を知っている素振りはなかった。
一体どういう事でしょう?」
外を見ると、空は少し曇っている。
ゼロユイに視線を戻した。
「貴方は僕のようになりたいと前におっしゃっていましたよね。
ですが、なりたいのは医者ではなかった……とても悲しかったです。」
ゼロユイは寒いのか少し身を縮こませた。
白衣を脱いでゼロユイの体にフワリとかけた。
「でも、僕は諦めきれません。
あなたは、きっと特別な子供……そうでしょう?」
「ギギー……。」
フクが低く鳴いた。
フクに穏やかに笑ってみせる。
「フクさん、もしゼロユイさんと、お嬢様の家に行く事がありましたら気をつけてくださいね。
フィナさんは問題ありませんが、お嬢様に気に入られたら、簡単には手放してくれません。
それに……この子はやはり、医者になるべきだと僕は思っています。」
その時、ゼロユイがぼんやりと目を覚ました。
だが、焦点は定まっていない。
「ホウッ!」
フクがゼロユイに飛びつくが、ゼロユイはこちらを見ている。
「ゼロユイさん、起きましたか。」
「コウさん……僕、医者になるの?」
「ええ、そうですよ。世界一の医者です。」
「なれる……かな?」
「大丈夫です。僕が全て用意します。
ですから、また僕の家に来てくださいね。
一緒に勉強しましょう。」
「うん……。」
ゼロユイはまた深い眠りに落ちていった。
ゼロユイの頭を膝から慎重に下ろす。
「さあ、フクさん。
今から帰りの馬車を手配しますから、バッグに隠れてください。」
立ち上がり、ドアノブに手をかける。
だが、すぐにフクに振り返った。
「そういえば、フクさん。
僕たちが病室を出る前に、セキさんとガイさんに挨拶をされていましたね。
貴方はとても慎重そうなのに……あれは、何故ですか?」
フクは答えず、じっとゼロユイの近くからこちらを睨みつけている。
「やはり、分かりませんね。」
軽く笑い、扉を静かに開けて部屋を出た。




